( 245831 )  2025/01/07 17:37:14  
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2024年12月1日のJAL774便の機長と副機長が乗務前日に過度な飲酒を行い、当該便が遅延した問題が発生。JALは12月27日に国交省から業務改善勧告を受けた(撮影:尾形文繁) 

 

 年末も押し迫った2024年12月29日、韓国内で発生した航空機事故としては史上最悪の179人が死亡する事故が起きた。さまざまな要因が重なっての惨事とみられるが、確定的な原因はまだ不明だ。が、バードストライク(鳥の航空機エンジンなどへの衝突)以降、チェジュ航空2216便の操縦席ではパイロットらが最後の瞬間まで一瞬たりとも気の抜けない状況に置かれていたことは想像に難くない。 

 

 緊急時、パイロットの瞬時の判断が大勢の乗客・乗員の命を左右することは言うまでもない。それだけに、パイロットは厳格な身体検査と技量審査を年2回以上受け、普段の生活でも規程の順守が厳しく求められる。だからこそ、平均年収も約1780万円(2024年賃金構造基本統計調査)と、全職種の中でも突出して高い。 

 

 ところが、パイロットをめぐる信じられない不祥事が日本航空(JAL)で発覚した。 

 

■パイロットが過剰飲酒で出発遅延、隠蔽も 

 

 2024年12月1日のオーストラリアのメルボルン発成田行きの774便でパイロット3人のうち機長(59)と副機長(56)が前日に過剰飲酒し、副機長は酒気帯び状態で出勤。アルコールが検知されなくなるまで空港で待機したことから出発が3時間以上遅れたというのだ。 

 

 滞在先の飲食店で注文した酒はスパークリングワイン1杯ずつとワイン3本。JALの規程(乗務12時間前の体内アルコール残存量が4ドリンク以下に自己制限)を上回っていた。機長は腹痛と偽って出勤を遅らせ、副機長はパイロットがそろって受けるはずの正式な検査を行わず、アルコールがゼロになるまで1人で自主検査を繰り返していた。 

 

 しかも、2人は口裏を合わせ、成田到着直後は「飲酒は赤ワイン1本」と申告し、過剰飲酒の隠蔽を図っていた。繰り返しヒアリングする中で3日、ようやく2人は事実を告白した。 

 

 国土交通省は12月27日、JAL社に対して「業務改善勧告」を出した。 

 

 JALは5月にもアメリカでの滑走路誤侵入や機長の飲酒トラブルなどで国交省から「厳重注意」を受け、鳥取三津子社長が「私がリーダーシップを持って信頼回復に邁進する」と誓ったばかり。9月まで乗務員の滞在先での飲酒を禁止していたが、10月に解禁したばかりだった。 

 

 

 今回の業務改善勧告では、12月20日の成田発サンフランシスコ行きの便でも副操縦士が乗務日を勘違いして出勤が遅れ、自主検査だけでアルコール検査を済ませた事案が判明している(飲酒はなかった)。 

 

 国交省は「(5月の厳重注意を受けたJALの)再発防止策が十分に機能していない」と、より重い業務改善勧告を発出した。JALは774便の機長と副機長をすでに解雇し、2025年1月24日までに再発防止策を報告する。 

 

■再発防止を誓ったはずが… 

 

 思い起こせば2018年、2019年と、JALは立て続けにパイロットの飲酒事案で国交省から勧告よりさらに重い「事業改善命令」の行政処分を受ける異常事態となっていた。 

 

 当時の赤坂祐二社長(現会長)は「まさに後がない状況」と語り、職を賭して再発防止に努めると誓った。経営層と乗務員の直接対話の実施や乗務12時間前の体内アルコール残存量の規程追加、乗務員の飲酒傾向の管理などの再発防止策を講じ、意識改革を徹底してきたはずだった。 

 

 実は今回問題になった副機長は2018年にも国内線乗務前の自主検査でアルコールが検知され、乗務を交代したことがあった。JALは2019年の事業改善命令でも乗務員の飲酒傾向の把握を国交省から求められていた。だが、過去にアルコールで問題を起こした乗務員の処分履歴が引き継がれていなかったうえ、身体検査のデータ管理は専門医に任せきりになっていた。 

 

 しかも、「専門医からは医学的アドバイスにしっかりと向き合わない乗務員がいると相談を受けていたが、所属部門はきちんと対応していなかった」(南正樹運航本部長)という。 

 

 それだけではない。今回の事案では、自主検査に立ち会った空港職員は状況を誤って東京のオペレーションセンターに報告。センターは副機長の自主検査でのアルコール検知を誤検知と判断してしまった。 

 

 JALによれば、本来はアルコール検査の専門知識を持つ運航本部に副機長の挙動を連絡すべきだったが、「空港職員も乗務員もオペレーションセンターの判断にゆだねてしまっていた」と南本部長は悔やむ。 

 

 「このような悪質な運航乗務員を組織で管理できていなかった」と南本部長は釈明したが、露呈したのは機長や副機長の悪行だけではない。2019年以降、不退転の覚悟で講じたはずの再発防止策が機能していないという経営の失態だ。 

 

 

 鳥取社長、赤坂会長の責任は重い。だが経営責任については広報部長が「経営トップからは、関連役員の処分も速やかに検討すると聞いている」と答えるのみだった。 

 

■変われない「事なかれ主義」 

 

 現場を知るあるJALのOBは、「安全対策は本質的な理解と共感がなければ浸透しない。管理強化の締め付けだけでは、上司の顔色をうかがう『事なかれ主義』に陥る」と指摘する。 

 

 赤坂氏はかつて飲酒問題の背景に「不都合なものに目をそらす事なかれ主義の横行があった」と自ら指摘し、「われわれは変わっていく」と明言した。しかし、5年が経ち、今回の業務改善勧告で求められたのはまたしても「社内意識改革」だった。 

 

 JALの経営の根深いところで機能不全が起きていると言わざるを得ない。その要因は何か。社外取締役を含むJAL経営陣には根本的な自己検証が求められている。 

 

森 創一郎 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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