( 244471 )  2025/01/05 03:40:41  
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現時点では奥羽新幹線、羽越新幹線の必要性は極めて乏しいと言える(写真:旅風/PIXTA) 

 

各地で計画・進行している鉄道に関する「あの計画」はいったいどうなっているのか、そしてそれらの計画が地域社会にもたらすものとは?  

新幹線の延伸や在来線の再整備、地方鉄道の存続問題など、それぞれの地域で進行する鉄道関連事業、鉄道ファンのみならずそれぞれの地域に住む人々なら誰もが気になる計画について、YouTubeで大人気の鉄道アナリストが徹底解説!  

鐵坊主さんの著書『鉄道路線に翻弄される地域社会 - 「あの計画」はどうなったのか?』から一部抜粋、編集してお届けします。 

 

 東北地方には、福島から山形を経由し、秋田へと至る奥羽新幹線、新潟から秋田を経由し、青森へと至る羽越新幹線という2つの新幹線の基本計画路線があり、山形県を中心に誘致活動が行われている。 

 

 しかし、基本計画路線に定められてから50年以上の歳月が流れた現在も、その実現に目処は立っていない。 

 

 この2つの路線の実現性について考えてみよう。 

 

■奥羽新幹線と羽越新幹線の概要 

 

 2つの路線の想定されているルートと駅の設置場所は下の地図に記した通りである(※外部配信先では図を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。 

 

 奥羽新幹線は米沢、赤湯、山形、さくらんぼ東根、新庄、湯沢、横手、大曲に駅が設置され、秋田で羽越新幹線に合流する。 

 

 羽越新幹線の起点は北陸新幹線の上越妙高駅であり、長岡駅で上越新幹線に合流する。長岡駅から新潟駅までは上越新幹線と路線を共有し、新潟駅からは鶴岡、酒田、秋田を経由し、青森へと至る。 

 

 上越妙高駅から長岡駅の区間については、新潟県が信越本線高速化事業として、別に検討を進めている。 

 

 これらの新幹線の開業による時間短縮効果は、山形県や秋田県などが独自に試算しており、主な区間については、下の表の通りである。 

 

 区間によって試算方法が異なるため、東京~新庄と東京~秋田の新幹線利用の所要時間が同じになるなど、数値に整合性がない点は了承願いたい。 

 

 また、東京~秋田の現行の所要時間は山形新幹線と奥羽本線の在来線列車利用によるもので、秋田新幹線利用の時間ではない。秋田新幹線を利用すれば、東京駅から秋田駅まで最速列車で3時間37分である。これを基準にすれば、短縮効果は1時間7分とかなり違った結果となる。 

 

 新幹線建設効果は所要時間短縮が最も大きなものだが、近年増加する激甚災害に対する線路施設の強靭化と運行の安定、踏切のないフル規格新幹線による安全確保もメリットとして挙げられる。 

 

 

 それでもこれらの新幹線計画は現在に至っても具体化していないのは、それ以上に障害も多いためだ。 

 

■本当に必要としているのは山形県だけ?  

 

 奥羽新幹線、羽越新幹線のルート上にある各県の対応を見ると、その建設への熱意にはかなりの温度差がある。 

 

 秋田県は羽越新幹線と奥羽新幹線により、県の南北のアクセスを改善できるが、旅客流動の大きな首都圏、仙台とは秋田新幹線で直結している。 

 

 さらに秋田新幹線の難所である仙岩峠では新仙岩トンネル(仮称)建設計画も進行中で、これにより所要時間の7分短縮と冬季の降雪時などによる遅延を防ぐことができ、運行の安定性が向上する。 

 

 そのため、多大なコストを投入して、新たな新幹線を建設する必要に迫られていない。 

 

 青森県もフル規格の東北新幹線によって首都圏や仙台と直結している。 

 

 羽越新幹線により県西部の交通アクセス改善を図ることができるが、県西部の中心である弘前駅は青森駅から普通列車でも約40分と、こちらも建設の意義は極めて低いといえる。 

 

 新潟県では上越妙高駅と長岡駅の信越本線高速化が羽越新幹線の一部と考えられるが、新潟駅から東側については後回しといった扱いである。 

 

 福島県は奥羽新幹線の10km程度が通過するだけであり、新駅設置も見込まれないため、そもそも福島県にはほとんど関係のない話である。それにも関わらず、奥羽新幹線が実現すれば、並行在来線分離が予想される。 

 

 福島県内では、山形線の福島駅から庭坂駅までのわずか7km程度の区間ではあるが、奥羽新幹線のために福島県が引き受ける理由は見当たらず、奥羽新幹線建設においては大きな問題となるだろう。 

 

 このように、奥羽新幹線、羽越新幹線を本当に必要としているのは山形県のみといっても過言ではなく山形県の誘致活動が目立つのも、そうした事情による。 

 

■その山形県ですら実現に向けて問題山積み 

 

 羽越新幹線の予定ルートとなる羽越本線は、極めて旅客流動が小さい。 

 

 この路線では都市間輸送として、特急いなほが1日7往復運行されているが、そのうち5往復は新潟~酒田間のみで、秋田まで運行されるのは2往復に過ぎない。 

 

 羽越新幹線で最も利用される区間は、新潟駅と山形県庄内地方の鶴岡駅・酒田駅と考えられるため、この区間の流動を試算してみよう。 

 

・特急いなほ……1編成あたり最大428席×14本(7往復)=5992席 

 

 

・ANA 羽田空港~庄内空港……1便あたり166席×10本(5往復)=1660席 

・高速バス 酒田・鶴岡~東京(夜行便)……1台あたり30席×6本(3往復)=180席 

 これらに合計すると1日8000人弱となるが、利用率を60%前後と考えても利用者数は1日5000人程度。羽越新幹線を実現するためには、あまりにも小さな市場である。 

 

■フル規格建設で失われるミニ新幹線のメリット 

 

 奥羽新幹線は福島~新庄間ではミニ新幹線の山形新幹線として運行されており、これをフル規格に置き換え、さらに新庄駅から秋田駅への延伸となるが、新庄駅から先の区間はほとんどが秋田県内となり、先程も触れたように、秋田県が前向きに取り組むとは考えづらい。 

 

 そして、山形新幹線をフル規格の奥羽新幹線に置き換えた場合、山形新幹線停車駅である高畠駅、かみのやま温泉駅、天童駅、村山駅、大石田駅には奥羽新幹線の駅が設置されない公算が高い。 

 

 これらの駅がある自治体は、首都圏とのダイレクトアクセスを失うことになり、大幅な利便性低下が予想される。また、ミニ新幹線とはいえ、「新幹線停車駅」の看板を失うことは、自治体としての存在価値にも関わることであり、簡単に容認できることではない。 

 

 東京~山形の旅客流動では、現状でも山形新幹線がシェア98%と圧倒しており、十分機能している。さらに、山形新幹線でも板谷峠での防災、高速化をはかる米沢トンネル(仮称)建設が計画されており、これが実現すれば、東京~山形で約10分の短縮と、フル規格にせずとも高速化が図れるのである。 

 

 このように、現時点では奥羽新幹線、羽越新幹線の必要性は極めて乏しいといえる。 

 

 これらの新幹線の建設の可能性があるとすれば、国が物流の安定化、冗長性を向上するため、貨物新幹線の実現に向けて動き出す……そのくらいの国家的なプロジェクトが必要であろう。 

 

鐵坊主 :鉄道解説系YouTuber 鉄道アナリスト 

 

 

 
 

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