( 247361 )  2025/01/10 17:46:32  
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吉沢さんを起用したアサヒビールは、アルコール飲料を提供する会社として毅然とした態度を示した(写真:X公式アカウントより) 

 

 かなり吉沢亮さんに厳しいコメントだった。「今回の事案に関して、アルコール飲料会社として事実を容認できるものではございません」。さらに、吉沢さんを起用した広告は作成しないとした。 

 

■泥酔し隣室に侵入、CM契約が解除 

 

 周知のとおり、吉沢さんの“事件”を受けてのものだった。 

 

 吉沢さんは泥酔し、自宅マンションの隣室に間違って入室。住宅侵入で警察から事情聴取を受けていた。意図的ではない。過失というより、酔ったゆえの“おてつき”だった。 

 

 しかし、報道により、この住宅侵入が明らかになった途端に、吉沢さんを起用したアサヒビールが発表したのが冒頭のコメントだった。アルコール飲料を提供する会社として毅然とした態度を示した。 

 

【画像5枚】【写真を見る】「あまりにも皮肉すぎる…」吉沢亮が降板になった“ビールCMの中身” 

 

 まず、本稿の結論を述べる。 

 

 企業は契約と常識の範囲において、起用した芸能人のCMを削除するのも、負の影響額について請求するのも自由だ。降板させるのはあまりにも“やりすぎ”ではないか、と声が上がっている。 

 

 しかし、それらの声を上げている方々が、売り上げやブランドイメージの減少を補償してはくれない。芸能人を降板させることがファンからの批判を浴びてマイナスの影響を与えるかもしれないが、それも結果責任を企業が負えばいい。 

 

 ただし、起こした事件が報道されているとおり、「酔っていました。自宅を間違えました」という内容だとする。ならば、これから連鎖的に吉沢さんを敬遠する動き、があるとすれば、それはやりすぎだと思われる。 

 

 例えば吉沢さんは2月14日に主演映画が公開予定だが、これがもし公開延期や公開中止になれば、というような話だ。 

 

■これまでにCMが削除された芸能人事例 

 

 なお正直にいえば、この原稿は依頼を受けて書いているものであり、私自身はさほど吉沢さんの事件を問題視していないことを申し上げなければならない。 

 

 まず、私は東洋経済オンラインに、バラエティ番組で活躍していた一流芸能人が、他の芸能人に「○ね」と投稿した騒ぎをとりあげた。その際に私は、当該の一流芸能人が登場する一連のCMが削除されるのはやむなしと述べた。というのも、現在、日本には相当数に精神的に病んだ方々がいる。いつか最悪の結論を自ら選択するかもしれない。 

 

 

 そんなときに、いつもテレビで登場する一流芸能人が他者に「○ね」と投稿していたら、最悪の選択肢を提供しかねない。「○ね」と言われた相手も一流芸能人である。その一流芸能人であってすら「○ね」と言われているのだから、自分自身に自信をもてなくなるかもしれない。 

 

 もしかすると「それは考えすぎでしょう」と言う人がいるかもしれない。そうかもしれない。これは個人の価値判断によるだろう。「あのねえ『○ね』なんて冗談でしょうよ。堅苦しいこというな」と述べる方もいるだろう。 

 

 ただ、私は仲の良い知人2人を自殺で亡くしている。まったく自死を考えたことがない人が大半だろうが、誰かの些細な一言が、最悪の結論を導くことは申し上げておく。 

 

 そして、私は男性アイドルグループの方が女性にたいして性加害を与え、多額の賠償金を支払った事件もとりあげた。この件についても、私は企業が該当男性のCMを削除するのもやむなしと説明した。 

 

 その記事でも書いたが、世の中には想像以上に性被害を受けた女性の方々(もちろん女性に限らないし男性の方々も多いだろう)がいる。過去の悲しい思い出がフラッシュバックする可能性がある。 

 

 これらの事件で私が述べたことに共通するのは、裁判における判決とか、刑法がどうとか、究極的に悪いのかといった話ではない。企業の立場として、自決の引き金になったり、悲しき過去のフラッシュバックを誘発したりすることを、あえて選択する必要はないということだ。 

 

 だから、おそらくこの記事の読者が企業の窓口担当者であっても、おそらくCMは削除したのではないだろうか。 

 

■吉沢さんと不法侵入とCM 

 

 これらにたいして、もちろん吉沢さんの不法侵入が、なんらかのフラッシュバックをもたらす可能性がないとはいわない。 

 

 ただ、この事件が「酔っていました。自宅を間違えました」という単なる間違いだとして、以下の論を進める。 

 

 その場合、アサヒビールは起用していたドライクリスタルにおいて「ビールとの新しい付き合い方、ひろがる。」とお酒との適度な接し方を推奨していた。 

 

 この場合は、採用していた芸能人が企業メッセージに賛同していなかった、ということだから解消は両者が合意するところだろう。これは程度問題だ。 

 

 ただ、あるメッセージを発して、本人がだいぶ異なる行動をして世間を騒がした場合は、降板も両者が合意するに違いない。 

 

 

 というのも、たとえば、みなさんがダイエット食品の宣伝広告担当者だとする。ある芸能人を起用しようと打ち合わせをしたときに「いやあ、でも私ってダイエットは大切だと思うんですけれども、食べすぎて10kg太っちゃうこともあるんですよね」と正直に吐露してくれたらどうだろう。起用するだろうか。 

 

 酒のCMでも「いや、ぶっちゃけ、適度な酒との付き合いなんて無理っすよね。俺、芸能人だから破天荒に飲んでパーっとやりますよ!」と事前にクライアントに伝える芸能人がいれば(現代ではいないだろうが)、それは筋が通っている。 

 

 「極限までの飲酒を勧めます」というフレーズのCMに出ていたとして、それでもなお降板になったら、それは誰もがおかしいと思うだろう。 

 

 今回の例でいえば、アサヒビールの降板は両者が合意するものだと思う。もちろん、私は不法侵入について“どうでもいい”といっているわけではない。あくまで相対的な話だ。隣室の女性は、知り合いでもない男性が入室してきたら警察を呼ぶのは当然だろうし、恐怖も感じただろう。 

 

 しかし、そこに現時点では犯罪性がない。さらに、この事件は第三者にトラウマを蘇らせるものや、過去の性被害をフラッシュバックさせるものではない。だから、これ以上の予備的な自粛や連鎖的な降板は不要だと思う。 

 

■漂白する時代の行き着く先 

 

 私は吉沢さんの案件について、これ以上は過剰と論じた。ただ、矛盾するようだが、私は必然かもしれないとも思っている。 

 

 なぜならば、私は社会そのものが漂白化されていくと予想しているからだ。すべてがクリーンで清廉潔白でなければ生きていけない世界がやってきている。 

 

 その社会では、少しでも社会の規範からはみ出てしまったら、相当な罰を受けることになる。それは悪夢かもしれないが、SNS時代には必然といえるかもしれない。誰もがささいな失策を声高に叫ぶ時代になっているからだ。 

 

 

 企業はAIキャラクターを採用するほうがいい。そのほうが、ギャラは低く抑えられるし、スキャンダルは起こさないし、CM撮影中に苦情もいわないし、口うるさいマネージャーもいないし、CM撮影中に「こんなフレーズって俺っぽくないと思うんだよね」といわないし、メイクも衣装も必要ないし、権利関係で苦情もいわれない。完成したCMについても苦情をいってこない。 

 

 もちろん、SNSで暴言もいわないし、性加害もなく、さらに隣室を自室と間違えることはない。 

 

 たまに失敗するとは、人間的ということである。ニーチェ的にいえば「人間的な、あまりに人間的な」失敗を現代は認めない、ということでもある。 

 

 私一人の力で時代に抗うことはできない。ただ、少なくとも、芸能界でもスポーツ界でもなんでもいいのだが、それらの輝かしい世界に飛び込もうとする人たちはリスクをも考慮したほうがいいだろう。 

 

 アイドルは偶像、という意味もあるし、綴りによっては“ばか者”という意味もあるんだっけ。 そんなことを、本事案から感じたのであった。 

 

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坂口 孝則 :未来調達研究所 

 

 

 
 

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