( 241011 ) 2024/12/29 03:25:32 0 00 インド出身で亀田製菓会長CEOのジュネジャ・レカ・ラジュ氏 Photo:JIJI
連載「情報戦の裏側』をフォローすると最新記事がメールでお届けできるので、読み逃しがなくなります。 ● 「雑な情報操作」に引っかかる ピュア日本人が恐ろしい
年の瀬に背筋が冷たくなるような騒動が起きた。
亀田製菓の会長CEOを務めている、インド出身のジュネジャ・レカ・ラジュ氏が、メディアのインタビューで「日本はさらなる移民受け入れを」と発言をしたとして炎上した。さらに、同社の米菓製品の一部が「中国産」ということも燃料となって、目も当てられない大炎上になってしまった件だ。
その被害は凄まじく、インタビュー翌日、亀田製菓の株価は大きく下落し、ネットやSNSでは「亀田製菓不買」を呼びかけている人もいる。
「日本のソウルフードである米菓の大手メーカーが外国人経営者になっていたことも驚きだが、平然と日本社会を破壊するようなことを主張しているのが本当に恐ろしい。移民を受け入れた国が悲惨なことになっている世界の常識を知らないのか!」
そんな調子でハッピーターンやソフトサラダのボイコットをされている方たちには大変申し上げづらいのだが、筆者が背筋の冷たくなっているポイントはそこではない。
純粋で心優しい日本人たちがこんな「雑な情報操作」にいとも簡単に操られ、激しい敵意をムキ出しにしているという事実が恐ろしいのだ。
このスキームが悪用されれば、特定の国や民族、主義主張の人たちへの憎悪を煽って「排斥運動」を仕掛けることや、最悪の場合、過激化した人を実際に「テロ行為」に走らせることも可能となってしまうからだ。
「はいはい、そうやってオールドメディアの連中はすぐにヘイトだ差別だと理屈をつけて、ネットやSNSが暴いた真実をデマとか陰謀論とかで片付けるんだよね」と冷笑する方も多いだろう。しかし、今回のケースは、そんなみなさんが毛嫌いしているオールドメディアの典型な「スピンコントロール」にまんまと乗せられた形だ。
愛国心溢れるみなさんの怒りに火をつけたのは12月16日に配信された『インド出身の亀田製菓会長「日本はさらなる移民受け入れを」』(AFP通信)という記事だ。しかし、この中でも、記事と同時に配信されたインタビュー動画の中でも、ラジュ会長CEOは「日本はさらなる移民受け入れを」なんてことは一言も言っていない。動画内の発言を引用しよう。
「日本は変わらなければいけないと思います。もちろんバックグラウンドは変えられませんし(日本での)自分たちのバックグラウンドを誇りに思います。ただ日本にとっては柔軟性を持って海外から人材を受け入れることが極めて重要になるでしょう」
この発言と「移民受け入れ」がまったく異なることは言うまでもない。例えば今年3月、岸田政権は「特定技能」外国人の受け入れ枠の上限をこれまでの2倍超となる82万人に設定、新たに自動車運送業、鉄道など4分野を追加した。これは日本政府としては「海外から人材を受け入れる」ということに過ぎず、「移民受け入れ」ではないというスタンスだ。
40年前から日本で生活して日本国籍を有しているラジュ会長CEOはもちろんこの2つの違いはよく理解している。本当に「日本も移民をじゃんじゃん受け入れろ」と思っているのなら、移民(immigration)という言葉を使うはずだが、そうしていないということは、日本政府が推進している「海外から人材を受け入れる」という政策をさらに加速すべきだと言っているに過ぎないのだ。
● 「欧州の問題=世界の問題」 という身勝手なバイアス
さて、そうなると「なぜ本人が言ってもいないことがニュースになるんだ?」という疑問が浮かぶだろう。「PV狙い」「翻訳ミス」などいろんな可能性が浮かぶだろうが、筆者から言わせれば、ここにこそ「オールドメディア」ならではという構造的な問題がある。
今回の亀田製菓会長の「移民拡大発言」を報じたのは、AFP通信。フランス・パリで1835年に設立されたハヴァス通信社を前身とする世界最古の通信社で、海外支局を150カ国以上に持つ、世界的報道機関である。
そう聞くと「そんな立派なところなら本人が言ってもいないことを報じるわけがないだろ!」と思うかもしれないが、それが勘違いのもとだ。どんなに歴史があろうとも、どんなに支局がたくさんあろうとも、報道というものは人間がつくっている以上、そこには必ず「意図」というものが介在してしまう。そのため悪意なく、取材した事実を自分たちの都合のいいようにねじ曲げてしまう傾向があるものなのだ。
では、AFP通信の場合どんな「意図」かというと、一言で言えばニュースの切り取り方に「欧州の価値観」が押し付けられてしまう。欧州メディアなのでどうしても欧州中心で物事を考えて、「欧州の社会問題=世界の社会問題」というバイアスがかかってしまう。
その代表が「移民」だ。AFP通信のあるフランスでは全人口の10%が移民となり、治安の悪さや貧困率、人種差別などさまざまな問題が起きている。欧州全体でも移民は頭の痛い問題だ。そういう社会問題を抱える欧州のメディアなので当然、「移民」はキラーコンテンツとなる。世界中の支局もその価値観に引きずられ「移民コンテンツ」が量産されていく。最近でもこんな感じだ。
英人口、過去最大1%増の6830万人 移民が押し上げ(ロンドン 2024年10月9日) 移民強硬派ホーマン氏「国境管理トップ」復帰へ トランプ次期政権(ワシントン 2024年11月11日) マスク氏、移民問題でイタリアの判事を非難 野党は内政干渉と反発(ローマ 2024年11月13日) ここまで言えばカンのいい方はもうお分かりだろう。このバイアスこそが、ラジュ会長CEOの「海外から人材を受け入れる」という発言が、「移民を受け入れ」に変換されてしまった理由である。
そもそも、「欧州の価値観」に照らし合わせれば、日本政府やラジュ会長CEOがいう「海外から人材を受け入れる」ということは「移民政策」以外の何ものでもない。日本の価値観では両者は違いがあるので、日本のメディアはさすがにこういうダイナミックな「意訳」はしないが、欧州のメディアからすれば「だって同じことでしょ?」の一言で片付けられてしまうのだ。
メディアの中で働いたことがある人間ならば、こういうバイアスは身をもって体験しているものなので、「ああ、このメディアはこういうニュースで社会に問題提起したいのね」という意図がある程度読める。アメリカ人もそうで、多くの国民はメディアに「意図」があることを理解している。保守系、リベラルでメディアの論調は180度異なるからだ。実はこれは中国人も同様で、「人民日報」を読むとほとんど人たちは「ああ、共産党は今こういうプロパガンダをしているのね」と冷ややかな目で見ている。
しかし、日本人はちょっと事情が違う。多くの国民は、「お客様第一主義」みたいなスローガンにすぎないメディアの「中立公正」を真に受けてしまって、世界的に見ても「異常」というほどマスコミへの信頼度が高い。例えば、2017年から20年の「世界価値観調査」で先進国のマスコミ信頼度を見ると、アメリカは20%台、欧州は30%台なのに日本だけが60%台である。
そういうピュアな国民がゆえ、簡単に操られてしまう。
オールドメディアだろうが、ユーチューバーだろうが、匿名のSNSアカウントだろうが、「わかりやすいストーリー」を吹聴されるとすぐに信奉者になる。しかも、タチが悪いのはピュアがゆえ、その「正義」を広めようと、異なる考えの人間たちに制裁を加えようとすることだ。その典型がネットリンチだが、今回はそれが「不買運動」となったというワケだ。
「いやいや、確かに会長CEOの発言はちょっとした誤解があるかもしれないが、亀田製菓が中国産であることは多くのネットユーザーが突き止めている事実だ。不買運動は誰にも操られているわけではなく自分たちの意志だ!」という猛烈なお叱りを受けるだろうが、その話もちゃんと検証をした話なのかという問題がある。
● パッピーターンはもう食べない! 「中国産」に怒る人が知らない現実
亀田製菓の中で「中国産のもち米」を原材料にしているのは「梅の香巻」だけだ。「柿の種」の米粉も国産だし、ハッピーターンのうるち米は米国産と国産のブレンドだ。
しかも、この「梅の香巻」は中国で製造をして、日本に輸入している。もともと亀田製菓はグローバル食品カンパニーを目指しており、1989年から北米に進出しているだけではなく、2003年に中国・青島に製造拠点として「青島亀田食品有限公司」を設立している。
今回こうやって鬼の首をとったかのように「亀田製菓は中国産を使っていたぞ」と大騒ぎをしているが、探そうと思えば亀田製菓以上の中国産を使っているメーカーなど日本には山ほどある。昨日もスーパーで買い物がてら、売り場にある菓子を確認したが、「中国産原料」を用いていたものをちょこちょこ見つけられた。これは当然だ。
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