( 243881 )  2025/01/03 18:58:58  
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東山紀之 

 

 2023年に大々的に報じられた故・ジャニー喜多川氏による性加害問題。旧ジャニーズ事務所は実質解体となり、昨年は「SMILE-UP.」(スマイルアップ、以下スマイル社)による被害者への補償内容、進捗についてさまざまな意見が飛び交う一年となった。さらに、その過程では、多数の“虚偽申告”が行われるなどの混乱も。 

 

 交渉の主体となっていた「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は昨年9月7日に解散し、テレビ各局が相次いで旧ジャニーズタレントの起用再開にかじを切ったが、そんな中、被害者団体の元幹部が旧ジャニーズ事務所から提訴されるという異例の事態も起こっており……。 

 

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 故・ジャニー喜多川氏による性加害問題が大々的に報じられてから約1年半。旧ジャニーズ事務所は実質解体となり、現在はタレントのマネジメント業務を「STARTO ENTERTAINMENT」(スタートエンターテイメント)が行い、スマイル社が被害者への補償業務を行っている。 

 

 スマイル社がジャニー氏による性加害の事実を認め、謝罪したのは一昨年、2023年秋のこと。以来、昨年10月末までに524人の被害者と補償内容で合意したという。 

 

「これまでにあった被害申告は1000人を超えますが、連絡が取れなかったり、在籍や被害の事実が確認できなかった申告者も多数いました。彼らを除いた補償対象者の約97%とすでに合意に達している状況です」(民放キー局記者) 

 

 一方でスマイル社が設置した、補償業務を担う被害者救済委員会との交渉がまとまらず、調停へと移行した被害者も4人いる。また、ここまでの過程では、多数の虚偽申告が何者かによって行われるという混乱も生じていた。 

 

(以下、「週刊新潮」 2024年11月21日号記事をもとに再構成しました。日付や年齢、肩書などは当時のまま) 

 

 調停に移行した4人の被害者の中で、金額面で折り合いがつかなかったのが「ジャニーズ性加害問題当事者の会」(24年9月7日解散)副代表の石丸志門氏(57)だ。 

 

「救済委員会が通知した補償額と、石丸氏の要求額の開きが大き過ぎて、調停案の取りまとめができなかったと聞きます。そのため調停委員会がスマイル社側に調停申し立ての取り下げを検討するよう指示し、同社が取り下げを決断。併せてスマイル社は11月5日、石丸氏に対し債務不存在の確認を求めて提訴しました」(前出の記者) 

 

 スマイル社側は一貫して補償金を支払う姿勢を見せてきたが、石丸氏の主張との隔たりは埋めようがなく、裁判所に判断を委ねることにしたのだという。 

 

 

 決裂の要因となった石丸氏の要求額とはいくらなのか。現在、生活保護を受けながら埼玉県内のアパートで暮らす石丸氏を訪ねると、この間の経緯について初めて詳細を明らかにした。 

 

「金額面で調停が不調に終わったのは事実です。スマイル社側が当初、私に通知した補償額は他の被害者と同じ1800万円。最終的に2000万円に増額されましたが、受け入れられる金額ではありません」 

 

 こう話し始めた石丸氏はさらに驚きの事実を明かす。 

 

「私が最初に提示した補償額は18億4568万32円。“高額だ”と思うかもしれませんが、私なりに根拠のある数字です。ジャニーズに入ったことで、私の人生はメチャクチャになりました。だからジャニーズに入らず普通に就職していた際の生涯賃金と、ジャニーズで性被害を受けることなく順風に活動していたケースの想定収入を試算し、その中央値を逸失利益として計上しました」(石丸氏) 

 

 それが5億円程度に上るそうで、さらに海外への移住費も計上したと話す。 

 

「当事者の会の中には、告発後、何者かに階段から突き落とされたメンバーもいます。私も顔が割れていて、常に身の危険を感じながら生活しています。アメリカへの留学経験があるので、できれば日本に近いハワイに移住して安全で安心できる暮らしを送りたい。移住にかかる経費の中には永住権(グリーンカード)取得費用の105万ドル(約1億6000万円)も盛り込みました」(石丸氏) 

 

 その他、諸々を積み重ねて18億円になったとか……。日本における給与所得者の生涯年収の平均が2億円前後とされているので、精神的苦痛を考慮してもかなりの高額なのは事実であろう。もちろん彼がジャニーズでスターになっていればこのくらい稼いだというシミュレーションも可能ではあるものの、そのような請求が現実味のあるものなのかは難しいところだ。 

 

 ただし石丸氏もその後、ハワイ移住を諦めるなどし、要求額を9億円、4億円と段階的に引き下げたという。 

 

「旧ジャニーズ事務所は“法を超えた補償”をうたっていたはず。でも結局は、法の枠組みの中でしか補償は行われていません。私もスマイル社側が提示した2000万円に納得できる根拠があれば受け入れる気持ちは持っています」(石丸氏) 

 

 スマイル社にも提訴の理由などについて尋ねたが、 

 

「プライバシーを尊重する観点から、個別事案についてのコメントは差し控えさせていただきます」 

 

 

 前述のように、被害申告者の半分が“救済”されたものの、残りの半数近くは音信不通や補償拒否だった。この事実について、 

 

「歯痒く、もどかしい思いでいます」 

 

 と、あるジャニーズJr.のOBは胸中を明かすのだ。 

 

 すでに補償を受けたこのOBが感じる歯痒さは、 

 

「スマイル社が補償を行わないと判断した申告者は、在籍も被害も確認できなかったということです。しかもその“虚偽申告”は反社会的勢力などが行ったフシがあるとの情報が、被害者のあいだでうわさされている」 

 

 たしかにスマイル社も、 

 

〈申告者が日本国内で被害に遭ったとする時期には、故ジャニー喜多川が外国に滞在していた〉 

 

 などの申告内容を、補償拒否通知203件の類型として示している。が、裏付けの取れぬ申告をした人たちの素性ははっきりしない。そこで先のOBが語る“虚偽申告者情報”をたどっていくと、詐欺やヤミ金で手が後ろに回り、報じられたケースに行き着いた。 

 

 まずは、1990年代後半、詐欺罪で逮捕、起訴された“元暴力団員の男”として報じられた申告者。関東のディスカウント店やコンビニで言いがかりをつけ、現金をだまし取った罪だ。 

 

 続いて、加害者がジャニー氏であると認定されず補償不可となった人物。中学生時代に番組リハーサルを観覧しに行った際に性被害を受けたと申告したものの、救済委員会を納得させられなかったようだ。彼は十数年前、出資法違反などで逮捕されている。自宅でヤミ金を開業し、稼いだ金を芸能人の追っかけに使っていたという。 

 

 最近のケースでは、新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取って詐欺で逮捕された人物も、被害補償を求めていた。 

 

 もちろん被害者であることと反社会勢力や詐欺師であることは両立しないわけではないのだが……。 

 

 これらの申告者情報をスマイル社に尋ねると、 

 

「被害を申告された方のプライバシーを尊重する観点から、個別の回答は控えさせていただきます」 

 

 ジャニーズJr.OBのもどかしさは募るばかりだ。 

 

「ジャニー元社長はもうこの世にいませんし、スマイル社も救済委員会も、本当のことは誰も知らない。被害を立証するものがない以上、申告の真偽は評価が難しく、虚偽申告が通ってしまっている可能性もあります。それでは真の被害者は救われません」 

 

 先述の石丸氏のようにいまだ合意に至っていない被害者もいれば、虚偽申告で金銭を受け取ろうとしている人物がいる可能性も否定はできない。2024年は被害者補償について大きな進展を見せつつも、奇麗な決着の難しさもまた示した一年だったともいえそうだ。 

 

デイリー新潮編集部 

 

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