( 244781 )  2025/01/05 16:48:52  
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 少子高齢化と人口減少が同時に進む日本で、最も悲惨な世代と言えるのが「団塊ジュニア」だろう。1971~1974年生まれの彼らは「就職氷河期に遭遇」「給与が上がらない」「退職金も低下」という三重苦を味わう世代だ。2040年には高齢者の仲間入りを果たす彼らの労苦は報われることはあるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「日本の今後を考えれば、さらなる厳しい試練が待ち構えている」と指摘する。団塊ジュニアを襲う悲惨な末路とはーー。 

 

 2025年は、終戦直後に生まれた「団塊の世代」が75歳以上となる。第2次大戦後の復興期、1947~1949年の第1次ベビーブームには年間250万人超が生まれた。その子供たちの世代が1971~1974年生まれの「団塊ジュニア」だ。2040年には、第2次ベビーブームに生まれた彼らも高齢者の仲間入りをする。 

 

 今や50代となった団塊ジュニアは、時代の移り変わりに翻弄されるような歩みを強いられてきたと言える。生まれた時でこそ高度経済成長期の恩恵があったかもしれないが、親世代のようにバブル期を謳歌することはできず、日本経済の成長力に陰りが見える就職氷河期に社会人となったのだ。働く場を確保しても、そこから前の世代のようには給与が上がらない長いトンネルの中で厳しい生活を余儀なくされてきた。 

 

 ただ、人生100年時代を考えれば、50代は「折り返し地点」。収入は最も高い年代に入り、まもなく迎える定年退職に向けて「待ちに待った夢の老後生活」のプランを描く。国税庁の「民間給与実態統計調査」(2022年)によれば、50~54歳の平均給与は537万円で50代は収入が最も高い時期となる。団塊ジュニアは「不遇の世代」といわれてきたが、ようやく自分たちも親世代のようにガッポリと退職金を手にし、年金生活を謳歌できるはずと思ってきたに違いない。 

 

 しかし、厚生労働省の「賃金事情等総合調査」(2021年)によれば、老後生活を支える退職金の額は以前と比べて減少傾向にある。2007年の平均額は2491万円だったが、大企業でも約2230万円にまで減っているのだ。中小企業の場合はそれよりも1000万円ほど低い状況にある。退職給付制度がある企業そのものの割合も15年前から1割近く低下した。 

 

 

 コツコツと真面目に働き続けてきても、老後資金の大事な収入源すら失いかねない悲惨な世代と言える。 

 

 しかも、団塊ジュニア世代は一定の年齢になると役職を外される「役職定年制」の対象となる。部長級や課長級といった管理職から外れて専門職に就いたり、降格になったりする制度だ。1986年に成立した高年齢者雇用安定法に伴い、定年を定める場合には60歳を下回らないようにする努力義務が課され、大企業を中心に役職定年制が導入されてきた。 

 

 法定ではないものの、多くは55歳前後で役職を離れるケースが目立つ。この結果、本来ならば加齢とともに上昇していく賃金は抑えられることになる。公益財団法人「ダイヤ高齢社会研究財団」と明治安田生活福祉研究所の調査(2018年)によれば、役職定年で4割の人の年収が半分未満に減少し、6割がモチベーションを低下している。対象となる年齢や役職、その後の待遇は企業それぞれとなっているが、年齢によって年収が「役職定年前の半分」にまで下がってしまうのだ。 

 

 役職定年制に伴う専門職への移行や配置転換、子会社への出向などによって大幅な給与減が生じれば、まもなく受け取ることができる年金受給額にも影響する。厚生年金部分(2階部分)の受給額が減ることになるのだ。人事院の「民間企業の勤務条件制度等の調査」(2023年)によれば、事務・技術関係職種の従業員がいる企業のうち「定年制がある」企業の割合は99.4%で、 定年年齢が「60歳」の割合は75.7%、「65歳」の企業は19.6%になっている。「役職定年制がある」と回答した企業は16.7%に上り、「今後も継続」するとした企業は95.3%に上る。 

 

 ただ、またしても国は制度見直しに動き出している。2024年2月、政府の「新しい資本主義実現会議」で当時の岸田文雄首相は「企業側には人手不足の中で、仕事をしたいシニア層に仕事の機会を提供するため個々の企業の実態に応じ、役職定年・定年制の見直しなどを検討いただきたい」と求めた。国は労働力不足をにらみ、働く意欲のある高齢者が活躍できるよう65歳までの雇用確保を義務化し、70歳までの就業機会確保を求める。 

 

 

 役職定年は一般的に「55歳前後」で迎えることが多い。そこで給与減を強いられたかと思ったら、今度は65歳、70歳まで働き続けることになりそうなのだ。ちなみに足元のデータを見ると、60~64歳の平均年収は440万円程度と30代前半の水準となり、65~69歳は20代半ばのレベルにまで落ち込む。会社の制度や個人のスキルなどによって異なるものの、大半の人はさらに給与が減少することを認識しなければならない。 

 

 高度経済成長期には勢いよく賃金が上昇していたものの、日本の平均給与は30年近くも上向かない状況が続いた。その状況で働き続けてきたのが団塊ジュニア世代なのだ。転職や副業による収入アップを国は期待するが、シニア転職は厳しさを増す。かつて55歳だった年金の受給開始年齢は原則65歳となり、さらに引き上げられるとの見方も広がる。 

 

 団塊ジュニア世代が高齢者の仲間入りをする2040年頃は高齢者人口がピークを迎える。すでに政府は様々な社会保険料アップに向けた施策を打っているが、より高齢者に負担を求めていく可能性は高い。ガッポリともらえるはずの退職金が減り、加齢とともに給与は下がる。一方で社会保険料をはじめとする負担増が待ち構える。 

 

 総務省の「家計調査報告」(2022年)を見ると、世帯主が50代の消費支出額(2人以上世帯)は月平均で35万9963円。60代は29万9362円、70代以上は23万7203円となっている。所得が多い現役バリバリの時は楽かもしれないが、これからのシニアライフは給与所得だけでは悠々自適といかない可能性があるだろう。 

 

 子供の結婚資金や孫の誕生祝い、車の買い換え……。シニアになれば思わぬ支出増に悩まされる人は少なくない。65歳以上の高齢者世帯の平均年間所得は312万6000円と全世帯平均の半分となり、年金のみで生活する人は5割に上る。厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2021年度)によると、厚生年金受給者の受給額(基礎年金を含む)は「月額5万円以上10万円未満」が20.8%、「月額10万円以上15万円未満」が30.8%、「月額15万円以上20万円未満」が30.6%、「月額20万円以上25万円未満」が13.8%となっている。「月額5万円未満」も2.4%いる。 

 

 

 老後生活を迎えるまでの貯蓄が少なく、まだローン返済が残っているような世帯には苦難の道が待っていると言えるだろう。 

 

 生涯の医療費(健康保険給付含む)は3000万円近いといわれるが、その約6割は65歳以上の高齢期に使うことになる。年金収入に依存する老後生活で支払う医療費や保険料も小さくない。世界トップレベルにある長寿国であることを考えれば、親の介護にあたる人も多いはずだ。一方で、自分たちの世代を支える子供の数は減少の一途をたどり、わが国の社会保障システムは危機を迎える。 

 

 2019年、金融庁のワーキンググループは老後生活に不足する「2000万円」問題を提起した。だが、物価上昇と同時に国民の負担増が増していく中、とても2000万円だけでは足らないとの声は広がっている。一体、私たちが何をしたと言うんだーー。こんな団塊ジュニア世代の怒りが爆発するのは時間の問題かもしれない。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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