( 239846 ) 2024/12/26 17:32:02 0 00 (写真:ブルームバーグ)
「10・27衆院選」での大躍進で一躍「時の人」となった玉木雄一郎・国民民主党代表(役職停止中)の勢いが止まらない。衆院選での“国民的推し活”の対象となった「玉木党」が、圧倒的野党第1党の立憲民主を押しのける形で石破茂政権を揺さぶっていることに、「多くの国民が拍手喝采で後押ししている」(政治ジャーナリスト)からだ。
選挙戦で「若者をつぶすな」「手取りを増やせ」と叫び続けて議席を4倍増させた玉木氏は、選挙直後の「不倫」発覚をものともせず、その後の「宙づり国会」で持論の「103万円の壁」の大幅引き上げを狙うことで、「与野党攻防の主役」(同)を演じ続けている。
ただ、“聖域”とされてきた自民党税調の抵抗もあって、中央政界では「決着が次期通常国会に先送りされたことで、攻防の構図が変わる」(自民国対)との見方も広がる。
というのも、「自民党も覚悟していた『年内円満決着』が実現しなかったのは、国民民主内のガバナンス欠如が最大の要因で、交渉役の古川元久代表代行と玉木氏とのあつれきが協議進展を阻んだ」(自民税調幹部)との厳しい指摘が少なくないからだ。
このため、「強かな自民党は、通常国会では国民民主の複雑な党内事情を踏まえ、じわじわと玉木氏を追い詰めていく戦略」(自民長老)とされ、税制専門家から「壁引き上げを巡る“玉木現象”も、そろそろ賞味期限切れ」(有力経済学者)との声も出始めているのが実情だ。
■「交渉越年」で玉木氏が「150万円」に言及
大波乱が想定されていた少数与党下での臨時国会が、結果的に平穏理に閉幕した24日、玉木氏はMBSテレビ生情報番組「よんチャンTV」にVTR出演し、「103万円の壁」引き上げを巡り「150万円まではいかないと」などと、具体的な目標金額に言及した。これについて自民税調関係者は「要するに、150万円が実現すればゲームは終わりということ」(幹部)と苦笑した。
そもそも、「壁」引き上げを巡る自公国交渉は、国会閉幕に合わせて24日に行われる予定だった。しかし、直前になって「宮沢洋一自民税調会長の日程が取れない」(自民執行部)ことを理由に、協議自体が年明け以降に先送りとなった。
これについて玉木氏はすかさず自身のX(旧ツイッター)を更新。その中で「この協議以上に重要な日程があるのか。税調会長お一人の都合で予定されていた大切な会議をとばしてしまうとは、やはり自民党の税調会長の力はすごいんですね。驚きました」と皮肉たっぷりに批判した。
■24日の自公国交渉先送りは宮沢氏の“一人芝居”
ただ、この日程先送りについては、関係者が「そもそも、23日夜の段階で、自公国の幹事長や担当者間で、『年明け以降に先送りしたほうがいい』との声が強まり、それを受けて宮沢氏があえて“悪役”を引き受けた」(自民政調幹部)としたり顔で解説。
宮沢氏周辺も「協議開催には、まず、17日の協議でいきなり打ち切り宣言をした古川氏の謝罪を求めたのに応じなかった」(税調有力インナー)と裏舞台を明かした。ただ、「全ては水面下のやり取りで、関係者以外は真偽を確かめようがない」(同)ともいえる。
そこで、「衆院選後の最大の政治課題」ともなった「壁」引き上げを巡る自公国協議の経緯を子細に検証すると、「各党幹部や情報番組のコメンテーターらが気づかなかった自民の戦略が浮かび上がってくる。その最大のポイントは、11月上旬の特別国会閉幕に合わせた自民税調の新体制づくりだった」(自民長老)とみられている。
確かに、税調新体制が決まったのは11月6日。当然、会長の宮沢氏が森山裕幹事長らと協議して決めたものだが、宮沢氏はまず、それまで「税調インナーのドン」だったが衆院選で落選した税調顧問・甘利明元幹事長の後任に森山氏を指名し、同氏も即座に応じたとされる。
■“極秘作戦”は「11・6税調インナー人事」が発端
「現職幹事長の税調顧問就任は過去に例がない」(税調事務局)とされる人事だが、森山・宮沢両氏は他のインナーの顔ぶれについても、新たに小渕優子党組織運動本部長、斎藤健前経済産業相、小林鷹之元経済安保相らを指名した。この顔ぶれについても関係者は「総裁選結果を踏まえて、党内の反石破勢力も取り込んだ巧妙な人事」(同)と指摘する。
確かに、小渕氏は旧茂木派幹部だが茂木氏とは距離があり、小林氏は高市早苗前経済安保相の“弟分”だ。さらに、総裁選で小林氏を担いだ福田達夫幹事長代行も再任したことで、「事実上の挙党態勢の陣容」(同)となったことは間違いない。
森山、宮沢両氏が秘かに画策した「壁」引き上げでの「対玉木戦略」は①まず、財務省にも根回しして低めの回答を提示し、国民民主の反応を見極める②財源不足を理由に最大限の譲歩案を示す③国民民主が納得せざるを得ない引き上げ額を提示する際は、国民民主に税源確保の責任をとらせるーーというのが骨格だったという。
確かに、その後の展開をみると、②が17日の決裂につながったのは間違いなく、最終決着の期限となる来年2月末に③を実行すれば、通常国会での石破政権崩壊は回避できる可能性が広がるとみられる。このため、事情を知る自民幹部からは「まさに『企画演出・森山、演技者・宮沢』という戦略通りに進んできたので、年明け以降への交渉延長も思惑通り」(自民執行部)との声も漏れてくる。
そこで、森山、宮沢両氏にとっての不安材料となるのが「国民民主のガバナンス欠如で2月末になっても交渉がまとまらず、来年度予算案の衆院通過が3月上旬以降にずれ込むリスクがある」(自民国対)ことだ。
ただ、予算成立の遅れで政府が暫定予算編成に追い込まれる事態となれば、能登関連予算の執行が遅れるだけでなく、給与引き上げも含めた国民経済への悪影響も避けられず、「衆院予算委を仕切る立憲民主の安住淳委員長の責任問題にもなるので、安住氏は暫定予算回避に動くはず」(自民国対)とも期待する。
■石破首相の対応次第で「戦略崩壊」も
このため、森山・宮沢両氏は「ぎりぎりまで暫定予算もやむなしとの態度を変えず、国民民主を追い詰める戦略を固めている」(同)とされる。ただ、「肝心の石破首相が国民世論を気にして、玉木氏との党首会談などを通じて変な妥協をすれば、戦略が破綻しかねない」(政治ジャーナリスト)ことも想定される。
さらに、巨額裏金事件での旧安倍派会計責任者の国会招致や証人喚問で与野党攻防が混乱すれば、「『壁』引き上げどころか、自民党内で石破首相の退陣論も出かねない」(同)こともあり、「2月中旬以降の対国民民主の交渉は、出たとこ勝負の“遭遇戦”になる」(同)ことは避けられそうもないのが実態だ。
泉 宏 :政治ジャーナリスト
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