( 243286 ) 2025/01/02 17:01:48 0 00 (c) Adobe Stock
北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督が2軍の本拠地を大和ハウスプレミストドーム(旧札幌ドーム)に移転する計画を「推している」という。ライターの小林英介氏が最新事情をレポートするーー。
「屋根もあるし一番よくないです?」
突然の提案だった。今夏、北海道日本ハムファイターズが2軍の本拠地を北海道に移転する構想が浮上。その構想について、12月の球団納会で新庄剛志監督が「札幌ドーム(大和ハウスプレミストドーム)が良いのでは」とプランをぶち上げた。
日本ハムは2023年、本拠地を札幌ドームから北海道北広島市の「エスコンフィールド北海道」に移転。札幌ドームでは「新モード」を導入したが不発に終わり、命名権を販売していたが応募はなく、当初の募集期限を延長して命名権の買い取りを待っていた。
7月19日、総合住宅メーカーの大和ハウス工業がネーミングライツ契約を結んだと発表。名称は「大和ハウスプレミストドーム」に決まったが、筆者の感覚では、引き続き「札幌ドーム」と呼ぶ人々が相変わらずいると感じている。ネーミングライツ契約とは前後するが、札幌ドームの決算は今年春時点で約6億5000万円の純損益を計上。利活用に関して様々な情報が飛び交っていたが、新庄監督の提案がどのような影響を及ぼすのかは不透明だ。
現在、日本ハムが使用している2軍本拠地は千葉県鎌ケ谷市にある「鎌ヶ谷スタジアム」。1997年に開場している。当時、日本ハムは本拠地を東京に置いており、距離の面では隣県でもあり比較的近くにあった。
ところが日本ハムは2004年に本拠地を北海道に移転。1軍と2軍の行き来には北海道ー千葉という長距離移動がネックとなっていたはずである。鎌ヶ谷には室内練習場のほか新人選手らが暮らす寮「勇翔寮」もあるが、老朽化の流れには抗えなかったようだ。
鎌ヶ谷スタジアムはセンター122m、両翼100m・内野クレー舗装・外野天然芝・ネット裏席2400席といった設備を有している。鎌ケ谷市のホームページには「鎌ヶ谷市の魅力」のひとつとして鎌ヶ谷スタジアムが紹介されており、市としても名所としてスタジアムを打ち出していたところだった。
8月1日、鎌ヶ谷市は「ファイターズ鎌ケ谷スタジアムにかかる報道について」と日本ハムの2軍本拠地を北海道に移転することについて声明を発表。声明は芝田裕美鎌ヶ谷市長の名前が記され、「複数のメディアで、球団がファーム本拠地を北海道へ移転する検討をしているとの報道がありました」と報道に触れたうえで、「球団に直ちに確認したところ、球団からは、『ファイターズ鎌ケ谷スタジアムは、建設以来27年が経過し、老朽化が進んでいることもあり、その対応など今後必要となってくるが、現段階において、具体的に決定している事項は一切ない。』との回答」だったと明かした。
では、もし2軍本拠地が北海道に移転することになれば、どのような効果が期待できるのだろうか。
まず考えたいのは、選手たちの負担軽減だ。もし飛行機を利用して北海道と関東を行き来するのであれば、飛行機に乗るまでの移動時間と飛行機に乗る時間を考えなければならない。選手たちにとっては、ただでさえ試合で疲れているというのに、空港まで移動してそこから搭乗。さらに空港から2軍施設まで移動するとなると負荷がかかる。鉄道を利用する際も同様だが、飛行機よりも大幅に時間がかかるうえ、複数回の乗り換えを必要とする。もし2軍の本拠地が報道されているようにJR北海道の千歳線沿線に移転した場合、北広島から近郊であり、選手らの大きな負担軽減が図られると見てもよい。
千歳線沿線で候補地に挙がった市町村の首長らも関心を強める。このうち原田裕恵庭市長は他球団の2軍施設などを調査していると明かし、後藤好人江別市長も「ぜひ来てほしい」と定例会見で話すなど、候補地選定へ向けた動きが活発化しそうな動きを見せている。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが今年2月に公開したレポートによると、エスコンフィールド北海道を含む「Fビレッジ」が北広島市にもたらす直接経済効果は年間約500億円超。高水準で地価が上がっているとした。北海道への経済効果も年間で約1000億円以上と試算。Fビレッジの開業によって10~15億円の税収増効果創出が期待されるとし、沢山の来訪者がいることから周辺地域への経済活性化を見込んだ。
北広島市では再開発も進んでおり、2025年春には商業施設「トナリエ北広島」が開業。飲食店のほかクリニック、ホテル、ジムなどが入居を予定する。JR北広島駅の西口では活性化整備計画「キタヒロ・ホームタウンーBASE2021-2929」が進行中。複合交流拠点や居住機能などを備えた建物を整備するとしている。
さらに千歳線沿線の千歳市では、半導体メーカーの「ラピダス」の工場を建設しており、来年4月には試作ライン稼働を予定。2027年から半導体の量産を始める見通しだ。千歳市の推計では、2040年の人口が現在の9万8000人余りから10万2000人余りに増えるといい、工場に勤務する作業員らが移住することによる経済効果が期待されている。この千歳線沿線に日本ハムの2軍本拠地が移転すれば、札幌圏の経済活性化がさらに進むかもしれない。
デメリットを挙げるとすれば、これまでスタジアムを通じてまちおこしをしてきた鎌ヶ谷市が損失を被ってしまうことと、札幌市側が難色を示していることがあるだろう。
前述の通り、鎌ヶ谷市は球団に確認しており、その際の回答は「現段階において、具体的に決定している事項は一切ない」だった。鎌ヶ谷市は「何としても本拠地を残してほしい」と考えているのではないかと推察する。
横須賀市が公表している「日本ハムファイターズ2軍と地元地域・自治体との連携」に関する視察報告書によると、鎌ヶ谷スタジアムがあることによる経済波及効果については「地域の商店会や商工会などがファイターズを応援するのぼりを作成して地域を盛り上げたり、ファイターズの選手のサイン色紙が飾られたお店があるなど、市内の経済効果は多くある」と報告している。この経済効果がなくなるとなれば、鎌ヶ谷市への影響は計り知れない。
札幌市も難色を示す。秋元克広札幌市長が8月に開いた定例記者会見では、日本ハムの本拠地移転に話題が及んだ。地元紙は「2軍本拠地が道内に移転すれば、札幌ドームの平日利用の促進につながるとの見方もある」などとして2軍本拠地の誘致に関する考えを秋元市長に質問した。それに対し、市長は以下のように回答した。
「内々の話が担当部局にあった。ファイターズが希望するような広さ、あるいは土地利用ができる場所は札幌市ではなかなか難しいことをファイターズも認識していた。どのような形で2軍の施設を整備するのかについては、現時点で私どもは承知していない。ファイターズが考える十分な広さの土地を、札幌市の中で提供していくのは現実的に難しい。それは双方の認識だ。その上で、(札幌)ドームだけを使うのはなかなか難しいのではないか」
「ドームだけを使うのはなかなか難しいのではないか」。秋元市長はこのように難色を示し、冷え切った球団側との関係を表す会見となった。現状、日本ハムの2軍本拠地移転に関する進展はあまりないように見える。ものごとを進めるには、双方が歩み寄るほかはないと考える。しかし、筆者は日本ハムが新本拠地を移転する際、札幌市内から挙がった候補を選んでいない時点で、双方の関係性があまり良くなかったと見ている。
球団と市の「雪解け」はいつになるのか。札幌市民のひとりとして、今後の動きを見守っていきたい。
小林英介
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