( 247341 )  2025/01/10 17:28:46  
00

映画『聖☆おにいさん THE MOVIE ~ホーリーメンVS悪魔軍団~』は一体どんな内容だったのか?(出所:東宝MOVIEチャンネル) 

 

 『銀魂』『今日から俺は!!』などの実写化作品で知られる福田雄一監督の最新作、映画『聖☆おにいさん THE MOVIE ~ホーリーメンVS悪魔軍団~』に酷評が集まっている。 

 

 公開前は、主演俳優・松山ケンイチによるSNSでの活発な宣伝活動で注目された本作だったが、封切り後の評価はすっかり一変してしまったようだ。一体どんな内容だったのか、その反響を含めて覗いてみよう。 

 

■“いつもの”福田監督的コメディだったが… 

 

 原作漫画『聖☆おにいさん』(講談社)は、世紀末を終えたイエスとブッダが、東京・立川のアパートでバカンスを楽しむ日常を描いたギャグ作品だ。 

 

 2018年に実写ドラマ化し、シリーズ初の劇場版となった今作では、イエス(松山ケンイチ)とブッダ(染谷将太)が天界から来たアクの強い客人に巻き込まれ、戦隊モノの撮影に連れ出されるというストーリーとなっている。 

 

【画像】勝地涼、神木隆之介、川口春奈も…! 豪華俳優陣の「コスプレ姿」に驚き 

 

 出演者はドラマから続投の主演コンビに、佐藤二朗、賀来賢人、勝地涼といった福田組おなじみの俳優や、福田組初参加の藤原竜也、白石麻衣などが合流。アドリブギャグの長回しやスタッフも巻き込んだメタなボケなど、過去の監督作品とも共通する“福田印の笑い”を描いた。 

 

 しかし、その脚本や演出に対しては公開直後から厳しい反応が飛び交った。「豪華な俳優陣が身内でふざけているだけ」「内容がなかった」「つまらないというよりもクドい」など辛辣なコメントがネット上に散見される。 

 

 監督も自らメディアで口にしてきた、この「豪華なキャストを集めてバカなことをやる」作風は、過去作で興行的ヒットを収めてきた反面、これまでも同様の一部批判を受けてきた。しかしながら今作では、これまでの福田作品は好きだったという観客までもが残念ながら“酷評”に傾いたようだ。 

 

■対極的なようで、意外と似ている賛否コメント 

 

 だが中には、当然ながら肯定的な感想もある。X(旧Twitter)では、「おすすめ」機能による偏りもあってか酷評が圧倒的多数に思えたが、TikTokで感想を探すと褒める意見もちらほらと見てとれた。 

 

 

 興味深いのは、ポジティブな感想がしばしばネガティブコメントでの指摘と似通っていることだ。「俳優がコミカル演技に振り切っていて」「これといった物語的展開はなく」「くだらないので、力を抜いて見られて“おもしろい”」といったものである。否定的な印象を抱いた観客と同じ過程をたどって、結論が真逆なのだ。 

 

 福田作品といえば、子どもも含めた全世代にわかりやすいオープンなコメディが真骨頂。そのため、見る人によって解釈が分かれる作品とは異なり、映画の見方自体は皆ほぼ同じになる。だがその評価が真っ二つに割れるという、感覚がものを言う「笑い」ジャンルならではの現象が見られた。 

 

■批判的な声に「今さらだ」というツッコミも 

 

 また、本作を酷評したネットユーザーに対して「福田作品にその指摘は今さら。これまでの作品からどんな世界観かわかるので見なかった」とツッコむコメントも。 

 

 もちろん、映画監督にこだわらず別の動機で作品を見る観客はいるだろう。だがこの指摘の前提にあるような、福田雄一を知る有名作は既に出揃っているではないか、という主張には筆者も頷ける。 

 

 実際に、『勇者ヨシヒコ』シリーズ、『銀魂』『新解釈・三國志』『今日から俺は!!』など、興行的ヒットを残し、かつ一般認知度も高い担当タイトルはいくつもある。 

 

 つまり2025年現在、それらのラインナップで福田作品の世界観が合わなかったという層は、既に離れたフェーズにあるということだ。 

 

 だがちなみに、筆者が足を運んだ劇場では客席から何度も笑い声が起こっており、ネット上の酷評などないような空気が広がっていた。 

 

 昨年のトレンドで“〇〇界隈”という言葉が流行り、コミュニティの細分化が一層進む今、福田作品のような大衆向け作品においても客層の分離がより顕著になっていることを感じずにはいられない。 

 

■映画料金の値上げによる、価値観の変化も影響か 

 

 また、今作の“酷評”傾向に、映画市場を取り巻く環境の変化が影響した可能性も考えられる。 

 

 映画鑑賞料金の値上げやサブスク映像配信サービスの普及により、劇場での映画鑑賞そのものが「高級な娯楽」「非日常のエンタメ」として見られる向きは強まっている。 

 

 2023年4月に開業した新宿・歌舞伎町の映画館「109シネマズプレミアム新宿」では、全席プレミアムシート制でサービスを提供。1席6500円のハイランクシートを設けるなど“高級路線”に踏み切ったことで話題になった。 

 

 

 今作とは関わらず、映画が批判されるときにしばしば見かける決まり文句がある。「2000円を払った“のに”微妙だった」「2000円を出すほどの内容ではなかった」というように、値上がりした映画料金と内容が釣り合うかを見定める感想だ。この不満の裏には、少額で膨大な作品数を楽しめる映像配信サービスの存在がある。 

 

 このように劇場作品の高級化が進むにつれ、ユーザーが映画に求める体験の質が変わっていてもおかしくないだろう。 

 

 これまで福田作品が描いてきたような、テレビバラエティ的コメディ映画を受け止める世間の風向きは、少しずつ変わりつつあるのかもしれない。 

 

白川 穂先 :エンタメコラムニスト/文筆家 

 

 

 
 

IMAGE