( 242861 ) 2025/01/01 17:47:33 0 00 ベストカーWeb
「2035年の内燃機関禁止」が欧州議会とEU加盟国で合意となったのが、2022年10月のこと。その後、複数の自動車メーカーが、2035年までに100% BEV化することを打ち出してきました。
ただ、2024年に入って、メルセデスをはじめ、自らが立てた目標を撤回する自動車メーカーが登場。ロイター通信が報じた最新事情によると、欧州議会最大の政治団体である欧州人民党(EPP)が、EU上層部に「(2035年の内燃機関禁止の)考えを変えるよう」に圧力をかけているようです。100% BEVにするとしてきた自動車メーカーのいまを調べました。
文:吉川賢一:/写真:NISSAN、TOYOTA、MITSUBISHI、SUBARU、MAZDA、HONDA、Mercedes-BENZ、VOLVO、LEXUS
欧州の自動車メーカーのなかで、いち早く完全電動化(BEV)を表明したのがメルセデスベンツです。2021年にはすでに「市場が許す限り、2030年に販売する新型車を100%電動化(BEV)する」としていました。ただ、2024年2月に行った決算会見のなかで計画を撤回、2030年以降も内燃機関を搭載した電動車(HEV、PHEVなど)を販売する方針を明らかにしています。
元々、「市場が許す限り」としていたこともあり、2023年ごろからのBEV販売台数の減少を理由として、軌道修正をしたかたちですが、開発終了宣言をしていたエンジン開発も再開し、2027年以降に刷新する計画も表明しています。メルセデスのオラ・ケレニウスCEOは、「顧客にBEVを押しつけまでして、人為的に目標達成するのは理不尽」と発言、素早い身のこなしをみせてくれています。
ボルボも、電動化計画の修正を宣言しています。2021年に「2030年までに新車販売の全てを電気自動車(EV)にする」と目標を打ち出していましたが、2024年9月に計画を撤回。新たな電動化目標として、2030年まで新車販売90%以上をBEVまたはPHEVとすると発表しています。将来的にBEV専業メーカーとなる方針は変えず、期限を2040年に遅らせるとも発表していますが、市場動向によっては再び修正する可能性はありうるでしょう。
インドのタタが親会社のジャガーも、2021年の中期戦略で、「2025年から完全EVブランドになり、2030年までに全車BEV」とする目標を打ち出していますが、2024年12月中旬時点、「計画を撤回する」といった報道はありません。ジャガー唯一のEV「I-PACE」(2018年~)が2025年に販売終了になるとのウワサはありますが、代わりに次世代のBEVプラットフォームで新型のBEVが登場するとされており、いまのところ、ジャガーに関しては、100%BEVメーカーへの計画に変更はないようです。
またアウディは、2021年に「26年以降に発売する新型車をBEVにする」と発表、内燃機関を搭載する新型車は25年発表までで、33年には内燃機関車の世界販売をやめると発表しています。2024年12月中旬時点、「計画を撤回する」という報道はありませんが、親会社のフォルクスワーゲングループが、世界的なBEV需要の減速を理由にアウディのBEVを生産するブリュッセル工場の閉鎖を検討しているとの情報があります。この工場ではQ8 etronを生産しており、VWの動向には注目が集まっています。
また14のブランドを展開しているステランティスグループは、2022年3月に「2030年までに欧州の全ブランドを10% BEVにする」と目標を発表。同時に、サイズの異なる車群に合わせて、4つの「EV専用共用プラットフォーム」も発表していました。が、最近ではその呼び方を変えており、様々なパワートレーンに対応できるマルチエナジーと発表しています。ただ、その計画もとん挫しているという報道も出ているなど、ステランティス傘下にいるメーカーの動向についても注目されています。
国産メーカーで、100% BEV化を表明しているのが、レクサスとホンダです。トヨタの佐藤CBO(当時)は2021年に「2035年までにトヨタ全体で年間350万台のBEVをつくること」「そのうちレクサスは100万台を目指す」としており、現時点も計画の変更は聞こえてきませんが、トヨタのスタンスは一貫して「敵はCO2であり、マルチソリューションで地域特性ごとにパワートレーンを用意する」であるため、今後計画の変更が発表となる可能性は大いにあると考えられます。
積極的なのがホンダです。「2040年にグローバルでのEV/FCEVの販売比率を100%」とする目標を立てており、ホンダBEVの主力商品群とする「 0シリーズ」を、2030年までに小型から中大型モデルまで、グローバルで7モデルを投入すると発表するなど、現時点で変化はないようです。
その他、日産やマツダ、スバルなども、「100% BEV」とは宣言していないものの、中長期的な視点で電動化計画を立案しています。ただし、電動車の括りにHEVやPHEVも含むなど、メーカー間でも温度差は大きく、それぞれがその時代の需要に応じて適宜、BEV比率を上げていくシナリオのようです。
2023年3月末に欧州議会は、100%BEV化の方針を軟化させ、「2035年以降も、e-fuel(合成燃料)を使用する内燃機関に限り、新車販売を認める」と転換をしました。
振り回される自動車メーカーや、それらに雇用される人たちにとっては、この方針転換はたまったものはありません。欧州で急造されたBEV工場が、わずかな期間で閉鎖に追い込まれるなど、損失は甚大ではありますが、過ちを改めて、軌道修正していくことは必要なこと。中国の書物「易経」にでてくる「君子豹変す」は、ネガティブな意味に捉えられることも多いですが、「豹変」とはよい方向に変化するというのが正しい意味であり、本来は誉め言葉です。
冒頭で触れた、EPPによるEU上層部への交渉はまだ結論が出ていないようですが、BEVがまったく売れない現状をみるに、全面的に方針を変えないでいられるのかは疑問。トヨタがするとおり、敵は「CO2」であり「内燃機関」ではありません。技術レベルの進歩と、庶民の生活に寄り添った、現実的な対策へと転換されることを期待したいです。
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