( 244871 ) 2025/01/05 18:30:01 0 00 新幹線(画像:写真AC)
訪日インバウンド客数は、新型コロナウイルスの影響で大きく減少した後、急速に回復し、最近では毎月過去最高を更新し続けている。円安の影響もあり、インバウンドは急増しているが、リピーターや長期滞在するインバウンドも増加しており、来日時の情報がSNSで拡散されることで、予想外の場所が観光名所となっている。その一例が「新幹線」だ。
初来日のインバウンドの観光都市として、東京、京都、大阪が挙げられる。新幹線はこれらの都市を最短2時間から2時間半で結ぶ公共交通で、利便性の高さからインバウンドにも多く利用されている。しかし、単なる移動手段としてだけでなく、新幹線はインバウンドの観光名所にもなっているという。
「新幹線そのもの = 観光名所」
になる理由は何だろうか。SNSでのコメントを見てみると、インバウンドにとって新幹線は
「日本文化を感じる場所」
となっているようだ。新幹線は定刻通りに発車し、定刻通りに到着することが非常に日本的だと感じられるという。もちろん、新幹線も遅延することはあるが、日常的には秒単位で管理されており、ここまで時間通りに運行している列車は世界的にも珍しい。
インバウンドにとって、新幹線に乗って「時間ぴったりに着いた」と実感すること自体が、日本文化を体験するひとつの方法となっている。
新幹線(画像:写真AC)
車内が常に清潔に保たれ、ゴミが散乱していないことや、整然とした雰囲気も日本的だと感じられるようだ。停車中の短時間(1車両7分間)で、ピンクや青の制服を着た清掃員「ドレッサー」が驚くほど素早く手際よく清掃を行う様子は、
「7分間の奇跡」 「新幹線劇場」
と呼ばれ、多くのインバウンドがホームからその様子を見て感心している。この清掃の様子は過去にCNNで取り上げられ、ハーバード大学の経営学の教材にもなったことがある。
もちろん、高速の乗車体験を楽しみにしている人も多いが、時速300km前後のスピードにもかかわらず、スムーズで揺れが少ない技術に驚くインバウンドも多い。設備面では、
・座席の座り心地 ・リクライニング機能 ・コンセント ・読書灯 ・広いレッグスペース ・調整可能なフットレスト(グリーン車など一部の車両にある設備)
などが素晴らしいとSNSで称賛されている。また、座席の壁にある多目的フック(爪が出てコートなどを掛けることができる)にも注目が集まっている。
車内が静かで秩序が保たれていることも、日本らしさの一部と見なされている。新幹線はビジネス利用も多く、車内で仕事をしたり、睡眠をとったりする人が多いため、大声で騒がないように家族連れも配慮している。このような静けさは、インバウンドから見ると日本のイメージにぴったりだと感じられるようだ。また、新幹線に乗車する際に整然と順番を守って待っている様子も、日本人らしいと評されている。
新幹線(画像:写真AC)
新幹線の車窓から見る風景は、日本人にはおなじみのものだが、インバウンドにとっては短時間で
・大都市のビル群 ・住宅地 ・田畑 ・山並み ・海 ・寺社仏閣
など、さまざまな景色が次々に現れることが面白いと感じられているようだ。日本には世界的な観光地に見られるような大規模な自然景観は少ないが、狭い国土に山や海が広がり、四季ごとに変わる風景が楽しめる特徴がある。さらに、南北に長いため、地域ごとや季節ごとに違った表情を見せるのも魅力だ。
新幹線に乗るインバウンドが増えるなか、駅弁も人気となっている。
「新幹線に乗るなら駅弁を買おう」
とSNSで発信するインバウンドもおり、日本人と同様に、新幹線+駅弁の組み合わせが観光の定番となりつつある。駅弁は、日本独自の文化として進化してきたもので、車内で弁当のふたを開けて地域の食材を使った美しい盛り付けを楽しむことができるため好評だ。
新幹線は日本全土を網羅する広域交通網として、短期間でさまざまな観光地を訪れたいインバウンドにとって最適な手段だ。1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業され、その後、高度経済成長期に全国へ延伸され、地域産業の発展を支えた。
景気後退期には公共投資のあり方が問われ、延伸開発については費用対効果に対する疑問の声もあったが、現在ではインバウンドの経済成長を期待するなかで、
「新たな役割」
を果たしているといえる。
新幹線(画像:写真AC)
インバウンドの急増は歓迎すべきことだが、課題も浮き彫りになっている。特に都市型観光地では、オーバーツーリズムによる影響が公共交通に顕著に現れている。
彼らは公共交通をよく利用するため、地域住民にとってその影響は大きい。新幹線は予約制なので混雑はなく、車内も比較的秩序が保たれているが、京都などの大規模観光地では公共交通の混雑が深刻化している。また、列車やバスで大声で話したり、騒いだりすることも問題になっている。
ただし、インバウンド全員がマナー違反をしているわけではない。
「新幹線では静かにすべきだ」
とSNSで発信する人や、日本のマナーを啓発する在日インフルエンサーもいる。さらに、海外ではすでに日本のオーバーツーリズムが認知されており、
「日本人に迷惑をかける観光はしたくないので、気をつけるべきマナーが知りたい」
と思う初来日のインバウンドも多い。しかし、その数が増えるにつれて、マナー違反も増加しているのが現実だ。
現在、国は訪日外客数の目標を年間4000万人に引き上げている。オーバーツーリズムの問題は特定の場所では深刻化しているが、全国的にはまだ大きな問題とはなっていないという見方もある。しかし、彼らの間で
「インバウンドが多すぎて日本情緒が失われた」 「マナーが悪い」 「外国語ばかりで日本に来た気がしない」
といった声が上がっているのも事実だ。国は観光客の分散化やマナー啓発などの対策を講じているが、次々に発生するトラブルには十分に対応しきれていない状況だ。
日本らしさを守るためには、さらなる対策が求められる。入域税や入域制限などの施策も含め、トラブルを未然に防ぐ体制の構築が急務だ。
中村圭(商業・観光リサーチャー)
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