( 242226 ) 2024/12/31 14:37:49 0 00 宮内庁庁舎(画像=nattou/PD-self/Wikimedia Commons)
毎日新聞の報道によると、元宮内庁長官の羽毛田信吾氏は今年3月に、女系天皇の可能性に言及している。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「皇室に最も近くでお仕えした宮内庁長官経験者が、皇位継承問題に対する政治の取り組みが実際に進んでいる時期に、このように踏み込んだ発言をすることは異例だ。そしてそれは、上皇陛下、天皇陛下、秋篠宮殿下のお三方の合意事項を踏まえたものだった、と受け止めるのが自然ではないか」という――。(第3回/全3回)
※本稿は、高森明勅『愛子さま 女性天皇への道』(講談社)の一部を再編集したものです。
■元宮内庁長官の踏み込んだ発言に見る「深刻な危機感」
注目すべき記事を紹介します。毎日新聞がネット配信した記事(令和6年=2024=3月15日配信)の中で、福岡市で行われた羽毛田信吾元宮内庁長官の講演内容が紹介されていました(「毎日・世論フォーラム」毎日新聞社主催)。
羽毛田氏は講演の中で「(皇室制度の)改正に向かって具体的な動きを起こすことは待ったなしだ」と強い危機感を強調されたようです。そのうえで「皇室に女性がいなくなれば、女系に広げる選択肢はそもそもなくなる」と呼びかけたと言います。
なぜこの記事に注目すべきかといえば、皇室に最も近くでお仕えした宮内庁長官経験者が、皇位継承問題に対する政治の取り組みが実際に進んでいる時期に、このように踏み込んだ発言をすることは、異例だからです。それほど、羽毛田氏の危機感は深刻だということでしょう。
しかも羽毛田氏は平成時代に、上皇陛下、天皇陛下、秋篠宮殿下のお三方によるいわゆる“三者会談”がスタートした時点での長官です(平成24年=2012=春から開始)。その後、長官を離れていますが、退任後も長く天皇陛下のご相談にあたる宮内庁参与を務めていました。ですから、三者会談の内容については当然、承知すべき立場でした。
三者会談の最大のテーマは、皇位継承のあり方に対するお三方の基本的な合意を図ることだったと、拝察できます。その年の2月に上皇陛下が心臓の冠動脈バイパス手術を受けられ、皇室の行く末へのご懸念がより深まったと想像できるタイミングでした。当時は野田佳彦内閣による、皇室制度に関する有識者ヒアリングの取り組みも行われていました。
《三者会談は(上皇)陛下のご意向を察しられた皇后(今の上皇后)陛下のご示唆があり、陛下が「それはいい」ということで始まった》と言います(羽毛田氏『文藝春秋』平成31年1月号)。御所にお三方だけが集まられ、それに宮内庁長官も陪席するという形でした。
■「女系」は上皇陛下、天皇陛下、秋篠宮さまの合意事項と考えるのが自然
もちろん、今の制度では皇室典範の改正は政府・国会が対処すべき政治案件であって、ご自身にかかわる法律であるにもかかわらず、皇室の方々は直接タッチできません。しかし、政治の場における検討のプロセスにあって、当事者である皇室の方々のご意向に配慮すべきことは、当然です。
したがって、あらかじめ当事者としてお三方のお考えを調整しておかれることは、必要だったでしょう。そうであれば、この時の羽毛田氏の発言はお三方の合意事項を踏まえたものだった、と受け止めるのが自然ではないでしょうか。
ならば、「女系」という選択肢もお三方のお考えに含まれていると思われます。「皇室典範に関する有識者会議」の報告書にも、次のような指摘がありました(平成17年=2005=11月24日)。
---------- 《象徴天皇の制度は、国民の理解と支持なくしては成り立たない。このことを前提に……(中略)多角的に問題の分析をした結果、非嫡系継承の否定、我が国社会の少子化といった状況の中で……(中略)皇位の男系継承を安定的に維持することは極めて困難であり、皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要であるとの判断に達した》 ----------
皇室の方々におかれても、おそらくこの「判断」を共有しておられることと、拝察できます。この報告書が出されて以降、政府・国会においても、安定的な皇位継承を可能にする現実的、具体的な提案は、ほかには残念ながらいっさいなされていません。「皇室の伝統」に対する上皇陛下のお考えに照らしても、ここで示された結論に賛成しておられると見るべきです。
■愛子さまが天皇になるべき理由
これまでの議論を再整理する意味で、敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下が将来の天皇になられるべき理由について、簡単にまとめておきましよう。
その「1の理由」は、「女性天皇」を排除している今の皇位継承ルールを維持していては、皇室そのものが存続できなくなる、ということです。
側室不在の「一夫一婦制」で、しかも“少子化”を食い止めることができない状況なのに、明治の皇室典範で初めて採用された「男系男子」限定という歴史上最も窮屈な縛りに、いつまでもしがみつくことはほとんど自殺行為と言わなければなりません。
だから皇室の存続を願うのであれば、そのような無理で無茶なルールを変更して、女性天皇、女系天皇を可能にする以外に、方法はないのです。
■皇室の聖域性を損なう“禁じ手”
それでも古いルールにしがみつこうとすれば、いったいどうなるでしょうか。厳格であるべき皇室と国民の区別をあやふやにして、皇室の「聖域」性を損なう“禁じ手”のプランに逃げ込むしかなくなります。すでに国民になっているいわゆる旧宮家系子孫の男性を、「婚姻」という心情的、生命的な結合もなく養子縁組などの法的措置だけで、民間から皇族に迎え入れるというプランです。
これは万が一にも首尾よく(?)ことが運んだ場合、歴史上かつてない、“国民出身”の天皇を登場させることに道を開く愚挙です。広い意味では「皇統に属する男系の男子」であっても、歴史上の人物でいえばすでに臣下(しんか)になった平将門(たいらのまさかど)や足利尊氏(あしかがたかうじ)などを皇族に迎えて、その子孫が即位できるようにするに等しいでしょう。かの道鏡(どうきょう)も皇胤(こういん)(皇室の血を引く子孫)説がありました。もし道鏡が皇胤だったら、その子孫を天皇にしようというプランです。
■皇統が断絶してしまう
もともとは皇室の血筋から分かれていても、親の代からすでに国民です。その子孫はもはや“国民の血筋”になっています。そうである以上、旧宮家系の天皇がもし将来に現れたら、そこで皇統は断絶し、国民の血筋による“新しい王朝”に交替します。
さらに、男系男子限定ルールのままであれば、やがて養子縁組の対象を旧宮家系子孫だけに限定することも限界にぶつかるでしょう。あるいは養親(ようしん)のなり手がいなくなれば、養子縁組という手順自体も限界に達するでしょう。そうすると、広い意味で「皇統に属する男系の男子」は旧宮家系のほかにも多く実在するので、次々と対象を広げて、しかも法律一本だけで皇族の身分を取得するという、乱暴このうえない最低な末路をたどることになりかねません。
こうなると皇室と国民の区別も、皇室の「聖域」性も、ほとんど顧みられなくなってしまうはずです。
■油断できない危ういプラン
もともと「皇位の世襲」というのは、長年にわたって国民から信頼を集めてきた特定の血統=“厳密な意味での皇統”によってのみ天皇の地位は受け継がれるべきだ、という考え方に立脚しているはずです。しかし、その基礎を掘り崩す暴挙でしょう。
もっとも、自ら養子縁組などで皇籍取得に同意する国民男性が実際に現れたり、それを受け入れて「養親」になられる皇族が出てこられたりする場面は、リアルには想像しにくいでしょう。幸い、机上の空論に終わる可能性が高いので、おそらく最悪の事態は避けられるでしょう。しかし、油断できない危ういプランであることは否定できません。
天皇陛下にすでにお子さまがいらっしゃるのに「女性だから」除外して、民間人の子孫でも「男性だから」天皇にするというプランは、皇室の尊厳を重んじる立場とは考え方が逆立ちしていませんか。そもそも旧宮家養子縁組プランなどで、「国民と苦楽を共にする」という高貴な精神が、果たして正しく受け継がれるのでしょうか。普通に考えて民間で生まれ育った人物に、そのような精神を期待するのは至難でしょう。それで、真の「皇室の伝統」は守られるのでしょうか。
■天皇は「国民統合の象徴」なのに
また、このプランは国民平等の理念に反して、国民の中から特定の家柄・血筋=門地(もんち)の人たちだけが、ほかの国民には禁止されている皇族との養子縁組による皇籍取得が認められるという、明確な“差別”を持ち込むことになります。
そうすると、皇室の方々のお気持ちとはかかわりのない政治の判断による方策ですが、国民からは皇室の存在があたかも国民の中に不平等を持ち込む元凶のように見えてしまいかねない、という問題があります。それは結果的に、国民の皇室への素直な敬愛の気持ちを損なうおそれがあるのではないでしょうか。
なお、敬宮殿下が将来、もし即位されても、それで皇位継承の安定化が約束されるわけではない、という意見を見かけました。しかし、これは順序が逆です。これまでの男系男子限定という無理なルールを止めて、皇位継承の安定化を可能にするルールを確立すれば、その結果として直系優先の原則により、敬宮殿下が次の天皇として即位されることになる、という順序です。したがって、愛子天皇の登場は間違いなく安定的な皇位継承の指標となります。
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