( 241591 ) 2024/12/30 05:14:00 0 00 タワーマンションに長く住んでいる人からは、特有の課題や懸念も上がる
関西でタワーマンションの建設ラッシュが続いている。令和5年末までの1年間で、近畿圏は大阪府中心に11棟完成しており、6年以降も供給が続く見通しだ。一方、将来、建物の修繕費が膨らみ、負担できない住民が流出して廃虚(はいきょ)化するとの懸念から、新築を〝禁止〟する自治体も。住民が多く修繕を簡単に決められないなどタワマン特有の課題もあり、政府は来年1月からの通常国会で法律を改正し対処したい考えだ。
タワマンは、一般的に高さ60メートル超の20階建て以上の超高層マンションをさす。
「ジムやカフェスペース、図書室など共用スペースが充実している。各階で24時間ゴミを出せるのも便利」。東京都の会社経営女性がこう話す通り、施設やサービスの充実が特徴だ。
新築の販売価格は1億円を超えることも多く中古も高額。富裕層に人気で、投資目的の購入もあるとみられる。関西でも人気で、今年2月に販売を始めたJR大阪駅近くのタワマンは、最上階の1戸が関西史上最高の25億円をつけたが、完売した。
東京カンテイによると、タワマンは5年12月末現在、全国に1515棟あり、5年に48棟竣工した。棟数トップの東京都は479棟で9棟増、2位の大阪府が273棟で9棟完成している。
一方、不動産経済研究所の今年3月時点の調べでは、6年以降に完成予定の20階建て以上の超高層マンションは全国で321棟。このうち首都圏は194棟、近畿圏は43棟となっている。
古いタワマンも増えており、東京カンテイによると、昨年末現在、築20年以上のタワマンは全国で約26%、東京都で約23%、大阪府で約21%。今後、この比率は増えるとみられる。
問題となるのは修繕の費用だ。マンションは12~15年ごとに大規模な修繕が必要で、築20年以上のタワマンは10年以内に2回目、その後15年以内に3回目の修繕のタイミングを迎える。
懸念されるのは、工事のコストが初めの長期計画以上に膨らみ、住民が払い続けている修繕積立金では不足するケースも出てくることだ。
修繕は足場を組んで外壁を直したり、排水やエレベーターといった内部の設備を修理したりする。超高層のタワマンは普通の足場では対応できず設備も巨大で、想定以上の異常などがあると費用が膨らみやすい。資材費や人件費も上がっている。
対処法の一つが積立金の増額だが、入居者は高齢になり収入が減る。初めの計画より大きく膨らんだ積立金を払えず手放す人も出てくるとみられる。ある専門家は「立地が悪ければ買い手がつくのは難しく、人が住まないままになる可能性もある」とみる。
費用がまかなえず修繕できなければ建物の劣化は加速する。タワマンの歴史は浅く、長期管理の経験がない。手法や技術の確立を急ぐ必要がある。(山口暢彦)
■神戸市、〝廃虚化〟回避へ条例改正 政府は多数決要件緩和へ
タワーマンションの〝廃虚化〟を避けようと、自治体が動き始めた。神戸市は令和2年に改正条例を施行し、繁華街のある三宮地域に新たな住宅をつくることを禁止。周辺では住宅の延べ床面積に関する制限を厳しくして、実質的にタワマンをつくれないようにした。
「数十年すると(タワマンは)廃墟化する可能性がある」。久元喜造市長は昨年10月の記者会見でこう指摘。「人口が減り大量の空き家が存在する中、(タワマンをつくり続けることは)住宅政策として正しいとは思えない」と話した。
根底には、タワマンの住民が高齢化すれば高い管理費や修繕積立金を負担できなくなることなどへの懸念がある。
この施策には、地域からも「今まで高いマンションが建っても、商店街に人がたくさん来るようになるといった効果はなかった」(三宮の不動産会社関係者)と賛成の声が上がっている。
一方、政府は、タワマン特有の管理の課題を解決すべく動いている。
タワマンは場合によっては千人単位の各戸の所有者がいて、修繕などに関する管理組合の決議も、無関心な人が多ければ連絡すらつかず合意を取り付けるのが難しい。
東京のタワマンに住む公認会計士の男性は「カーシェアリング導入や子供の遊び場づくりを決めたくても意見をまとめられない」と語る。
政府は、区分所有法を改正し、決議のハードルを下げてこうした課題にも対処できるようにしたい考えだ。
同法では、管理組合の集会の決議には原則、全ての所有者の多数決が必要。欠席し、委任状などで賛意の表明をしていない人は実質的に「反対」とみなされる。
政府は同法を改正し、集会の出席者だけの多数決で決議できるようにする方針。来年の通常国会へ改正法案を提出し、成立を目指す。
■異なる管理組合の情報共有を ニッセイ基礎研・渡辺布味子准主任研究員
タワーマンションの課題の一つが、住民が多いといった理由で必要な決議が進まないことだ。政府は管理組合の多数決の要件を緩くしようとしている。方向性は良いといえるが、不要な修繕でも簡単に決められるようになればコストがかさむので注意が必要だ。
たとえば本当に必要な修繕を見極められるようになるため、違うマンションの管理組合同士が互いに先行事例を共有するべきだ。自治体にはそれを支援する取り組みもあり、周知することも必要になるだろう。
タワマンは巨大なだけに、修繕や維持の費用が膨らむやすい。たとえば大規模な修繕工事では外壁のタイルの交換が必要で、細かい検査が必要だが、通常のマンションより手間がかかる。
エレベーター、駐車場などの共同設備も多い。複数の店舗が入っているケースもあり、営業に支障が出ないよう配慮しながら修繕を進めるため工期が長くなりがちだ。
修繕費が初めの想定以上に膨らむ可能性もあり、若いとき入居し高齢になった住民の中からは、支払うのが難しくなる人も出てくるだろう。(聞き手 山口暢彦)
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