( 241776 )  2024/12/30 16:12:19  
00

働き控えは解消されるか 

 

【前後編の後編/前編からの続き】「職場の人間関係に悪影響が」「スキマバイトは『20時間の壁』の抜け道」 年金制度改革で主婦を“直撃”する影響とは 

 

 厚労省が来年1月の通常国会に関連法案を提出する予定となっている「年金制度改革」。「106万円の壁」撤廃や、遺族厚生年金の見直しで、われわれの暮らしはどうなるのか。今回は改革の対象から外れそうな主婦年金の今後とは――。知っておくべき年金問題の核心。 

 

 *** 

 

 前編【「職場の人間関係に悪影響が」「スキマバイトは『20時間の壁』の抜け道」 年金制度改革で主婦を“直撃”する影響とは】では、法改正に伴って新たに問題となる「20時間の壁」について報じた。 

 

 これに加えて、“主婦年金”に関する問題もある。 

 

「『第3号被保険者制度』(3号)、いわゆる“主婦年金”の問題もあります。一定の年収未満なら保険料を納めなくても保険診療が受けられ、老後は基礎年金がもらえるため、“不公平”との批判がくすぶり、廃止を訴える声が強まっています」 

 

 と、厚労省担当記者が説明する。 

 

「今回の改革では3号廃止見送りとなりそうですが、『106万円の壁』が撤廃されると、厚生年金加入者が増え、3号の人数は減ることになるでしょう」 

 

 年金問題研究会代表で1級DCプランナーの秋津和人氏が言う。 

 

「東京都産業労働局の令和5年度のアンケート調査によると、女性パートタイム労働者のうち、約半数が何らかの『壁』を意識して扶養の範囲内で働いている、と回答しています。3号被保険者に限ると、77.3%の人が『壁』を意識して扶養の範囲内で働いていると回答しており、3号であると就労調整の意識が高いことが分かります」 

 

 ここへきて3号廃止の議論が盛り上がった背景には、深刻な労働力不足がある。経済同友会と連合は12月12日に東京都内で懇談会を開き、3号廃止を求めることで一致。懇談会終了後、経済同友会の新浪剛史代表幹事はこう述べた。 

 

「年金制度改革は5年に1度。5年後の実現を目指したい」 

 

 

 ピーク時の1995年に1220万人もいた3号は、今年5月末時点では676万人とほぼ半減している。 

 

「これまでは、廃止するにしても対象者の数が多かったので慎重論が勝っていたわけですが、人数が減るにつれて廃止の議論は活発化していきました」 

 

 と、秋津氏。 

 

「とはいえまだまだ人数が多いため、次の選挙で印象が悪くなると考えた政治家が廃止見送りの方向に仕向けたのでしょう。ただ、5年後か10年後かは分かりませんがいずれ廃止されることになると思われます。一昔前までは夫が収入を得て妻は家事、という考え方が主流でしたが、これからは個人単位で考えなければならないでしょう」(同) 

 

 3号は86年に始まった制度である。 

 

「これによって、いわゆる専業主婦を中心とした被扶養配偶者は、自分で保険料を払わなくても基礎年金がもらえるようになったのです。美しく言えば、専業主婦の家庭内労働に報いよう、という話です」 

 

 社会保険労務士の北村庄吾氏はそう解説する。 

 

「それまで主婦に関しては、国民年金に入るかどうかは任意でした。しかし昭和50年代中盤くらいから熟年離婚・高齢離婚が増えてきて、離婚した専業主婦の方が国民年金に加入していないと無年金になってしまう、という問題が3号成立の背景としてありました」(同) 

 

 さらに、別の要因もあったという。 

 

「昭和61(1986)年4月の改正というのは、年金制度にとってドラスティックな改正で、そこから20年ほどかけて3割程度給付水準を下げていく、つまり年金減額が目的だったのです。加入者にとって不利益になるような変更ばかりだとなかなか法案が通りにくいので、いわば“アメ”として用意されたのが主婦年金の創設でした」(同) 

 

 今は「不公平」と批判されることが多い3号だが、次のような試算もある。年収600万円の夫と3号の配偶者という片働き世帯と、年収300万円ずつで計600万円の会社員の共働き世帯では、世帯単位で支払う保険料も、受け取る年金額もほぼ同じになるというのだ。 

 

「3号が廃止され、被扶養配偶者が3号から1号になってしまうと、片働き世帯と共働き世帯の受け取れる年金額は同じままですが、片働き世帯では配偶者も国民年金保険料を支払わねばならないので、単純に負担だけが増えてしまいます」 

 

 と、北村氏は指摘する。 

 

「すでに作ってしまった3号制度をまた変えるということになると、主婦の方からすれば“もうやってられないよ”という話だと思います。元々は年金が欲しかったら自分で払ってね、という話だったのが、保険料を払わなくても年金がもらえるようにするよ、と言われ、今度はやっぱり自分で払えと国民年金に強制加入させられるわけですから理不尽そのものです」 

 

 

 今回の改革では、子供のいない夫婦が死別した際の遺族厚生年金の見直しも検討されている。 

 

 先の厚労省担当記者の話。 

 

「現行の制度では、夫を亡くした妻は30歳未満の場合は5年間の有期給付、30歳以上だと死ぬまで無期限で給付されます。一方、妻を亡くした夫は55歳以上でないと受給対象になりません。見直し案では、20~50代の給付について、亡くなったのが夫でも妻でも一律で5年間とする方向です」 

 

 先の北村氏は、 

 

「遺族厚生年金に関しては、確かに男性が死亡した場合と女性が死亡した場合でかなりの格差があります。そこを是正するのは理解できますが、見直し案では男女ともに有期年金にするという。結局、厚労省としては終身で遺族年金を払うのが嫌なのでしょう。働ける人はとっとと働いてねということですよね」 

 

 とした上で、こう語る。 

 

「やはり厚労省が近年一貫してやっているのは、年金制度を何とか維持するために、給付は減らしていきながら、厚生年金の加入者を増やし、保険料を広く徴収しよう、ということなのです。しかし、年金制度はその性質上、長期的な視点で設計されているため、頻繁な変更が行われると国民の不信感が高まる可能性があります。なぜ、いま変更しなければならないのか、厚労省には国民が納得する丁寧な説明が求められます」 

 

 老後、“こんなはずじゃなかった”とならないためにも、年金制度の危うい現状くらいはきちんと把握しておくべきだろう。 

 

前編【「職場の人間関係に悪影響が」「スキマバイトは『20時間の壁』の抜け道」 年金制度改革で主婦を“直撃”する影響とは】では、法改正に伴って新たに問題となる「20時間の壁」について報じている。 

 

「週刊新潮」2024年12月26日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

IMAGE