( 242611 )  2025/01/01 05:09:41  
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2024年10月15日に個人間カーシェアサービス「エニカ(Anyca)」のサービス提供を終了することが発表された。個人間カーシェアリングサービスのよく起こりがちなトラブルを紹介している。 

 

 2024年10月15日、株式会社DeNA SOMPO Mobilityは、同年12月31日(火)までに個人間カーシェアサービス「エニカ(Anyca)」のサービス提供を順次終了することを発表しました。2015年9月にサービスを開始してから約10年、愛車を登録したり、1度は利用したことがある人もいるでしょう。 

 

 これで、dカーシェアのマイカーシェア、GO2GO、CaFoRe(カフェオレ)、CAROSET(カローゼット)、ridenow(ライドナウ)に続き、ついにエニカも運用を終了することとなりました。その結果、個人間カーシェアのサービスそのものが姿を消しつつあります。 

 

 なぜ、個人間カーシェアのサービスの運用停止・あるいは終了が相次いでいるのでしょうか。その理由やこれまでにあったトラブルに関して考察してみました。 

 

 ひとつには、運営する企業が「サービスを継続しても、これ以上の大幅な会員の増加が見込めないであろう」と結論づけことが挙げられます。企業としてサービスを運営する以上、数人~数十人規模(あるいはそれ以上)の社員を投入する必要があります。毎月、サービスが赤字になろうと社員には給与を支払わなくてはなりません。今以上の費用対効果が見込めないとなると、サービスの運用停止・あるいは終了にせざるを得ないのです。 

 

 また、企業がサービスを提供し、運営する以上、何らかのサポートが必要です。個人間カーシェアともなれば、百万円単位のクルマの貸し借りが毎日ように行われ、その結果、さまざまなトラブルが起こります。なかには想定外のトラブルや裁判沙汰になるものも含まれるため、運営する企業がどこまでサポートするか、あるいはどこまで介在するか非常にデリケートな判断が求められる事案も含まれます。つまり、運営する企業にとってはリスクが大きいサービスなのです。 

 

 それには、以下のようなトラブルが含まれます。 

 

 

 バンパーをこすった、ホイールをガリっとやってしまった、飛び石でフロントガラスにヒビが入った……。故意または不慮のアクシデントにもかかわらず、借りたクルマに傷をつけても知らん顔で返却するケースがあったことも事実。とくに、夜間に返却する場合、周囲が暗いなかですべての傷の確認をするのは非常に困難です。 

 

 借り主が傷をつけたと思われる瞬間がドライブレコーダーに記録されていれば、証拠として追求することもできます。しかし、借りた本人も気がつかないレベルでバンパーをこすった場合(古いクルマにはコーナーセンサーが装備されていないことも多いだけに)、映像などの証拠を押さえるか、現行犯でないかぎり責任の所在があいまいになりがちです。こうして、結果的に貸した側が泣き寝入りすることになってしまうのです。 

 

 運転が不慣れなクルマをぶっつけ本番でドライブするわけですから、事故を起こす確率も必然的にあがります。うっかり事故を起こしてしまうこともあれば、背後や側面などから追突されてしまう不慮な事故に遭遇してしまうケースもあります。こうなると気の毒とかいいようがありません。いずれにしても、事故を起こしてしまったら事故処理をしなくてはなりません。 

 

 クルマを貸し出す前に「事故を起こした場合」といくら明文化していたとしても、事故を起こしてしまうと冷静さを欠いてしまい、適切な判断ができなくなりがちです。警察を呼ばず、さらには保険会社をはさむことなく、きちんと事故として処理をせずに当事者同士で勝手に示談にしてしまったら、その後の処理が厄介なものとなりがちです。 

 

 貸し出し中、急にエンジンが掛からなくなった、バッテリーがあがってしまった、タイヤがパンクしてしまったなどなど。この場合、純粋にクルマのトラブルである場合と、借り主が壊してしまったケースとにわけられます。最近はドライブレコーダーが普及し、証拠として記録することができるようになりましたが、それ以前は自己申告制。借り主が壊したとしても「クルマが勝手に壊れた」といわれてしまったら泣き寝入りするしかなかったのです。 

 

 とくに、扱いが難しい旧車およびネオクラシックカーの場合、その多くがMT車です。キャブ車であれば、エンジンを始動するにもコツがいります。壊れることも壊されることもあります。本来、運転に慣れていない人に貸すにはリスクが高く、また軽い気もちで借りられる(借りるべき)クルマではないのです。 

 

 

 「時間にルーズ」というのも個人間カーシェアサービスにおいてはトラブルになりがちです。百歩譲って「○○分くらい遅れます」と連絡があればまだいいとして、連絡がない、さらには連絡がつかないこともあります。待たされるほうとしてはたまったものではありません。 

 

 こればかりは、貸す方、借りる方それぞれの性格的なものにもよるので、遅刻常習犯になってしまうこともしばしば。どれほど珍しいクルマを所有しているオーナーでも、借りる側の人柄が申し分ない人であったとしても、時間にルーズというだけで心象が悪くなってしまうのです。特に個人間カーシェアのように(本来であれば)時間の縛りがきちんとしているサービスならなおさらです。 

 

 「キレイさ」に対する基準が人それぞれ異なるように、クルマに対する接し方もまったく違います。車内は土足禁止、飲食禁止にしている人がいるいっぽうで、ゴミだらけでも気にならない無頓着な人もいます。 

 

 愛車を大切にしつつ、維持費捻出などの理由で個人間カーシェアサービスに貸し出していた場合、基本となる禁止事項に加えて貸し出すオーナーごとにローカルルールがあります。あらかじめ明文化して、さらには貸し出し時に口頭で伝えれば多少なりともトラブルは減りますが、これくらいなら大丈夫だろうと「暗黙のルール」にしてしまうと話がややこしくなりがちです。 

 

 その一例が「喫煙」です。最近はレンタカーや代車でも目立つところに「このクルマは禁煙です!」と、テプラなどで作成されたテープが貼ってあります。しかし、個人間カーシェアサービスでそこまでやるのはレアケース。引き渡し時に口頭で伝えても、「これくらいならバレないでしょ」と、いつもの習慣でつい……と一服。しかし、たばこを吸わない人は臭いに敏感です。車両返却後、しばらく車内に残ったタバコの臭いに悩まされるのです。 

 

 このように「これくらいならバレないでしょ」といった小さなトラブルが多々起こりがちです。借りるほうは返却すればそれで終わりです。しかし、貸し出す側は手放すまで我慢を強いられたり、愛車に対する気もちが冷めて売却する事態にもなりかねません。 

 

 

 じつは筆者も1度だけ個人カーシェアを利用したことがあります。オーナーさんに指定された待ち合わせ場所に向かい、クルマの扱い方を教えていただき、ドライブに出掛けました。 

 

 何しろ個人所有車です。壊してしまったり、傷つけてしまったら申し訳ないという緊張感が半端なかったことを覚えています。保険を使えばもとの状態に近づけることはできますが、オーナーさんの心情はもとどおりにはなりません。結局、事情を伝えて数時間で返却しました。 

 

 本来であれば触れることさえ許されないような憧れのクルマや、実際に購入する前に「お試しで」乗ってみたいクルマなどなど。通常のレンタカーではなかなか設定がないクルマが借りられるのも個人間カーシェアの大きな魅力ではあります。 

 

 しかし、貸す側にとっては愛車を使っていないときに貸し出すことで副収入が得られるメリットがあるいっぽうで、借りる側のモラルが大きく問われるサービスでもあります。借りパクどころか、そのまま売却してしまうような悪質なケースも実際に起こったのです。 

 

 また、運営側がすべてのトラブルに対処するにも限界があります。トラブルが起こるたびに「こんなことが起こりうるのか」と、都度、対処せざるを得ない側面もあったはず。そして、運営する以上、これは避けてとおれない事象なのです。 

 

 2024年の大晦日に大手であったエニカのサービスが終了することは、同時に「個人間カーシェア」というビジネスモデルが終わることを意味するのかもしれません。 

 

松村 透 

 

 

 
 

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