( 245746 )  2025/01/07 16:01:10  
00

日本維新の会・前原誠司共同代表(写真:共同通信社) 

 

 >>前編「2025年、宙づり国会を操るのは国民民主党か? 決定的な交渉力の源泉となる2つのデータ」から続く 

 

 (足立 康史:日本維新の会・前衆議院議員) 

 

■ 5.囚人のジレンマを乗り越えたい日本維新の会 

 

 前編では、宙づり国会においてキャスティングボートを握る政党が野党第1党の立憲民主党ではなく、第2党の日本維新の会でもなく、第3党の国民民主党なのかということを2つのデータを根拠に分析した。 

 

 もちろん、国民民主党が合理性を欠いた無理難題を要求し続ければ、与党自民党も、それなら少なからず異論のある政策であっても日本維新の会と組んだ方がいいとなる。 

 

 だからこそ与党自民党公明党は、国民民主党と所得税の基礎控除等の引き上げに向けた交渉を続けながら、並行して、日本維新の会とも教育をテーマとする専門チームを設置し、2月中旬をメドに高校授業料無償化の方向性をまとめることとしている。 

 

 2月中旬というのは、当に来年度予算案の採決の直前である。こうした与党の対応ぶりは、総選挙で躍進した国民民主党を優先するものであり、優先交渉権を得ている国民民主党を差し置いて早々と日本維新の会と交渉をまとめる気がないことを示している。 

 

 そして、予算の採決が迫ってくる2月になって、どうしても国民民主党と折り合えないとなった時に、はじめて日本維新の会が交渉相手として浮上するのである。 

 

 もちろん、日本維新の会も、そうした劣勢を手をこまねいて傍観しているわけではない。 

 

 昨年12月中旬、日本維新の会の創業者であり新体制〈吉村―前原体制〉の影のプロデューサーである橋下徹氏は、「維新と国民民主が自分の手柄だけを考えれば政府与党の思うつぼ。まさに囚人のジレンマ。維新と国民民主は分断されずに横連携することによってこそ一緒に手柄を取れる関係」とXにポストした。 

 

 吉村洋文新代表も、役職停止中であるにもかかわらず国民民主党の玉木雄一郎衆議院議員に秋波を送り続けている。 

 

 「囚人のジレンマ」とは、ゲーム理論のモデルの1つで、利害関係のある2者が自分の利益を最大化しようとする結果、協力した場合よりも悪い状態に陥ってしまうことを示す。 

 

 そうした橋下理論に従い、吉村代表は、「喫茶たまき」と銘打って玉木雄一郎議員の議員会館事務所に押し掛けたり、石丸伸二さんに仲介を要請したり、あの手この手で国民民主党との協力に向けた対話に努めているのである。 

 

 

■ 6.一貫性を欠いて迷走する日本維新の会 

 

 確かに、囚人のジレンマを解決するには、協力とコミュニケーションを促進することが有効である。しかし、日本維新の会の考え方、そして橋下理論には、日本維新の会と国民民主党とが協力すれば双方の利得を最大化できる、という大前提があるが、本当だろうか。 

 

 繰り返しになるが、2025年7月には参院選が控えている。先の総選挙を経て始まった「新しいゲーム」は、2月末から3月にかけての来年度予算案の採決で終わる話ではない。むしろ、参院選、そして次の解散総選挙へ、野党間の競争もますます激化をしていく。 

 

 そうした中で、国民民主党が優先交渉権を保持しているからといって、維新と協力しようとしないのは「(囚人の)ジレンマ」に囚われている、自党の利得しか考えていない等と国民民主党を非難するのは、それはそれで無理があろう。 

 

 基礎控除の引き上げには日本維新の会も賛成だと明言しているのだから、維新も自党の掲げる政策にこだわらず躍進した国民民主党の政策を実現するために全面協力すればいいだけなのだ。 

 

 更に、日本維新の会最大のミスは、吉村新代表が国会議員団の代表=共同代表に前原誠司氏を据えたことだった。前原氏は、2023年9月に行われた国民民主党代表選に出馬し玉木氏の党運営を厳しく批判したが、結果は惨敗。ノーサイドと言っていたにもかかわらず前言を翻し離党、教育無償化を実現する会を経て日本維新の会に合流したばかりだった。 

 

 囚人のジレンマを解決する手段は協力と書いたが、信頼関係あってのこと。いつ裏切るか分からない前原氏を国会代表に据えた日本維新の会を「信用せよ」という方が土台無理な話なのだ。 

 

 日本維新の会の一貫しない態度は、他にもある。 

 

 吉村洋文代表は、日本維新の会と大阪維新の会、そして大阪府知事という「三足のわらじ」を履くに当たって、大阪都構想の実現に向けて三度目の住民投票にチャレンジする意向を表明した。 

 

 しかし、いわゆる大都市法に基づく住民投票を実施するためには大阪府議会及び大阪市議会で過半数を要するのに、先の総選挙で維新は公明党の選挙区に候補者を擁立し、思いっきりケンカを売ったのだ。 

 

 もう二度と公明党の協力を得られないようにしておきながら、大阪都構想に三度チャレンジしたいというのは、どういう了見なのか。自ら進む道を狭めた吉村維新にとって残された選択は、大阪関西万博を終えたあと都構想三度目の挑戦を掲げて大阪ダブル選挙に打って出るウルトラ技しかない。 

 

 大阪府議会及び大阪市議会で過半数を維持している間に法定協議会を開催し改めて設計図をオーソライズし、2027年統一地方選挙に合わせて三度目の住民投票を実施するという強硬策しか残っていない。大阪維新の会内部からも吉村さんは死に場所を探している、三度目の住民投票が「墓場」になる、といった声が出る所以である。 

 

 

■ 7.キャスティングボートの行方 

 

 こうして見てくると、総選挙を経て国民民主党が掌握したキャスティングボートの行方、つまり優先交渉権の行方は、来年度予算案が採決される2月末あるいは3月上旬までもつれ込むだろう。 

 

 前原誠司共同代表が障害となって、日本維新の会と国民民主党との共闘も成立しないし、7月の参院選に向けて両者の競争は、激しさを増すばかりだろう。 

 

 もちろん、玉木雄一郎氏率いる国民民主党が掲げる高いボールを与党が受け止めきれず交渉が決裂し、日本維新の会が教育無償化に係る一定の成果を得て与党自民党公明党と来年度予算案を可決するというシナリオも十分に考えられる。 

 

 しかし、日本維新の会の迷走ぶりを見ていると、政府与党も維新と交渉することのリスクにコンシャスにならざるを得ないだろう。すべての交渉が破綻し、野党が一丸となって内閣不信任決議案を可決し解散総選挙に突入する可能性だって完全に排除されるものではない。 

 

 まさに日本政治は「乱世」の真っただ中にあるのだ。 

 

 本稿では、ゲーム理論を援用しながらキャスティングボートの行方について論じてみたが、最後に強調しておきたいことは、民主主義下にある政党政治を最終的に決するのは、理論ではなく民意だということである。 

 

 その民意は、選挙で示される。当面の最大の選挙は2025年7月の参院選。 

 

 参院選に向けて、与党自民党と公明党、野党第1党立憲民主党、キャスティングボートを争う日本維新の会と国民民主党、そして躍進した小政党たちが、しのぎを削って国民の支持を取り合う。政策を実現する競争の幕は、既に切って落とされたのである。 

 

足立 康史 

 

 

 
 

IMAGE