( 240331 ) 2024/12/27 17:04:58 0 00 11月に都内で開催されたデンキョーグループホールディングスの製品展示会。世代を超えて広がる「推し活」は企業にとって大きなビジネスチャンスとなっている(記者撮影)
「妻が自身の使える金額を超えてグッズなどを買ってしまう。コンサートのチケットを当てるためにも膨大な時間を費やしているようだ」(群馬県・40代男性)
2024年11月から12月にかけて、東洋経済が行ったアンケート調査には、「推し活」についての生々しい意見が幅広い世代から数多く寄せられた。
何らかの「推し」がいるという人は30代以下の男女で3割を超え、50代や60代でも男女とも2割に近い水準に達している(博報堂「オシノミクスレポート」)。もはや推し活は若者だけにとどまらず、世代を超えた社会現象となっている。
日本におけるコンテンツビジネスの発展に詳しい中山淳雄氏は「『推し活』と同じような活動は1980年代からあるが、例えばアイドルグループの人数が増えたように、当時と比べて対象が多様化し、インターネットによってファン自身が直接コンテンツに参加できるようになったことが大きい」と解説する。
■「沼落ち」してどうなった?
「1億総推し活ブーム」の感があるが、問題も広がりつつある。東洋経済のアンケート調査では、自分自身や周囲の人が推し活をしていると回答した人の内、約4割が推し活についての支出が経済的な負担だと感じていることがわかった(下図)。
世代別に見ると、所得が低いと見られる若い世代ほど負担感が強い。「最近、韓国アイドルのライブ公演頻度が高すぎ、かつチケット代も高いので、ツアーの度に公演を観に行くことが難しい」(10代・女性)といった回答が多くあった。
ほかにも同じく10代の女性から「メンズ地下アイドルやコンセプトカフェなど、未成年が立ち入ることができる場所で、高額なお金をキャストに貢いでる同級生がいる。中学生の頃から通いつめている人もおり、未成年が立ち入れないはずのホストなどと変わらない実態だ」との回答もあった。
博報堂の調査によれば、10代女性は可処分所得の半分以上を推し活に費やしている。さらに別の調査では、若年女性が推し活のために「工夫している」支出として最も多いのが食費であることも判明している(auじぶん銀行「20代から30代の働く女性の推し活に関する調査」)。
■配偶者の推し活を心配する男性多数
自分自身だけではなく、家族や友人が推し活をしているという人も多い。特に突出しているのが自身の性別を男性と答えた人が、配偶者が推し活をしているというパターンだ。
東洋経済にID登録をしている人が対象のアンケート調査のため一定の偏りが出ている可能性もあるが、男性の回答では「自分自身」という回答に次いで高い比率だった。
例えば東京都在住の70代男性からは「年金生活の中で配偶者が比較的裕福な友達と推し活グループを作っている。『金銭的にきつい』思うときがある」との回答があった。
ほかにも友人が推し活をしているという70代の男性(千葉県)からは「本人はとても良い人なのですが、生涯生活設計と言う観念も無く、遺産相続がAKBの興隆期と重なったのが不運だったのか、全てを推し活に注ぎ込んでしまい、生活破綻目前になっているようだ」という回答もあった。
推し活によって活力を得ているという回答も多数寄せられた一方で、費用負担が幅広い世代で問題化している実態が浮かび上がってきた。
推し活と一口に言っても対象はさまざまだ。そこでお金の使い道を質問してみると、最も多かったのがグッズの購入費だった。次いでイベントの参加費、CDやDVDなどの購入費という順に回答が多かった。
自由回答からは、より具体的な支出の実態がわかってきた。「乃木坂46のファンであるため、ライブの交通費やイベント限定のグッズ、オンラインサロンでの投げ銭等が負担が多いと感じる」(40代男性)。
「BTS 来日時のハイタッチ会など。多くCDを買ったほうが当選率が上がるので、アルバム3枚購入しましたが落選。300枚購入した方もいて、そこまでは買えないと線引きはしています」(40代女性)などの回答があった。
■「推し活」の光と闇
さらに、東洋経済ではアンケートの回答者に「推し活で困っていること」を自由回答で質問した。すると、こんな回答が寄せられた。
「推し活の為に借金もしており、かなりの負担」(自身が推し活をしている30代男性)
「アイドルグループ、スノーマンのコンサートに行っては、凄い量のグッズを買ってくることが負担に感じる。学校よりも推し活優先になっている」(子供が推し活をしているという50代男性)
「推すことに必死になり過ぎたり依存しすぎたりして回りが見えなくなる人がおり、友人関係を断ちたくなることがある」(自身が推し活をしている50代女性)
インターネットやゲーム、ギャンブルなどへの依存症に詳しい精神科医の西村光太郎氏は「推し活にのめり込んでしまい、多額のお金を払ってしまうのはある種の人間関係依存症だ」と話す。
「社会生活を維持していく上で問題のない範囲なら個人の自由だが、一線を越えてしまうと歯止めがきかない。アルコールやギャンブルへの依存症と構造は同じ」と西村医師は警鐘を鳴らす。
■国は前のめり
推し活ブームは、まだまだ続きそうだ。コンテンツ産業の育成に向けて、政府も鼻息が荒い。
推し活の対象は、ゲーム、音楽、アニメ、映画など幅広い。政府は2024年6月に「新たなクールジャパン戦略」を策定。9月にはコンテンツ産業官民協議会が立ち上がり、11月には業界関係者を集めた「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」が経済産業省に設置された。
経済産業省の試算によれば、周辺ビジネスまで含めたエンタメ産業の規模は100兆円規模という。
経済産業省の佐伯徳彦・文化創造産業課長は「韓国や中国のエンタメ産業が積極的に海外に進出して成長している一方で、これまで日本のエンタメ産業は、海外売上高は大きく伸びているものの、海外拠点を持っておらず、国内市場が成長の中心であった」と指摘する。
その上で、「アニメやゲームはもちろん、音楽や映画など日本のさまざまなコンテンツを北米や中国、アジアなどの成長市場でもっと積極的に展開する必要がある。政府として必要な支援をしていきたい」と話した。
今後はエンタメ産業全体の規模拡大に向け、主に海外展開の加速などに焦点を当てたアクションプランを2025年春頃メドに決定する予定で、急ピッチの議論が進んでいる。
連載「沸騰! “推し活”経済圏」では、推し活ビジネスにチャンスを見いだした企業、新たな推し活消費、過熱する推し活に翻弄される消費者の実態など、推し活の最前線を追いかけていく。
梅垣 勇人 :東洋経済 記者
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