( 243791 )  2025/01/03 17:21:54  
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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)は、これまで北陸新幹線ルート問題に関する記事を当媒体に何本も書いてきた。その多くのコメントを通じて、小浜ルートの中止や米原ルートの再検討を求める声が高まっていることを実感している。 

 

 米原派のコメントのなかで多く見られる意見は、 

 

「米原ルートでも、新大阪~米原間の整備は必要だ」 

 

というものだ。この意見に対して、さまざまな案が提案されている。例えば、 

 

・東海道新幹線と並行して、新大阪~米原間を全線複々線化する案 

・米原から草津線の貴生川や奈良線との交差箇所に新駅を作り、新大阪まで繋げる案 

・米原から伊賀上野を通り、奈良に至るルートで、奈良~新大阪間はリニア中央新幹線と共同で整備する案 

 

などだ。しかし、これらの案が実現するためには、滋賀県が同意することが前提となるが、それが難しいのではないかと考えている。もし東海道新幹線を活用せずに新線を作るとなると、その費用をかけるなら、小浜ルートを選択したほうがいいのではないかとも思う。 

 

 とはいえ、京都を通過しない点では、小浜ルートよりも環境面での利点がある議論ではある。加えて、滋賀県を説得するための有力なカードがひとつある。それは、滋賀県が構想している「通勤新線計画」を北陸新幹線の一部として整備する案だ。この提案なら、滋賀県も賛成するかもしれない。 

 

 そこで今回は、滋賀県が構想する通勤新線計画について紹介し、それを北陸新幹線の一部として整備した場合の効果と課題についてまとめた。 

 

びわこ京阪奈新線構想の図(画像:滋賀県) 

 

 滋賀県が構想する通勤新線計画は、1989(平成元)年から進められている「びわこ京阪奈新線」に基づいている。 

 

 この新線は、近江鉄道の米原駅を起点として、近江鉄道本線や信楽高原鉄道を経由し、京都南部地域を通ってJR学研都市線に至る予定だ。建設区間は、信楽高原鉄道の信楽駅からJR京田辺駅または松井山手駅までの約30kmにわたる。 

 

 現在、滋賀県や彦根市、近江八幡市、甲賀市、東近江市、米原市、日野町、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町などの1県10市町で構成される「びわこ京阪奈線(仮称)鉄道建設期成同盟会」が、実現に向けたPR活動を積極的に行っている。 

 

 また、近江鉄道と信楽高原鉄道は、新線の名前を冠した企画乗車券「びわこ京阪奈線フリーきっぷ」を販売するなど、ユニークな取り組みを進めている。 

 

 

びわこ京阪奈線(仮称)鉄道建設期成同盟会 概要(画像:滋賀県) 

 

 この新線について、滋賀県は 

 

「近畿圏と東海、北陸経済圏とを結ぶ交通の要衝の位置にあり、震災等により交通が寸断された場合、重要なバイパス機能(第二東海道線)の役割を果たす」 

「滋賀県から関西文化学術研究都市への所要時間は、大幅に短縮されます。新しい地域との結びつきが、新しい可能性を生み出します」 

 

としている。信楽高原鉄道のウェブサイトによると、新線が実現すれば、米原~京田辺間の所要時間が2時間38分(鉄道1時間38分+車1時間)から1時間16分に短縮され、時間が半分になるという。 

 

 しかし、期成同盟会の方針は 

 

「まずは地域と鉄道事業者が一体となって既存鉄道の利用促進に取り組む」 

 

とされており、このままでは実現までの道のりは長いだろうと筆者は感じている。 

 

びわこ京阪奈新線構想の概要(画像:滋賀県) 

 

「米原ルートでも、新大阪~米原間の整備は必要だ」というコメントのなかで、具体的な経由地が示されたものの多くは、実際には「びわこ京阪奈新線」とほぼ同じルートに当たるものだった。 

 

 米原ルートの新大阪までの別線案は、滋賀県が受け入れることは難しいと思われるが、もしびわこ京阪奈新線を北陸新幹線の一部として整備する条件なら、検討の余地はあるだろう。このルートであれば、小浜・京都ルートと同様に松井山手駅も通るし、京都市とともに地下水問題で関わる交野市を避けることができる。 

 

 そこで、北陸新幹線を米原・びわこ京阪奈ルートで整備した場合の詳細なルートや時刻を検討し、時間短縮効果などを試算してみた。これもひとつの仮定として楽しんでいただければと思う。 

 

 まず、ルートと駅の設置についてだ。新幹線なので多くの駅を設けることは現実的ではないが、びわこ京阪奈新線を兼ねて整備する場合、最低限、ルート上で交差する路線との乗換駅や、信楽高原鉄道の各駅からの利用者を拾うための駅設置は必須となる。 

 

 また、できるだけ市街化されていない駅を選びたい。そこで、新大阪~米原間で候補となる駅は、 

 

・学研都市線「松井山手駅」 

・奈良線「山城青谷駅」 

・信楽高原鉄道「信楽駅」 

・信楽高原鉄道・近江鉄道・草津線「貴生川駅」 

 

である。特に注目すべきは、松井山手~山城青谷間の6.7kmという駅間の短さだ。都心部以外でこの駅間が短い例はあり、九州新幹線の新鳥栖~久留米間は7.1kmだ。1区間くらいなら許容されるだろう。また、信楽~貴生川間も11.9kmと短いが、北陸新幹線には加賀温泉~小松間の14.5kmという例もあり、特に問題にはならないと考えられる。 

 

 

新大阪~山城青谷間のルート拡大版(画像:北村幸太郎・Open Street Map) 

 

 松井山手~米原間はほぼ「びわこ京阪奈新線ルート」と同じだが、新大阪~松井山手間は小浜ルートとは少し異なるルートになる。これは、びわこ京阪奈ルートで整備する場合、松井山手駅が学研都市線とほぼ直角に交わる形で、山手幹線道路の直下に設置される可能性が高いためだ。 

 

 松井山手からは、トンネルの非常口設置も考慮し、山田池公園や枚方市駅近くを通過。その後、東海道新幹線の鳥飼車両基地付近で東海道新幹線と合流し、新大阪まで地下で進む計画が想定される。 

 

 このルートは、将来的に山陽新幹線が北陸新幹線の新大阪地下駅に乗り入れる際に備えたもので(国交省にはそのような計画がある)、北陸新幹線の線路から鳥飼車両基地への出入線が可能になるようにするための準備を兼ねている。 

 

 また、地下水問題で市長が苦情を発している交野市を避けることができる。 

 

北陸新幹線びわこ京阪奈ルート(画像:北村幸太郎、OpenStreetMap) 

 

 ルートと駅が確定したので、次に考えるべきは運行ダイヤである。今回のケースでは、関西と北陸を結ぶ新幹線、東海道新幹線が不通になった場合の振替、新幹線と滋賀県を繋ぐ通勤新線の3つの役割を併せ持つことを考慮する必要がある。 

 

 また、通勤新線としての役割も持つため、関西圏のJRで採用されている15分サイクルダイヤを念頭に置く必要がある。このため、新大阪~金沢間には以下の3つの列車種別を設け、それぞれ30分間隔で運行することが望ましい。 

 

・かがやき 停車駅:新大阪、福井、金沢 

・つるぎ 停車駅:新大阪、松井山手、山城青谷、米原、福井、金沢 

・はくたか 各駅停車タイプ 

 

「つるぎ」と「はくたか」は交互運転とし、新大阪~山城青谷間は15分おきとなるよう調整する。 

 

 また、米原での東海道新幹線「ひかり」「こだま」との接続を考慮する必要もある。以前の米原ルート試算記事と同様に、現在の「ひかり」の約半数は米原を通過して京都に5分停車するが、京都の停車時間を削減して新たに米原停車を加えると仮定し、東海道新幹線の米原停車列車を毎時3本まで増やすダイヤを想定した。 

 

 なお、各駅間の運転時分は、秒速70m(時速250~255km)で計算している。1駅停車の場合、加算時間は4分とした。この4分は、鉄道事業者の運転教習所に納入された音楽館のトレインシミュレーター九州新幹線編を用いて、時速260kmからの減速開始点から停車位置までの時間差を測定した結果、概ね1分30秒程度であったことを基にしている。減速1分30秒、乗降1分、加速1分30秒の合計4分とし、通過待ちや接続待ちがある場合はその分を追加している。 

 

 

北陸新幹線米原・びわこ京阪奈ルート暫定開業時刻表(画像:北村幸太郎) 

 

 この列車体系を前提に、まずは松井山手までの暫定開業時のダイヤを想定する。新大阪駅の工期が長いため、完成までの間、学研都市線とおおさか東線を経由して特急「サンダーバード」を運行する必要が出てくるだろう。また、学研都市線からJR東西線を経由して京橋、北新地、尼崎までの特急設定も考えられる。 

 

 例えば、「らくラクかわち」という名称で運行されるかもしれない。学研都市線のダイヤに合わせる場合、この「サンダーバード」と「らくラクかわち」を30分おきで交互に走らせることになるだろう。JR西日本なら、JR東西線方面とおおさか東線方面に分かれる放出駅で「サンダーバード」とJR東西線直通列車、「らくラクかわち」とおおさか東線列車が接続し、どちらの特急を利用しても新大阪や京橋へのスムーズなアクセスが可能になるだろう。 

 

 このような条件で試算すると、松井山手暫定開業時でも、新大阪~金沢間は最速1時間52分(松井山手乗り換え時間14分)、京橋~金沢間は最速1時間48分(同10分)になる見込みだ。 

 

 また、東海道新幹線乗継では、新大阪~金沢間が最速1時間24分、京都~金沢間は1時間9分となる。 

 

 びわこ京阪奈線の代替機能としては、松井山手での乗り換えは残るものの、例えば貴生川から新大阪までは1時間7分(9分短縮)、京橋までは59分(35分短縮)となる。信楽から新大阪までは1時間(44分短縮)、京橋までは52分(1時間10分短縮)となる。また、信楽高原鉄道が比較対象として挙げている米原~京田辺間2時間38分に対しては、米原~松井山手間の所要時間は新幹線1本で27分となり、2時間以上の大幅な短縮が実現する。 

 

 奈良線沿線からも、乗り換えは2回になるが、城陽から京橋までは47分(学研都市線内は快速利用・乗り換え時間込み)となり、黄檗駅で京阪線に乗り換えるルートに比べて21分の短縮となる。 

 

北陸新幹線米原・びわこ京阪奈ルート時刻表(画像:北村幸太郎) 

 

 松井山手が先行開業し、数年後に新大阪駅まで全線が開通した場合、ようやく本格的な時間短縮効果が現れることになる。新大阪~敦賀間の建設距離は、小浜ルートが約140km(当初)であるのに対し、米原・びわこ京阪奈ルートは154kmと1割ほど長くなっているが、その分遠回りとなるにも関わらず、最速の列車の所要時間は意外にも小浜ルートより短くなる。 

 

 まず、新大阪~金沢間では、小浜ルートより6分短い1時間14分を記録する。距離が長いにもかかわらず速いのは、京都駅を通らないため、途中の停車駅が減り、結果的に所要時間が短縮されたためだ。新大阪~福井間はノンストップで52分となる。このほか、新大阪から富山までは1時間35分、長野までは2時間21分、東京までは3時間45分程度で到達する見込みだ。東海道新幹線「こだま」の所要時間(3時間54分)より10分ほど早く、東海道新幹線が運休した際の代替手段として十分な速さを誇るだろう。 

 

 次に、びわこ京阪奈線の区間では、松井山手での乗り換えが解消されることで、さらに所要時間が短縮される。例えば、貴生川から新大阪までは37分(39分短縮)、信楽から新大阪までは30分(1時間14分短縮)、米原から松井山手までは27分(2時間11分短縮)となり、非常に大きな時間短縮が実現する。この効果は、滋賀県を交渉のテーブルに引き込むための強力な要素となりそうだ。何より、新幹線という形であっても、米原ルートとの連携による「びわこ京阪奈線」の誘致は、この路線の実現にとって絶好のチャンスといえるだろう。 

 

 奈良線沿線から山城青谷駅で乗り換えて利用する場合でも、時短効果は大きい。城陽から新大阪までは26分(京都から新快速利用より28分短縮)となり、現行の半分以下の時間で到達できるようになる。 

 

 

 
 

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