( 246986 )  2025/01/10 03:42:44  
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「私の席です」の貼り紙 

 

 フリーアドレス。 

 

 オフィスで自分の固定席を持たずに、気分に応じて好きな席を選ぶことができるワークスタイルだ。新型コロナの感染拡大でワークスタイルが大きく変化し、最近では自治体などでも取り入れられている。 

 

 日々違う人と隣り合わせになるため「コミュニケーションの活性化につながる」「不在の人の分のスペースが有効活用できる」などのメリットがあるとされているが「引き出しなどがないので、いちいちロッカーに物を取りに行くのが面倒くさい」(30代 会社員)などの声も。 

 

フリーアドレス 

 

 さらに、他人のことを考えて座る席を選ぶのがストレスに感じたり、別の部署へ訪問した際にどこに担当者が座っているのか迷ってしまうことも。まだまだ不満は続く。 

 

「フリーアドレスとはいえ、自分の固定の席みたいのがあって、そこに人が座ると『そこ自分の席なのに』と思ってしまう」(30代 会社員) 

 

“早いもの勝ち”のフリーアドレスだが、置いていた荷物をどかされて席を取られるケースもあるようだ。そんなことを防ぐためなのか、「私の席です」と貼り紙をして席を確保、私物まで置きっぱなしにして“固定席状態”にする人も。 

 

 最先端のおしゃれな働き方にも見えるが、アメリカのAmazonは、去年フリーアドレスを廃止すると報道された。一部では「固定席回帰」の動きも見えている。 

 

山田進太郎D&I財団 COO 石倉秀明氏 

 

「フリーアドレスでコミュニケーションが活性化して、新しい発想が生まれる」という考え方について、山田進太郎D&I財団 COO 石倉秀明氏は「『みんながコミュニケーションをとりたがっている』という“陽キャの発想”だが、はたしてそこまでコミュニケーションを取りたいと思っている人はいるのか」と指摘。 

 

 これに対し、オフィス環境の成果への影響などについて研究している東京大学大学院経済学研究科の稲水伸行准教授は「ある企業に伺った際に『フリーアドレス化したけど、全然コミュニケーションが活性化しない』という話を聞いた。部門を超えてコミュニケーションをとる効果や意義を一人ひとりが腑に落ちておらず、結局自分の席を確保する行為に行き着いてしまうようだ」と分析した。 

 

 さらに石倉氏は「僕は経営陣が(フリーアドレスによる) “偶発的なコミュニケーション”を過大評価していると思う。ある意味、新しい何かが生まれないことを従業員側に押し付けているのでは。本来変えるべきは会社側の意思決定の考え方や決定プロセスのはず。そこを変えることなく、『みんながコミュニケーションをとれば新しい何かが生まれるのでは』などと、経営者は雑に考えているのでは」と懸念を示した。 

 

 

東京大学大学院経済学研究科の稲水伸行准教授 

 

 稲水准教授は「『働き方やオフィスの活用方法は会社の戦略に基づく』と社内で浸透させるべきで、うまくいっている企業はその落とし込みができている。ただ現場に丸投げしてもうまくいかない」と指摘した。 

 

 石倉氏は「例えば、役員が役員室を捨てて様々な席に座り、決済プロセスも飛ばして相談などができれば非常に意味があると思うが、実情は異なるのではないか」と述べた。 

 

ABW 

 

 課題も残されているフリーアドレス。 

 

 現在では、自由席化する中でも集中スペースも設けて成果を上げるABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)を取り入れる企業も増えているという。 

 

 稲水准教授は「結局バランスが大事だ。誰かとコミュニケーションする中で新しいものが生み出されるシチュエーションもきっとある。一方、一人で集中することで成果を出していくことも必要だ。そのバランスをうまくとっていくべきだ」と述べた。 

(『ABEMAヒルズ』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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