( 241764 )  2024/12/30 15:59:52  
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ギャラップ社の調査によると、米国では小児用ワクチンの重要性を強く意識する人が減少しており、ワクチンへの懐疑が広がっている。

ワクチンをめぐっては政治と医療が絡み合い、情報の偽情報や誤情報も拡散されるなど、複雑な要因が影響している。

この問題は重大で、ワクチンの政治化が公衆衛生上のリスクをもたらす可能性が指摘されている。

(要約)

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米カリフォルニア州ウッドランドヒルズで、新型コロナウイルスワクチンに反対する共和党支持者。2020年5月16日撮影(David McNew/Getty Images) 

 

米世論調査会社ギャラップは、小児用ワクチンを重視する国民が米国で大幅に減少していると報告した。 

 

同社が最近行った世論調査によると、小児用ワクチンを「非常に」または「かなり」重視すると答えた回答者は69%にとどまった。この割合は、2001年には94%に上っていた。この20年余りで、米国ではワクチンに対する国民の認識が劇的に変化したことが浮き彫りとなった。 

 

同国では近年、ワクチン接種に対する消極的な姿勢が各所で見られるようになった。例えば、南部ルイジアナ州保健局では、職員が新型コロナウイルスやインフルエンザ、エムポックス(サル痘)といった特定のワクチンの接種を一般市民に勧めることが禁じられている。 

 

なぜこのような現象が起きているのか、そしてこれはなぜ重要なのだろうか? その答えは単純ではないが、医療と政治の癒着(ゆちゃく)など、複合的な要因が影響していると考えられる。 

 

伝統的に、ワクチンに対するためらいは常に社会にある程度存在していた。だが、一般的にはワクチンは数多くの疾病を予防する、科学の飛躍的な進歩として称賛されてきた。 

 

例えば、米国では2000年に麻疹(はしか)の根絶が宣言された。ところが、海外渡航が増えたことや、子どもに麻疹の予防接種を受けさせない親が増加していることなどから、同国では2024年だけで300人近い感染者が出ており、その大半がワクチン未接種者だった。病原体に対する免疫を持つ人が一定の割合に達すると、その感染症が広がりにくくなる「集団免疫」の状態にあれば、感染者数はゼロかそれに近い値になるはずだ。麻疹では、人口の95%が予防接種を受けた場合に集団免疫が成立する。 

 

数年前に新型コロナウイルスが大流行した際には、ワクチンに対する賛否が社会を分断し、接種を拒否する人が前例のない水準に達した。ワクチンの義務化を巡っては、米国の保守派は、政府が権力を乱用し、個人の自由と身体の自律を脅かしていると警戒。一方、左派の政治家は、公衆衛生を促進する機会だと説明した。これにより、多くの国民がワクチンの安全性や有効性に疑問を抱くようになり、共和党と民主党の間には深い溝が残ることになった。 

 

民主党の支持層に比べ、共和党の支持層が新型コロナウイルスワクチンを接種したり、好意的にとらえたりする傾向がはるかに低いのは驚くべきことではない。実際、ギャラップの調査では、子どもに予防接種を受けさせることは非常に重要だと考えている回答者は、共和党支持者と同党寄りの無党派層では26%にとどまったのに対し、民主党の支持層では63%に上った。この差は2001年時点では4ポイントしかなかったが、今回の調査では37ポイントに拡大した。 

 

 

偽情報や誤情報の拡散によっても、ワクチンの政治化は進む。例えば、ソーシャルメディア(SNS)上では、麻疹やおたふく風邪、風疹のワクチンが自閉症を引き起こすという誤った情報が拡散された。自閉症とワクチン接種の関連性を裏付ける科学的根拠はないにもかかわらず、この主張は一部の米国人の間で支持され、ワクチンに対する信頼を低下させた。 

 

こうした誤った情報の拡散に加え、政治指導者の言動には一貫性がないことから、ワクチン推進の背後にある動機に多くの疑問が投げかけられることとなった。特に新型コロナウイルスではワクチンの開発が急速に進められたため、科学的な理由ではなく政治的な動機によってワクチンが奨励されているのではないかと疑念を抱く人もいた。 

 

ワクチン接種をためらう人が増えていることは、科学と公衆衛生の観点からは重大な問題となる。ワクチンのような科学的手段が政治的な論争に巻き込まれると、国民の信頼が損なわれ、感染症の拡大を防ぐための努力が妨げられることになる。 

 

麻疹はまさにこれに当てはまる。米国ではすでに根絶宣言が出されており、子どもたちが予防接種を受けていれば国内で感染者が出ることはなかったはずだ。ところが、2024年には首都ワシントンのほか全米30州で麻疹の感染が報告された。 

 

こうした課題を克服するには、政治家のほか、保健当局と医療従事者、教師と保護者が一丸となって取り組む必要がある。明確で透明性のあるメッセージや教育内容の見直し、研究開発の推進、インターネットやメディア上の情報を的確に選択する能力の育成などにより、ワクチン接種に対する信頼は回復できるだろう。私たちの健康と子どもたちの未来は、こうした努力にかかっている。 

 

Omer Awan 

 

 

 
 

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