( 241269 )  2024/12/29 15:56:55  
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名古屋市では、エスカレーターを利用する際に片側を空けずに両側に並んで利用する取り組みが行われている。

2023年に事故防止を目的に立ち止まって乗ることを義務付ける条例が施行され、名古屋スタイルとして他の地域でも導入されつつある。

名古屋市の調査では、条例施行後に立ち止まって利用する人が増加し、エスカレーターの利用方法に関する啓発活動も行われている。

この取り組みは全国に波及しつつあり、将来的にはより安全なエスカレーター利用が普及することが期待されている。

(要約)

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名古屋市営地下鉄久屋大通駅では片側を空けることなくエスカレーターを利用する光景が=名古屋市中区で 

 

◇第35回「エスカレーターは『両側立ち』!! 名古屋スタイルを全国発信」その1 

 

 エスカレーターの片側を空ける乗り方が大都市を中心に定着している現実がある。それを打破しようとしているのが名古屋市だ。2023年10月に、事故防止を目的に立ち止まって乗ることが条例で義務付けられ、市内の駅構内などでも両側に並んで利用する姿が目立つようになってきた。有識者の一部では「名古屋スタイル」と呼ばれており、他の大都市もこれをお手本に取り組み始めているという。“名古屋発”の新たな行動規範が日本各地に拡散しつつある。(構成・鶴田真也) 

 

  ◇  ◇  ◇ 

 

 エスカレーターを利用する際に一度でも嫌な思いをした人は多いのではないか。東京を中心とする首都圏の駅では左側に、関西地区では右側に立つ習慣が当たり前で、乗降口付近に大行列ができたり、立ち止まって利用している際も片側を歩いて上がる人に接触したり…。トラブルも少なくない。 

 

 そんなあしき習慣に一石を投じたのが名古屋だ。東京にならって1990年前後から左側に立って右側を空ける習慣がついたとされるが、最近では両側に並ぶ利用者も多く、たとえ右側に立ち止まる人がいても後続の人から文句が出ることはほとんどない。 

 

 その動きを促進させたのが2023年10月に施行された名古屋市のエスカレーター条例だ。正式名称は「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」。制定されたのは21年の埼玉県に次いで全国2例目で、違反しても罰則はないものの、「利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段上に立ち止まって利用しなければならない」などと定められている。 

 

エスカレーターでの立ち止まりを義務化する名古屋市の条例について話す筑波大の水野智美准教授 

 

 エスカレーター事情に詳しい名古屋市出身でもある筑波大の水野智美准教授は「もともと名古屋にはどちらかを空けるという習慣はなかったが、関東の文化が入ってきて左側に立ち、右側を空けることが定着してしまった。それが条例ができて再び右側にも左側にも立つ人は増えた」と解説した。 

 

 

エスカレーターの利用に関する実態把握調査 

 

 名古屋市の調査では数字に如実に表れている。24年6~7月にJR名古屋駅、市営地下鉄4カ所、名鉄栄町駅やショッピングセンターなどで実地調査したところ「立ち止まって利用」は全体の93・3%。条例施行前の22年は78・7%で14・6ポイントも上回った。「歩いたり走ったりして利用」は6・7%。21・3%だった22年と比べて14・6ポイントと急激に減っていることが分かる。 

 

 エスカレーター利用について継続的に啓発していることも大きい。通勤・通学客の乗り換えも多い地下鉄久屋大通駅の構内の壁には「走らない」「歩かない」などの注意書きが貼られ、地下鉄伏見駅では「条例違反です。歩かないでください」と人の流れを検知するセンサーと人工知能(AI)を使って警告音と音声で注意を促す実証実験も行われた。市交通局が行う啓発活動と連携して、条例施行翌日から「なごやか立ち止まり隊」のメンバーが活動し、条例順守を呼びかけている。 

 

地下鉄伏見駅に設けられた、エスカレーターを監視するAIセンサーの概念図(名古屋市提供) 

 

 名古屋市の試みは全国に広がりつつあり、同市スポーツ市民局消費生活課の渡辺弥里課長補佐は「福岡市交通局が今年に入って複数にわたって名古屋を視察された。同市営地下鉄で24年11月にAIセンサーを使った実証実験が実施され、検証に入っていると聞いている」と話した。 

 

 名古屋でも特に両側乗りが多く見られるのが距離の長いエスカレーターだ。久屋大通駅の名城線と桜通線のホームを結ぶ区間、名古屋駅の地下鉄からJRの地上階を結ぶ区間などがそうで、お年寄りも気軽に右側に立ち止まる。そこで将来的に注目されるのは建設が進められているリニア中央新幹線だ。名古屋駅も地下約30メートルにホームが設置される予定で、エスカレーターを利用して東海道新幹線に乗り換える場合は3~9分かかるとの試算もある。 

 

 水野准教授は「距離が長いエスカレーターは転んだりすると大きな事故になりかねない。リニアが開通した時には両側に立ち止まって利用する習慣が定着してくれれば。東京、名古屋の移動時間も短くなれば、通勤する人も出てくるかもしれない。この“名古屋スタイル”が東京に発信されていけばいいなと思う」と期待を込めた。 

 

 エスカレーターは歩かないで並んで乗る―。それを実践することは誇らしいことでもある。名古屋発の新たなムーブメントは全国に波及するか。 

 

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 問い合わせは中日新聞出版部=電話052(221)1714へ。 

 

中日スポーツ 

 

 

 
 

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