( 246281 ) 2025/01/08 16:25:50 0 00 消費者は単なる商品やサービスの購入者ではなく、企業の価値観や行動を見極める監視者にもなっている(写真:Getty Images)
中居正広さんが出演していたソフトバンクのCMが非公開となった。ソフトバンクはその理由を明らかにしていない。
■女性とのあいだでトラブル、高額示談が報じられる
中居さんは、2023年6月ごろ、女性とのあいだでトラブルとなり、8000万~9000万円の示談金を払った可能性があると各種メディアが報じている。
関係者もトラブルそのものは認めている。だから、その流れでCMが止まったのではないか、と誰もが感じた。証拠に、他のスポンサー企業のCMも削除されていることから、トラブルとの連関は色濃く予想されるのは当然の帰結だった。
トラブルの双方の示談契約として、当該示談内容について口外しない契約になっていると推測される。したがって、今回のスキャンダルは、どのようなルートで情報が漏れたかはわからないわけだが、スポンサーにしてみれば、報道を知って驚愕しただろう。
当事者が口外しない契約とは知っていても、スポンサーであれば中居さんサイドに状況をヒアリングするのは当然だろうし、CMの非公開はそのうえでの結論ということなのだろう。
■CM起用を続けることはなぜ企業的にリスクなのか?
もっとも、トラブルとCM非公開の因果関係は明確ではない。それにソフトバンクとしては、その因果を説明する義理もないし、言わないほうが無難だろう。
これ以上の勝手な詮索は(傷口を広げる意味では女性にも)失礼というものだろう。
そこで、ここからちょっと、ご自身のこととして考えてほしい。
これは一般例なので、今回の事件を指しているわけではない。あなたが企業の担当者だとする。そのときに、自社CMで採用している芸能人の不祥事のニュースが飛び込んできた。
しかし、刑事事件には発展しておらず、民事の裁判であり、どうやら和解で終了しているとしよう。
そのとき、社会が騒いでいない状態で、それでもなお自社のコンプライアンス違反だとしてその芸能人を切らねばならないと決断できるだろうか。
そのうえで同僚から、「事件は解決したみたいだよ。金銭で解決したらしいから、物事を大きくする必要はないよ。この案件にこれ以上、頭を突っ込むなよ」と念押しされたらどうだろう。
それでも社内を説得する覚悟があるならまだしも、そうではないのであれば、この手のニュースに対して慎重にならねばならないだろう。ほとんどの担当者は、不祥事について知ってはいたけれども様子見をして、世間が騒ぎ出したらCM非公開の決断を下すだろう。
なお、私は企業の窓口の社員が日和っているという話を言いたいわけではない。特定の立場の人たちを責めるだけでは解決しない。構造上の問題だと私は思う。
というのも炎上が大きくなるほど、その芸能人を切らねばならないという社会的な必然がある。この世の中には心的外傷後ストレスを発症したり、トラウマを抱えたりする方が非常に多い。まったく無関係な芸能人の事件であったとはいえ、フラッシュバックする人がいるかもしれないし、自ら命を断つ視聴者もいるかもしれない。
そうなると、実際に大きな事件かは別として、騒ぎが大きな事件について、当該の芸能人を排除せねばならない必然性が生じてしまうのだ。
■コンプライアンスと再発防止
また、現在では各企業がコンプライアンスや人権遵守の方針を打ち出している。ソフトバンクも例外ではない。
関係者、ステークホルダー全体に向けての人権遵守を宣言している。ということは、取引先が人権を蹂躙していた場合、もちろん許されずに是正すべき対象となる。
ところで、みなさんの会社で人権遵守などのコンプライアンスを宣言していたとする。そして、仕入先で重大な人権蹂躙事案が見つかったとしよう。
たとえば児童労働や強制労働が日常茶飯事といったような場合だ。みなさんの会社は、取引先のそのような違法な状態に支えられているのだから、当然ながら人権蹂躙は認められない。
しかしながら、すぐさまその仕入先との取引を止めてしまったらどうだろう。むしろ、その人権蹂躙状態は温存されてしまうかもしれない。
だから取引を止めるのは最後の手段であって、仕入先にしつこく改善を求めるほうが、回り道だけれども人権蹂躙は根絶できるかもしれない。だからコンプライアンス違反があったとしても、取引を止める必要はないのだ。
ただし芸能人の場合はどうだろうか。基本的には、想像以上に社会的なバッシングを受けるし、深く自省して改善しようとするだろう。たとえば冒頭の事例でいえば、社会的にあれだけ責められた芸能人が、すぐさま同様の事例を起こすとは考えにくい。
さらに芸能人と企業の契約の場合は、「信義則違反」として「社会通念上、不適切または反社会的と見なされる行為を行った場合」「相手方の行動が社会的信用を損なう結果を引き起こした場合」といった契約解除条項が盛り込まれているから、取引停止もたやすい。
さらに取引停止によって人権蹂躙が温存されるとは考えにくい。だから芸能人の場合は、取引を止めることに躊躇がない。タレントは文字通り、社会からの信用を基にしている。
■思い出される、フワちゃんのCM削除
私は以前、東洋経済オンラインに「フワちゃんCM削除『Googleの判断』が妥当な理由 『やす子が許せば問題ない』とは企業は考えない」という記事を寄稿した。
一流女性芸能人が、おなじく一流女性芸能人にSNS(X)で暴言を吐いたことで炎上し、出演していたGoogleのCMが削除されたことについてのコラムだ。
Googleは企業行動規範に「Don't Be Evil」(邪悪になるな)と掲げていた。そしてAlphabetからは「Do the Right Thing」(正しいことをやろう)としている。
つまり、◯んでください、といった内容を投稿する行為と人物は邪悪であり、正しいことでもないと判断したのだろう……とこのコラムでは述べているのだが、ソフトバンクもGoogleと同様に、国際的に事業を行っている企業である。
そして、そもそも論であるが、企業は株主のものだ。
もし一流芸能人が人権ポリシーに反した発言をして、それに対して「その程度はいいんじゃないか」という擁護のコメントが出たとしても、その発言は世界中を飛び回り、企業の収益を毀損する可能性が高い。
そのとき、倫理的というより、単純にビジネスの論理として、発言主のタレントを排除する方向になるだろう。「その程度はいいんじゃないか」という擁護をする人は、収益の保証もしてくれないし、株主からの訴訟時にも守ってくれない。
だから結局は、企業の判断が尊重されるべきだ。この意味で企業がCMを削除した判断は、いい選択だったと外野は判断するしかないし、もちろん出演する側のタレントが、とやかく言えることでもない。
■これからのCMタレントのあり方
先日、芸能関係者と話していたら、もう諦めたかのように「全員がクリーンであるべきだから、企業はおそらくAIキャラクターと契約したほうがいいね」と言っていた。
これは半分冗談だ。しかし、これから漂白された世界では、テレビやCMに出演するのは、ほんとうに生きている過程でクリーンだった方になっていくだろう。
それにAIキャラクターを使ったら、スキャンダルがないばかりか、ハラスメントの事件もない。現場で「疲れた」といわない。移動費や待ち部屋などのコストもかからない。CM撮影場所で「こんなセリフ言いたくありません」と苦情もいわない。事務所からのストップもかからない。年をとらないので表情も変わらない。費用も抑えられる。またマルチ言語にも対応できる。
もちろんデメリットもあって、AIキャラクターと知っていれば愛着を感じてもらうまで時間がかかるかもしれない。また、AIキャラクターはやりすぎであっても、アニメ等のキャラクターの活用はこれからも進むだろう。
同額を払うのであれば、キャラクターのほうが炎上は少なくなる。広告代理店のプレゼンテーションでも、アニメキャラのスキャンダルのなさがPRポイントとして強調されるだろう。
また、少しでもリスクを抑えるためなら、自社社員の活用も一手だろう。自社の商品がゆえに利点を知り尽くしているし、何よりモチベーションのアップにもなるだろう。
これまでの議論をまとめる。
消費者は単なる商品やサービスの購入者ではなく、企業の価値観や行動を見極める監視者にもなっている。SNS等で口コミをつねに摂取しているし、企業の選択や対応もリアルタイムで評価している。また社会的な反応を考えると、炎上が起きてしまったら、その芸能人の対象CM等を削除する流れはしかたない側面があった。
また、広告にAIキャラクターを採用する可能性はある。「漂白された世界」で安全策を取ることが、逆に消費者からの冷ややかな反応を招くリスクもあるため、できるだけ企業は採用する必然を演出する必要がある。
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