( 244846 )  2025/01/05 18:06:58  
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ホンダ日産経営統合の陰で存在感が高まる三菱自動車(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ) 

 

 ホンダ・日産自動車という大型経営統合の行方が注目されているが、その中で決して無視できない勢力となりそうなのが三菱自動車だ。年産80万台弱とホンダ、日産よりはるかに小規模ながら、実は一番ガッチリ稼いでいる。「他社のプラットフォームを使わざるを得ない逆境でも人気モデルを創出するしたたかさがある」と評価する自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が、三菱自動車の好調ぶりをレポートする。(JBpress編集部) 

 

■ 小規模ながらも営業利益率は「乗用車メーカー4位」の三菱自動車 

 

 にわかに経営統合話が持ち上がった日産自動車とホンダ。経営統合の基本合意書を交わした昨年(2024年)12月23日夕刻に行った記者会見の席上では、 

 

 「ホンダによる日産の救済ではない」(三部敏宏・ホンダ社長) 

「どちらが上でどちらが下ということではない」(内田誠・日産社長) 

 

 など、対等な立場であることが強調された。だが、ホンダの三部社長が経営統合を実行する条件として日産が経営再建計画「ターンアラウンド」を成功させることを挙げるなど、丁々発止の雰囲気を漂わせていた。 

 

 その会見の席にもう1社、日産自動車が筆頭株主となっている三菱自動車の加藤隆雄社長が立っていた。2023年の世界販売は78万台と、ホンダ(398万台)、日産(337万台)に比べてはるかに小規模な同社。今回の基本合意書締結においても「2025年1月末までにホンダ・日産の統合に合流するかを決める」とあくまで“脇役”で、会見での発言機会もほとんどなかった。 

 

 しかしながらこの三菱自動車、立ち回りによっては新アライアンスにおいて、単なる脇役に終わらない可能性がある。 

 

 確かに規模はトヨタ自動車の100%子会社であるダイハツ工業を除くと日本の乗用車メーカーの中では最も小規模。首位トヨタ自動車、2位日産自動車、そしてマツダ、ホンダ、三菱自動車が3位を争うという構図だった1990年代に3位グループから一頭抜け、業績が悪化していく日産に肉薄する勢いを見せた時代の面影はかけらもない。 

 

 ところがである。四輪車事業の収益性は決して悪くない。 

 

 今年度上半期の三菱自動車の営業利益率は6.9%。これはトヨタ、スズキ、スバルに次ぐ乗用車メーカー4位。同じ時期の日産の四輪部門はマイナス2.7%と赤字、ホンダも1~2%台で推移していた2010年台後半よりは通貨安の追い風もあってやや改善されたものの、3.7%にとどまっている。 

 

 三菱自動車の利益創出力は経営統合の主役である2社よりはるかに高いのだ。 

 

 

■ 売れるクルマのなかった三菱を大きく変えた「アウトランダーPHEV」 

 

 三菱自動車といえば、2000年と2004年の2度のリコール情報隠蔽、2016年の燃費偽装と、経営を揺るがすスキャンダルをたびたび起こしたことは、今なお多くの人の記憶に残っている。 

 

 2016年に日産傘下入りしてからもなかなか禊(みそぎ)を果たしきれないまま苦境が続いた。今日の日産の状況を表す言葉のひとつに「売るクルマがない」という状況があるが、三菱自動車は今の日産どころではない売るクルマのなさだった。 

 

 その状況が大きく変化したのは、2021年末にプラグインハイブリッドタイプのSUV「アウトランダー」を発売してからだ。中心価格帯が500万円超という高額モデルであるにもかかわらず、販売台数は当初の想定を大きく超えた。当時、古株の三菱自動車社員が「前に販売好調というプレスリリースが出たのはいつのことだったか思い出せないほど久しぶり」と語ったほどだ。 

 

 大衆商品であるクルマの販売動向はすべてが論理的に説明のつくものばかりではない。“水モノ”と称されるように、たまたま仕様やデザインが顧客の心をつかんだ、あるいは「はやり廃り」というファクターもある。アウトランダーにももちろんそういう要素はあった。 

 

 それを前提としてなおアウトランダーが注目に値するのは、その成り立ちだ。アウトランダーのPHEVモデルが初めて登場したのは2012年のことで現行は第2世代だが、両車の間には大きな違いがある。 

 

 第1世代が三菱自動車の自前技術で固めたモデルだったのに対し、現行はルノー=日産アライアンスのモジュールアーキテクチャ「CMF-C/D」を用いて作られているという点だ。 

 

 ルノー=日産のモジュールにはいくつかのサイズがあるが、中大型車にも使えるこのCMF-C/Dは日産主導で作られた。当の日産はこれを使って「エクストレイル」をリリースしている。血縁的にはエクストレイルとアウトランダーは兄弟車ということになるが、実際にドライブしていると両モデルのテイストはかなり異なる。 

 

 アウトランダーの商品性はさながら高級SUVだ。三菱自動車は高級車作りに長けているわけではないので、内外装の装飾性に関してはいささかちぐはぐなところもある。が、そんな弱点を吹き飛ばすような長所がある。それは静粛性の高さだ。 

 

 停止状態でアウトランダーのアクセルペダルを踏むと、クルマが音もなく水平移動するという感じで走り出す。テストドライブしたユーザーの多くが一発で異次元と感じるであろう静けさである。 

 

 2021年発売の初期型は速度域が上がるにつれて賑やかになっていく傾向があったが、先般発売された大規模改良版ではその静粛性が中高速域まで拡大されたような印象を受けた。遮音性の高い窓ガラスを使っているためか、高速巡航時も風を巻く音が非常に小さく、外界と隔絶された部屋が水平移動しているという雰囲気だった。 

 

 日産は日産でエクストレイルを電動AWD(4輪駆動)などの技術で滑らかかつ静かなクルマに仕立てている。両モデルの特性を簡単な言葉で表現すると似た方向性を目指しているように感じられるが、実際には完全に別物。あらかじめ言われなければ、プラットフォームが同じとはほとんど誰も気付かないだろう。 

 

 「独自のプラットフォームでのクルマ作りは『エクリプスクロス』が最後。第2世代アウトランダーからはルノー=日産のモジュールを使うことになっていました。当初は思うようにクルマ作りができるのか、誰もが不安を抱えていましたが、開発を進めるうちに『あれ、結構いけるんじゃない?』と思うようになりました」(三菱自動車のエンジニア) 

 

 

■ 所帯は大きくないが存在価値は意外に大きい「国民民主党」的な立ち位置 

 

 自動車メーカーにとって特色ある独自技術を持つことは競争力の源泉のひとつだが、独自であることが自己目的化しては何もならない。大切なのは今使えるものを利用して自らがいいと考える商品を作り、多くの人に共感してもらうことだ。 

 

 三菱自動車の場合も自前のプラットフォームを失い、他社のプラットフォームを使うしかない状況に追い込まれたわけだが、そこで腐ってしまっていたら今の小康状態はなかったのは間違いない。 

 

 大資本に組み敷かれながらもそれを利用して大きな成果を上げるという、言うなれば“コバンザメ戦法”は元来、スズキが得意とするスタイルだった。 

 

 スズキはかつては極東の軽自動車メーカーに過ぎなかったが、今や年産300万台超。低価格車のみでトヨタと同等の利益率を叩き出すグローバル企業に変貌した。三菱自動車も今は年産80万台弱にすぎないが、やり方次第でもっと上を狙える可能性は十分にある。 

 

 ホンダと日産の経営統合が実現するかどうかはまだ確定していないが、実際に統合するとなった場合の懸念材料のひとつはホンダの“協業下手”にある。 

 

 今はさすがにかつてのような単独主義ではなく、いろいろな企業とコラボレーションを行っているが、アメリカのゼネラルモーターズとの協業は雲行きが怪しく、ソニーとのバッテリー式電気自動車ブランド「アフィーラ」も2025年の正式発表でどのくらい存在感を発揮できるかは未知数だ。 

 

 ともするとホンダによる日産支配のようにもなりかねない新アライアンスの中で、アライアンスの成果物を使う側に立ったことのある三菱自動車の視点はそんな複雑な関係の“潤滑剤”となり得る。両社のプラットフォーム共通化の際には、中立の立場から開発ポリシーを判定するという役割を担うこともできるだろう。 

 

 所帯は大きくないが存在価値は意外に大きく、ちゃっかり利益を稼ぐ。そんな国民民主党的な立ち位置の三菱自動車が今後どのような振る舞いを見せるか、興味深いところだ。 

 

井元 康一郎 

 

 

 
 

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