( 245776 ) 2025/01/07 16:35:33 0 00 (c) Adobe Stock
プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地である「エスコンフィールド北海道」(北海道北広島市)が熱い。レギュラーシーズンは年間200万人を超える観客動員数を確保し、野球場を中核とする複合施設「北海道ボールパークFビレッジ」には試合がない日も来場者が詰めかけているのだ。完成から約2年、「球場ビジネス」の枠を超えたFビレッジは地元の魅力を発信する拠点として人々に愛される。経済アナリストの佐藤健太氏は「東京に誕生予定の多目的スタジアムも北海道での成功を参考にすべきだろう」と指摘する。
2023年3月に完成したエスコンフィールド北海道は、JR「北広島駅」から徒歩20分の場所にある。札幌駅や新千歳空港駅から最寄駅まで約20分、北広島駅からはバスで約5分かかり、当初は集客に不安の声が聞こえた。
だが、1年目の2023年、日本ハムのホームゲームの観客動員数は約188万人(71試合)に上り、1試合平均で2万6515人だった。それまでの本拠地である札幌ドーム(72試合)は年間約129万人、1試合平均1万7937人(いずれも2022年)だったことを考えれば、いかに集客力がアップしているのかわかるだろう。
もちろん、日本ハムと言えば、米大リーグ史上初のホームラン50本・50盗塁という「50-50」を成し遂げたドジャースの大谷翔平選手や、パドレスのダルビッシュ有投手らスターを輩出してきた人気球団だ。彼らが米国に飛び立った後も人気は衰えることなく、開業2年目の2024年はホームゲーム(72試合)の観客動員数が年間約208万人、1試合平均2万8830人にまで増加している。年間200万人超えは2017年以来のことだ。
エスコンフィールドを含む「Fビレッジ」が優れている点は、野球観戦以外の来場者も多いことにある。運営する「ファイターズスポーツ&エンターテイメント」(FSE)によれば、Fビレッジの来場者数は2023年3月12日から同12月末までに計346万4637人に達した。2024年は9月末時点で約350万人に上り、開業初年を大きく上回っている。
この約350万人のうち、約207万人は日ハム戦の入場者だ。つまり、それ以外の来場者は野球観戦以外を目的とした訪問と言える。
試合がない日も平日に5000人、休日は8000人近くが訪れ、北海道外からの来場者は全体の約3割を占める。試合がない日も滞在時間が平均3時間に上るという。
Fビレッジの成功は、野球ファン以外のターゲット層も取り込んでいることにある。もちろん、3万5000人を収容するエスコンフィールド北海道は日本初の開閉式屋根付き天然芝球場で、スタンドの傾斜が緩やかのため選手を近くに感じられる臨場感あふれる設計となっている。
球場内の飲食ブースも充実し、試合終了後も営業している「七つ星横丁」で余韻に浸るのも良し、フィールドを一望できる世界初の天然温泉やサウナ、客室から観戦できるホテルでゆったりと過ごすのも良い。試合がない日は外野エリアに無料で入ることができ、スタジアムツアーを堪能する人もいる。人気玩具店「ボーネルンド」の直営施設は屋内外の遊具を親子で楽しむことができ、手ぶらでアウトドアができるグランピング施設「ALLPAR(オルパ)」ではBBQを満喫できる。
野球場に行くと言えば、試合観戦後は直帰することをイメージするが、Fビレッジは「1つの行楽地」になっていると言っても良いだろう。スノーパークや盆踊り、親子キャンプ、ヨガなど試合の有無にかかわらず楽しめる仕組みづくりが成功し、試合観戦を伴わない来場者の平均滞留時間を3時間超にまで伸ばしているのだ。
2023年の売上高を見ると、コロナ前の2019年(札幌ドーム)の約158億円から約251億円と実に100億円近くも上昇している。営業利益は当初目標の26億円を上回る36億円に上った。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2024年2月に公表したレポートによると、Fビレッジがもたらす統合的価値は大きいことがわかる。北広島市への経済直接効果として年間500億円超、不動産価値上昇として周辺地価の上昇率は最大150%以上などになり、北海道への経済効果は年間約1000億円に達するという。Fビレッジの開業に伴う税収増効果やビジネス機会の創出などを考えれば、大成功の例と言えるだろう。JR北海道と北広島市はエスコンフィールド北海道まで徒歩5分程度の位置に新駅を設置する計画で、Fビレッジを核とした新たな街づくりが進む。
エスコンフィールド北海道の成功を眺め、筆者が期待しているのは「都心最後の一等地」の行方だ。築地市場の豊洲移転後、注目されていた跡地再開発の計画が2024年5月に発表された。「ONE PARK&ONE TOWN」をコンセプトとする計画によれば、再開発エリアの中心は最大5万人を収容する多機能型スタジアムが担う。
事業者が5月に発表した計画を見ると、スタジアムは野球やサッカー、コンサートの開催などを想定し、用途に応じて8つの形に変化できるようにするという。約19万平方メートルを活用し、総事業費9000億円に上るビッグプロジェクトにはスタジアムの他にも、ライフサイエンス・商業複合棟、MICE・ホテル・レジデンス棟、舟運・シアターホール複合棟など合計9棟が完成予定だ。
スタジアムは世界屈指の可変性と多機能性を備え、2万~5万7000席に可変できる屋内全天候型施設で、シーンによって観戦・体験環境を整え、最先端デジタル技術と音響・演出装置が臨場感・高揚感・没入感を提供する計画という。エリアには隣接する築地場外市場と連携し、江戸前の食文化を提供する空間や「食文化の発信拠点」なども設ける。海外からも人気が高い「築地ブランド」がFビレッジのような新拠点であらためて評価されるのであればワクワク感が増す。
筆者が注目するのは、プロ野球・読売ジャイアンツ(巨人軍)が築地を本拠地にするのか否かである。本拠地の東京ドームは老朽化が課題になっており、日本ハムが札幌ドームから移ったように「築地・巨人」誕生を期待する声は根強い。仮に巨人が築地を本拠地にすれば、地域の集客力は一層増すことになるだろう。
5月の記者会見で巨人オーナーの山口寿一氏は「移転するという前提ではない。(再開発の事業者としては)スポーツ、音楽、文化などの発信に貢献するスタジアムとして提案している」と述べるにとどめている。ただ、その際に触れた言葉で筆者が気になるのは「魅力的なスタジアムを使ってみたいという気持ちはある」というものだ。さらに山口氏は「球団の本拠地移転は大仕事。相当な調整が必要で読売新聞だけで決められることではない」とも語っている。
もちろん、その時点で決まったものはないかもしれない。ただ、普通に考えれば本拠地が老朽化すれば、どこかに移転する必要がある。その際に築地再開発が進んでいれば、魅力的な多目的スタジアムを活用しない手はないだろう。
何より、巨人としても地元としても「築地ブランド」の活用、さらなる集客力アップは望ましいはずだ。
スタジアムを含む施設は2032年度に完成予定という。再開発エリアは、東京駅と臨海部を結ぶ臨海地下鉄の新駅や首都高晴海線出口との接続、観光・通勤の舟運ネットワーク拠点、次世代モビリティやバスなどが乗り入れる交通ターミナルなどの整備も計画されている。紛れもなく、都内最大規模の再開発事業だ。
都心最後の一等地は、魅力ある拠点として地域をにぎわす経済効果を創出できるのか。まだ再開発事業の全貌は見えないものの、北海道で成功したFビレッジのような新たな拠点となることを期待したい。
佐藤健太
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