( 245211 )  2025/01/06 15:40:37  
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須坂市内の中学校で地域クラブの練習に参加する生徒たち 

 

 中学校の部活動を民間や地域に委ねる「地域移行」をした場合、保護者の経済的負担が大幅に増える―。長野県の須坂市教育委員会は、指導者に支払う謝礼などの支出総額を保護者負担として計算すると、生徒1人当たりの負担は月額1500円~4千円以上となると試算した。 

 

 市教委によると、市内全4中学校に計40部活がある。1日当たりの活動時間は原則として平日2時間、休日3時間で、毎週平日に1日、さらに土日曜のどちらかを休養日に当てている。試算では全部活を地域移行して指導者50人を確保し、時給(謝礼)を1100円と想定。地域クラブの運営経費を保護者から集めた部活動費で賄うとし、生徒1人当たりの負担を概算した。 

 

 指導者への年間支出は、休日のみ移行した場合は計792万円、平日も含めると計2904万円。さらに市教委事務局の人件費や保険代も加えると総支出はそれぞれ1217万9700円、3329万9700円となる。休日のみ移行の場合は生徒1人当たり月1500円以上、平日も含めると月4千円以上を保護者が負担しなければならない。 

 

 今の保護者負担が少ないのは、教員たちが不十分な手当で支えてきたからだ。試算で想定した指導者の「時給1100円」もアルバイトの時給程度で、当事者からは「もっと引き上げを」と声が上がる。県教委や文部科学省も公的支援の充実が必要と認めるものの、本格的な検討はこれからだ。 

 

 市教委の試算は昨年8月下旬、市内で開かれた部活の地域移行を検討する協議会で示された。試験的に地域移行を進めている陸上競技の地域クラブの指導者も出席。「本業の傍ら指導に当たっている人もおり、試算以上の給与を求めたい」との声が上がった。一方、教員からは「これまで試算より安い手当で指導を担ってきた」と指摘があった。 

 

 県教委によると、休日の部活動指導に伴う教員の手当は3時間以上で1日2700円、特定の大会の引率を伴う場合は同5100円、宿泊を伴う遠征は1泊当たり3600円。須坂市は休日の部活動は原則3時間で、時給換算では最低賃金並みの900円だ。市教委の清水秀一コーディネーターは「これまで教員たちによる犠牲的な働きにいかに甘んじていたかを痛感した」とする。 

 

 

 保護者負担は自治体によっても差が生まれつつある。長野市は市内全小中学生にスポーツや文化芸術の機会を提供するプロジェクトで、1人当たり年3万円分の電子ポイントを付与。地域移行した部活の参加費用にも充てられる。松本市は本年度、所得が一定基準を下回る世帯の就学援助対象者に年2万4千円を上限とする補助金を創設した。 

 

 家庭の経済状況に関係なく参加できる部活動は維持できるのか。県教委保健厚生課は「民間クラブごとに指導料が異なり、従来の手当では不十分な可能性がある。部活動が経済的に余裕のある人だけのものにならないよう支援を検討するとともに財源の確保を国に要望する」とする。 

 

 2023~25年度を部活動の「改革推進期間」と位置付けるスポーツ庁も今は、各地域で進めている参加費用の軽減策を後押しする立場にとどまる。昨年8月に設置したワーキンググループで今後の地域移行の在り方を議論しており、保護者の経済的負担の軽減も焦点の一つ。来春ごろ方針をまとめる予定で、同庁地域スポーツ課は「経済的な事情でスポーツや文化芸術に触れる機会を諦めることがないよう国としても取り組む」としている。 

 

 学校の部活動は各家庭の経済的な格差に関係なく、多くの子どもたちにスポーツや文化芸術活動に取り組む機会を提供してきた。こうした強みが地域移行で損なわれることが懸念される。 

 

 保護者の経済的な負担の解消は不可欠で、その役割は特に地域移行を主導する国に求められる。だが、2023年度に地域移行のために確保した予算は約28億円。全国で移行を進めるには不十分だ。 

 

 国が批准する国連の「子どもの権利条約」は、子どもが文化芸術活動に自由に参加する権利を認め、活動の機会の提供を推奨している。その権利を保障するために誰が何をすべきで、どれだけのコストが必要か―という議論から始めなければならない。部活動を学校か地域かどちらかに押しつけるのではなく、協力して権利を保障していく枠組みの構築が求められる。 

 

 

 
 

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