( 239359 )  2024/12/25 18:41:52  
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アメリカのバイデン大統領は、日本製鉄によるUSスチール買収に反対しており、これに対してトランプ大統領は日本側の主張に賛成の姿勢を示している。

USスチールの買収には民主党・共和党双方が反対しており、トランプ大統領が日米同盟を重視し、政治介入を避ける方針を示している。

 

 

一方、テスラがトヨタを買収する提案には、SDV技術、自動運転技術、ギガファクトリー技術など、株主に対する3つのメリットが存在している。

テスラのSDV技術は注目されており、トヨタなど伝統的自動車メーカーが後れを取っていることが指摘されている。

また、テスラの買収により技術移転が可能で、株主にとって将来のリターンが変わる可能性がある。

 

 

このような買収が成立すれば、日本の自動車業界においてトヨタが優位に立つことで勝ち組となり、他社の社員はうらやむ状況となる可能性がある。

しかし、創業家や日本政府はこの買収を慎重に検討する必要があり、特に日本政府が反対すればテスラのCEOであるイーロン・マスクの対応に注目が集まるだろうと述べられている。

整理すると、日本の経済が沈む可能性もある中、トヨタ株主には買収がメリットとなる可能性が示唆されており、日本政府の対応が注目されると共に、テスラのCEOの戦略方針も重要視されている。

(要約)

( 239361 )  2024/12/25 18:41:52  
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テスラのイーロン・マスクCEO Photo/gettyimages 

 

日本製鉄によるUSスチール買収についてアメリカのバイデン大統領は、公式に反対の意見を表明しています。 

 

前編『もしテスラが「トヨタを買収したい」と言い出したら、日本政府はどうすればいいのか…?』で解説してきましたが、背景にはUSスチールのライバル企業がペンシルバニア州にあって、この企業がUSスチールの競争力が向上すると業績が悪化することを懸念しているのです。 

 

ペンシルバニア州が大統領選挙の激戦州であったことから、民主党・共和党両党ともUSスチールの買収に反対していたのです。USスチールの買収に反対したのはトランプ大統領の方が先でした。 

 

トランプ新大統領が誕生して、石破首相との間の会談で日本製鉄の問題が話題になれば、日本側は、日米が同盟国であることを前提に両国は国益を超えて協力すべきだし、過度に自由経済の原則に介入しないほうがいいとアピールするかもしれません。 

 

そこでトランプ大統領は日本の主張に大きくうなずき、同盟国同士は買収に政治介入をしない原則を私も確認したと言い出し、バイデン前大統領が決めた日本製鉄阻止に関する決定をすべて無効にすると約束してくれるかもしれません。 

 

日本政府の代表団は、日本製鉄のUSスチール買収が前進したことに安堵を覚えるでしょう。しかし、もしそうなれば、ホワイトハウスではトランプ大統領の腹心となったイーロン・マスクが笑みを浮かべているかもしれません。 

 

「これで日本政府は、テスラのトヨタ買収に反対できなくなった」と……。 

 

テスラとトヨタが統合するメリットは大きい Photo/gettyimages 

 

日本製鉄のUSスチール買収同様に、テスラによるトヨタの買収提案は株主に対しては合理的なメリットが少なくとも3つあります。 

 

1つはSDV(software defined vehicle)技術の供与。2つめに自動運転技術の供与。そして3つめがギガファクトリー技術の供与です。 

 

テスラと中国のBYDの躍進に関して、日本ではEVであることが報道で取り上げられることが多いのですが、関係者の間ではむしろ両社のSDV技術が注目されています。 

 

SDVとは、ひとことで言えば「ソフトウェアをダウンロードすれば性能があがる自動車」のことです。スマホのようにOSやアプリがアップデートされると性能があがるのです。 

 

実際、テスラの乗用車では同じモデル3で、新車でも3年前に販売された車でもソフトウェアさえアップグレードすれば同じ自動運転性能の車になります。一方でトヨタをはじめとする伝統的自動車会社は、このSDVのOS開発で後手を踏んでいます。 

 

開発がうまくいっていないため、スケジュールが遅れに遅れ、直近では2026年発売の新車からようやくSDV車がデビューするというのが計画の最短スケジュールです。現在進行形の開発ではそれが遅れるリスクがありますが、テスラの投資があればそれとは別に並行してテスラのOSを移植する新車を開発することが可能になります。 

 

二番目のテスラの自動運転の性能については諸説ありますが、少なくともトヨタ方式とは別のAI能力が選択肢のひとつに入るのは買収のメリットに数えるべきことでしょう。 

 

三番目の要因に関しては、生産コストの面では長らくトヨタのカンバン方式が世界の自動車工場の生産性のトップに君臨してきましたが、現在ではテスラと中国にそれぞれ別の理由で抜かれています。 

 

中国の自動車メーカーが低コストなのは主に人件費など要素コストの安さが反映された結果ですが、テスラが低コストな理由はギガファクトリーの巨大さに理由があります。そしてテスラの方式は伝統的な自動車メーカーに移植可能なのです。 

 

それらの技術移転の可能性を考えた場合、株主から見ればテスラがトヨタを選ぶのか、それともGMやVWを選ぶのかで将来のリターンが大きく変わります。 

 

この点で見れば実はトヨタの株主は他のビッグ5の株主よりもアドバンテージがあります。というのもテスラからみて、一番抵抗が少なく買収後の経営統合が進められるのは日本企業だからです。 

 

考えてみるとわかりますが、GMとフォードは組合がうるさいですし、VWの経営陣は頑固で言うことを聞きません。ステランティスは傘下企業の国籍が多すぎる。 

 

それと比べればトヨタの場合は現経営陣は買収に抵抗するでしょうけれども、総会で経営メンバーを入れ替えてしまえば、あとは日本人なので比較的従順に新しい経営者の方針を聞いてくれるはずです。 

 

テスラから見れば、トヨタを買収する最大の価値は人的資本です。あれだけの数の優秀な日本人のビジネスパーソンを取得できるのです。それが年間1000万台の販路と推計で6000万人を超える顧客資産とともにPBRほぼ1.0倍の破格の条件で手に入ります。 

 

こんなお得なディールは他にはないでしょう。 

 

 

トヨタの従業員から見てもこの買収が成立すれば、その時点で自動車業界での勝ち組の地位が確定します。 

 

脱炭素条件下での世界競争次第では、中国勢に敗れて東芝やシャープのような道をたどる可能性がある日本の自動車業界ですが、少なくともトヨタだけは勝ち組が確定します。 

 

日産、ホンダの社員はそれをうらやむことでしょう。 

 

この買収提案に本当の意味で反対しなければならないのは、創業家と日本政府です。創業家である豊田家が買収に反対するのは当然として、国益を考えたらもっと深刻なのは日本政府です。というのもイーロン・マスクの戦略方針次第で、ティア1以下の日本の部品メーカーたちは壊滅的な状況に落ち込むことになるからです。 

 

そこで日本政府が経済安保を理由に買収に反対するとします。 

 

するとトランプ大統領はにやりと笑いながら言い返すでしょう。 

 

「国益よりも同盟国の絆を信じて、自由経済の原則を重視しろと言ったのは日本じゃないか?」と。 

 

日本政府は、「トヨタはダメだがマツダならなんとか」と言うかもしれません。 

 

しかしイーロン・マスクは、「弱小企業など買う気はない」とけんもほろろな対応を見せるでしょう。 

 

なにしろトヨタがだめなら他のビッグ5かそれともBMWか韓国の現代か、いくらでもベターな選択肢はあります。 

 

日本が拒否するなら、日本経済が完全に沈む選択肢を選ぶ権利が彼にもあるのです。 

 

経営統合に向けて協議を続けているホンダの三部敏宏社長(右)と日産の内田誠社長 Photo/gettyimages 

 

このシミュレーション、私も何度か頭の中で考えましたが、私の結論はそれでも日本側が買収を拒否して終わるだろうというものでした。トヨタと自動車産業は日本にとって最大の国益だからです。 

 

一方でひょっとするとホンダは日産と経営統合後に自ら、テスラへの身売りを考えているかもしれません。 

 

なにしろホンダの三部敏宏社長は、「あらゆる可能性を検討している」と明言しているくらいですから。 

 

さらに連載記事『トヨタにピンチ到来か…「EV大逆風」の“最大の落とし穴”が発覚!EVに乗ってみてわかった、「EV時代は意外と早くやってくる」と確信した3つの現実』でも、EV時代のテスラの存在感を解説しているので、参考になさってください。 

 

鈴木 貴博(経営戦略コンサルタント) 

 

 

 
 

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