( 239351 ) 2024/12/25 18:30:59 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
経済的な状況が厳しかったり、単に手続きを忘れてしまったりなど、さまざまな理由で支払いが遅れてしまうことは誰にでも起こりえます。しかし、そのままにしておくと、後で大きな問題に発展する可能性があることをご存じでしょうか。本記事では、谷本さん(仮名)の事例とともに、年金の未納について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
85歳の谷本さん(仮名)は月16万円の年金を受け取りながら、慎ましく暮らしていました。数年前に長年連れ添った妻が亡くなり、寂しい気持ちを抱えながらも、生活費を節約しつつ、地域の友人との交流や趣味を楽しむ老後を送っていました。
同居する54歳の息子の隆弘さん(仮名)は、長年フリーランスとして働いていましたが、収入が不安定だったこともあり、国民年金保険料を未納にしていました。自宅には、隆弘さん宛てに日本年金機構から催告状のハガキや封書が何通か届いていました。しかし、自分の老後まで年金制度が成り立っているかわからない、もらえるかわからないものにお金を支払う必要があるのかと、不信感を抱いていたこともあり、長年滞納。今回届いた「赤い封筒」には、最終的な「差押予告通知書」と記載されていました。しかし、中身をしっかりと確認することもなく、なにも対応せずに放っておいていたのです。
年金未納…差し押さえの現場
差し押さえの手続きは、突然行われました。自宅に担当者がやってきて、いろいろ調べていきます。隆弘さんは貯金もほとんどなく、自分自身の財産もありませんでした。そのため、世帯主である父の谷本さんの銀行口座が差し押さえられる結果に。隆弘さんはまさか親の資産にまで影響するとは思いもよらず、狼狽えます。この件は、谷本さんの老後の生活に大きな影響を与えました。
「ごめん父さん。俺のせいだ……」隆弘さんは父に懺悔しました。
「赤い封筒」とは、日本年金機構が未納者に対し最終的に送る督促状です。これには未納期間や未納額・支払い期限・納付方法などが記載されています。しかし、「赤い封筒」が突然届くのではなく、未納者には段階的に電話での連絡やハガキや封書などで、通知が届きます。谷本さん親子の場合、隆弘さんの電話は個人のスマートフォンを使用。郵便物は息子の仕事関係のものかもしれないと、日常的に触らないようにしていたことから、谷本さん自身は息子の滞納を知らなかったようです。
また、未納回数が少ないときには、緑色の圧着ハガキで未納である通知が届きます。その後、青色の封書で催告状、黄色の封書、ピンク色の特別催告状からさらに段階的に赤色が濃くなり、最終的に「差押予告通知書」が届くことになります。
厚生労働省のデータによると、2023年度の国民年金未納率は約17%でとなっています。未納率の改善は進んでいるようですが、未納した場合、家庭の経済的リスクだけでなく、社会全体の年金財政にも影響をおよぼします。今回の谷本さん家族のケースでは、世帯主の口座が差し押さえられました。未納者本人が支払えない場合、世帯主や配偶者の資産にも差し押さえの対象となることがあります。「赤い封筒」の重要性を軽視してしまうと、今回のように差し押さえになることを考えておかなくてはいけません。
日本年金機構では、令和5年度の最終催告状送付件数が17万6,779件あり、督促状送付件数に至っているのは、10万2,238件。最終的に差押執行件数は、3万789件と督促状送付件数から3分の1以下であるものの、年間で3万件以上の差し押さえが実施されています。さらにこの強制徴収も厳格化されてくる傾向にもあるようです。
このような事態を防ぐには、早期の対応と計画的な資金管理が必要です。第一に、家族間で経済状況を共有し、未納や延滞があれば早めに相談することが重要です。年金保険料が支払えない状況であれば、全額免除や半額免除という救済制度もあります。今回のように「差押予告通知書」が届いた場合には、対応がなにもできなくなり、一括返済をしなければなりません。月の保険料額は、令和6年度では1万6,980円ですが、未納が長く続くことによって一括納付も難しくなるでしょう。
また年金制度は、自分の受け取る年金を現役時代に払っているのではなく、現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てる「賦課方式」が採られています。つまり、未納が多くなれば給付金にも影響していくことになります。さらに年金保険料を払わないと、自分自身の年金給付額が減少するかなくなることもあります。現役時代には、なにかしらの収入を得ながら、生活ができると考える人もいるかもしれません。しかし年齢を重ねると、現役時代の様に収入を得ることが難しくなることも考えられます。
また日本の年金制度は、年金給付水準は減少する可能性もありますが、「年金を受け取れなくなる」「年金額が大きく減ってしまう」というような、誤った情報を鵜呑みにせず、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用状況などを確認して、正しい情報を得ることも大切です。
先述した年金給付水準の減少とは、現在、マクロ経済スライドという今後の年金加入者や長寿化を加味した調整が行われているために、物価上昇や現役世代の給与の増加よりも年金受給額の上昇率が低くなることで、金額は増えても、実質の給付額は目減りします。そのため、公的な年金をベースに自助努力で不足分を準備していくことも重要でしょう。
さらに、ファイナンシャルプランナー(FP)などのお金の専門家に相談することで、世帯全体の資金計画を最適化し、将来のトラブルを回避することが可能です。日本年金機構から届く通知を無視せず、早期に行動することが、大きなトラブルになることを回避する大切なことになります。
〈参考〉
厚生労働省「令和5年度の国民年金の加入・保険料納付状況」 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/dl/k_r05.pdf
日本年金機構「日本年金機構の取り組み(国民年金保険料の強制徴収)」 https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/kyoseichoshu.html
吉野 裕一
FP事務所MoneySmith
代表
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