( 243681 ) 2025/01/03 15:12:00 0 00 Photo:PIXTA
堀江貴文、ひろゆき、成田悠輔。先行きが不透明な今の時代に、破天荒な言動で若者を魅了する3人のカリスマだ。しかし、実際のところ彼らが発信するメッセージの中身は、新自由主義をベースとした弱肉強食の世界観でしかない。彼らに洗脳された信者たちは、どんな末路を辿るのか。※本稿は、モーリー・ロバートソン『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)の一部を抜粋・編集したものです。
● 型破りな言動で若者の心を掴む 堀江貴文・ひろゆき・成田悠輔
2020年代を生きる若者は新聞を読みません。テレビを見ません。本当に見てないです。見ているのは昼も夜もスマホでネットだけです。そのネット上に強いプレゼンスを打ち出している「カリスマ」たちが毎日のように話題を振りまいています。
実業家の堀江貴文氏、「2ちゃんねる」創設者のひろゆき(西村博之)氏、経済学者でイェール大学助教の成田悠輔氏などは、小学生にも名を知られるほど広範に活動しています。そしてこの3人は頻繁に物議を醸す発言をします。その都度メディアも一般社会もその賛否両論を引き起こす発言によって揺さぶられ続けています。傍若無人でありながらスタイリッシュな美学が感じられるため、熱烈とも呼べる支持層がいます。
3人が頭角を現したタイミングはバラバラです。ひろゆき氏は2000年代初頭に匿名巨大掲示板「2ちゃんねる」が隆盛を極めた頃から名が知られるようになり、堀江氏はライブドア事件をはじめとし2000年代中盤から後半にその知名度はピークに達し、成田氏は2020年以降に『ABEMA Prime』などに出演してマスコミの寵児となりました。
各人とも型破りな言動が若者に大ウケしているのです。テレビを見なくなった若者に動画で直接訴求し続けるメッセージは案外広く深く浸透しているようです。
私も2023年にクラブDJとして遠征した地方都市で、20歳そこそこのミュージシャン青年に「モーリーさん、ひろゆきは知っておいた方がいいですよ」と説教口調で言われました。「いやあ、ひろゆきはちょっとね…」と反応したところ、「なんでですか?いいこと言ってますよ」と少し哀れみをこめた眼差しで一瞥されたほどです。その会話の後、青年は舞台に上がり、ギターを掻き鳴らしながら自分が社会のアウトサイダーであるという歌をシャウトしていました。
後日、都内で朝のラッシュアワーの時間帯にドトールコーヒーで仕事用のノートパソコンを開いた若いサラリーマンがいて、彼がブラウザにひろゆき氏の動画サムネイルを表示しているのがすれ違いざまに見えました。昨今は自分でニュースのリサーチをしている際にも、バナー広告の中にいるひろゆき氏が笑顔で追いかけてきます。
● カリスマが解く「弱肉強食」論の ベースにあるのは「新自由主義」
堀江氏、ひろゆき氏、成田氏の主張には共通した流れがあります。それは資本主義による淘汰、強めの「弱肉強食」、別の言い方をすれば「優れた人の礼賛」です。少子高齢化する日本では、構造的な理由で若い世代への分配は相対的に低くなり、お年寄りにチューニングされた「現状維持」の社会がやたらと優しく、バリアフリーでノロノロ進行に感じられます。また、既得権益を世襲する上流階級(つまりエスタブリッシュメント)も年々固定されてきているため、よほどの才能がなければ下剋上はかないません。
全体的に淀んでいて、低め安定でぬるま湯につかっているのがこの日本社会なのです。バカ正直に努力することを拒み、日本式のわかりにくい細かいルールやマナーに一切配慮せず、倫理観をせせら笑って、誰とでも喧嘩することを恐れない彼ら成功者たちの姿は若者たちに爽快感をもたらしているのです。
また3人が謳い上げる「弱肉強食」の味付けは、1980年代に経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた「新自由主義」を継承するものでもあります。優れた人が手にした果実を凡庸な「その他大勢」の人々に分配することは、経済と社会の停滞をもたらす悪しき「ゆとり政策」であり、本物が本物らしく大暴れできる無法地帯が広がることで闘志がますますたぎる、という世界観なのです。
● カリスマに洗脳された信者が 突きつけられる悲惨な現実
儲けが出せない死に損ないのゾンビ企業を温存させず、やる気のない人間の終身雇用を切り捨てて、弱者をやたらと社会保障や生活保護で甘やかさない。なるべく規制を取り払って市場のパワーを解放し、アンプのダイヤルをマックスの「10」いや「11」にオーバードライブすることで真のイノベーションがもたらされるのだ、と。いざ月面へ、その向こうの火星へ、という勢いで「新自由主義」を加速させていこうとしています。
これらの「新自由主義」を体現している超人たちはそれぞれにスーパーパワーを持っており、断定口調でわかりやすく言葉を放って、そこそこのインテリやぼんやりした権力者たちを一言で論破して回ります。それは「自分は世界のことがわかっているんだ」という強い意思表明であり、神の視点を思わせる全能者のようです。
このバイブスに感応してしびれるのはホワイトカラーの30代から40代男性にとどまらず、デリバリーをするギグワーカーたちすらも彼ら3人の方向を向いただけで「ビビビッ」と魔法にかかってしまう。私はそのワクワク感を「強者憑依」と呼んでいます。
3人の超人から受け取った言葉を身にまとい、その口ぶりを真似てみる。すると自分が1歩、アリババのジャック・マー(馬雲)に近づいたような気がしてくるのでしょう。強者のポジションに成り上がった時を、今からシミュレーションするのが日課になっていく。自分が「SHEIN」や「Temu」を創業したらどうなるだろうか、「いや、イーロン・マスクや柳井正、孫正義のようにでっかい山を当てたなら」と推しているヒーローに近づくためには動画を観て、サブスクライブして、課金してセミナーにも入門。1歩、また1歩とジャック・マーが自分に近づいてくる。特別会員になったらヒーローたちと直接話せるかもしれないという期待がより信仰心を昂ぶらせていきます。
そして、一定の期間が過ぎたある日、かなりのサブスク会員に「その時」が訪れます。「事業は起こせましたか?」「成功を収めましたか?」「今いる会社で昇進、昇給しましたか?」「まだ準備中ですか?」「(堀江さん、成田さん、ひろゆきさんは)あなたが愛するのと同じぐらいにあなたを愛し返してくれましたか?」という悲しい現実が。
● 魔法が消えたあとで 転げ落ちる信者たち
信じていたはずの魔法が薄らいだ時に人はどうなるでしょうか?
ある人は幻滅してサブスクや彼らのコンテンツから離脱するでしょう。あるいは次の自分がなりたい、目指すべきヒーローを見つけて引っ越す人もいるでしょう。逆に、ギャンブル依存症のように前よりもさらに強く3人に帰依する人もいるはずです。
客観的に見れば、それはただ、本人が気づかないうちに日常から転げ落ちているようにも感じられます。実際に転げ落ちる人ほど、まだ大丈夫だと思い込む傾向があり、落ちる速度が加速していることに気づかないまま落下していくのです。
ご参考までにアリババのジャック・マーですが、絶頂にいた2020年、中国政府を批判しました。するとアリババ傘下の金融会社「アント・グループ」のIPO(新規株式公開)が突如中止となり、ジャック・マーは行方不明になったのです。同年、歯に衣着せぬ発言で「中国のトランプ」の異名をとる不動産業界で財を成した富豪のレン・ジチャン(任志強)も、習近平を批判した後に数カ月間行方不明となり、その後、汚職容疑により18年の禁固刑で収監されました。2023年には北京に拠点を置く投資銀行「チャイナ・ルネッサンス・ホールディングス(華興資本)」のバオ・ファン(包凡)会長も連絡が取れなくなりました。
● 魔法が解けたことに ようやく気づいたら
あなたの魔法、まだかかっていますか?
中国政府についてのコメントさえ慎重にすれば、まだいける。周りをグルリと確かめてから物を言うのが、大人の知恵。そう即答できた人もいるかもしれない。中国政府に配慮してから物を言う、といった忖度の集積体を「エスタブリッシュメント」と呼びます。気がついたらグルッと回って青年会議所の玄関に着いていた、というオチです。券を買ってパーティーに行けば自民党の若手代議士と名刺交換ができるかもしれません。でも、その時点でゴールポストは風雲児ではなく、風雲児の取り巻きへとシフトしているんです。
ヒーローごっこがしんどくなったら、まずは転がっている自分を認めましょう。現状を認めましょう。自分をメタ認知して客観的に見ることができれば、一度は止まれます。
他人の言葉を借りず、不器用なままの自分の言葉を見つける。それができれば本当のあなたに再会し、その時から自分自身の変化が始まっていくのです。
モーリー・ロバートソン
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