( 240341 )  2024/12/27 17:17:33  
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(写真:うまいもん/PIXTA) 

 

バターはいいけど、マーガリンは健康に悪い、オーガニック食品は安心で、中国産の食品は危ない……。ネットやテレビ、あるいは知人などの会話から、私たちは日々食品に対するさまざまな情報を仕入れ、中にはそれが“常識”となっているものもある。しかし、私たちが盲目的に信じている食品に関する情報ははたして本当なのか。 

本稿では、科学ジャーナリストの松永和紀氏著『食品の「これ、買うべき?」がわかる本』より一部抜粋・編集して、中国産の食品および農薬や食品添加物の安全性についてぞれぞれ紹介する。 

 

■問題多発によりイメージ悪化 

 

 輸入食品の基準は緩く、国産食品のほうが安全……。そう考えている人が少なくないようです。しかし、輸入と国産で基準は同じ。外国で作られてきた食品も輸入されて国内に入ったら、国産と同じ基準をしっかり守らないといけません。 

 

 輸入食品の中でとくにイメージが悪いのは中国産です。それも無理からぬこと。中国産食品は2000年代初頭、冷凍ほうれん草に大量の農薬が残留していたり、うなぎから発がん性の疑いがある抗菌剤が検出されたり、さまざまな問題が起きました。 

 

 2008年はじめには、中国産餃子を原因とする薬物中毒事件が発覚。工場で従業員が故意に農薬を投入していました。中国産に対する不安が高まり、週刊誌などで盛んに報道されました。 

 

 でも、中国は日本の輸入相手国としてもっとも大きく、輸入件数の3~4割を占めています。水産物やその加工品が多く輸入されているほか、そば、あずき、野菜、きのこ、さまざまな農産加工品も大量に入ってきています。中国なしでは、日本の食卓は成り立ちません。 

 

 中国にとっても日本は大事な“お得意様”です。そのため、中国政府は規制を強化し安全性の改善に取り組みました。また、中国側と取引する日本の輸入商社や食品メーカー、生協なども、中国側の生産者や加工事業者などの指導や製品検査などに取り組みました。 

 

 問題が生じると日本企業や生協自体の大きな損失やイメージダウンにもつながるので、日本側も必死です。厚生労働省や自治体の検査も、中国に対して厳しく行われるようになりました。 

 

 

■輸入品検査の違反率は他国より低い 

 

 これらの結果、中国産食品の安全性は高まり、厚生労働省の輸入食品検査での違反率は、他国も含めた平均違反率よりも低くなりました。その状況が10年以上続いています。 

 

 輸入食品については現在、輸出国段階と輸入時、国内の流通時という3つの段階安全確保策がとられています。輸出国政府が日本向けの生産や加工などを指導したり証明書発給などをしており、日本の厚生労働省も相手国と協議して対策を講じたりしています。 

 

 輸入時には、厚生労働省が「輸入検疫」として事業者に書類を提出させチェックし、検査もしています。国内では、都道府県などが店頭の食品を検査するなどして、違反品を見つけています。 

 

 これらの調査結果などを見る限り、国産食品と輸入食品に安全性の違いはありません。 

 

 私は餃子事件の後、何度か中国を訪問して日本向け野菜の栽培地や冷凍加工工場などを視察しましたが、日本国内の工場よりも安全管理のレベルは上、と思うことがしばしばありました。中国人と日本人が共同で取り組んでいるのです。 

 

 日本の食料自給率はカロリーベースで38%しかありません。日本で休耕地を農地に変え生産をがんばったところで、日本の1億2000万人強の食品生産をまかなうにはまったく足りません。 

 

 水産物も十分な量はとれません。輸入食品、中国産食品も、日本人の食卓を助けてくれる大切なパートナーです。偏見のない目で見てゆきましょう。 

 

■農薬や食品添加物は「体に悪い」のか 

 

 農薬や添加物もまた「危険」というレッテルを貼られがちです。 

 

 農薬や食品添加物は化学物質の一種であり、どれくらい摂取するかによって体への影響が大きく変化します。そのため、安全性の確認は、非常に慎重な手続きによって行われます。 

 

 まず、複数の動物に食べさせる試験を行って、「その動物が毎日食べてもどこの臓器や体の部位にも悪影響が認められない、体重1㎏あたりの量」を求めます。このとき、通常はマウスやラットというネズミの仲間などを用いて試験をします。この量を「無毒性量」と呼びます。 

 

 

 もちろん、この動物の無毒性量をそのままヒトに当てはめるわけではありません。動物たちが平気な量でも、ヒトには害があるかもしれないからです。また、ヒトには個人差もあり、反応の程度も異なるはずです。 

 

 そのため、無毒性量の100分の1の数字を通常、ヒトの許容1日摂取量(ADI)とします。これは、一生涯、毎日食べても体への悪影響が出ない量です。科学者たちがさまざまな試験を重ねながら時間をかけて構築したこのやり方の信頼度は高く、どの国でもこの方法がとられています。 

 

 各国政府は、国民が1日にさまざまな食品を食べ水を飲んでも、トータルの推定摂取量がこのADIを超えないことを確認したうえで、各食品における農薬や食品添加物の基準、栽培時の農薬の使ってよい作物、使い方、使う量や、食品加工時の添加物の使い方など、ルールを非常に細かく定めています。 

 

 また、残留農薬や添加物の基準値は、子どものことを考えて決められていないのでは?  とよく尋ねられます。そんなことはありません。 

 

■子どもへの影響は入念に検査されている 

 

 たとえば、農薬においては動物を用いて、妊娠前からオス、メス両方に農薬を食べさせて出産後も離乳するまで投与し続け、親と子に出る毒性を調べる「2世代繁殖毒性試験」が行われます。 

 

 妊娠期にずっと食べさせて胎児の死亡や奇形、発達遅延が起きないかなどをみる「発生毒性試験」「催奇形性試験」、妊娠動物に農薬成分を投与し続け、生まれてきた子どもの脳の発達、学習能、性成熟などを調べる「発達神経毒性試験」なども行われ、どの試験でも毒性が見出されない「無毒性量」を決定します。 

 

 そのうえで、動物とヒトの違い、ヒトにおける個人差、つまり子どもから高齢者までという年齢や障害の有無などの違いも加味した「安全係数」で無毒性量を割って、ADIを決定します。 

 

 子どもへの影響も入念に考慮されているのです。実際の食品を分析した調査でも、子どもの摂取量はADIよりかなり低いことがわかっています。 

 

松永 和紀 :科学ジャーナリスト 

 

 

 
 

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