( 247981 )  2025/01/12 03:21:39  
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モーニングコールは、10年以上継続する利用者もいる。今増えているのが運送業や放送業などからの法人契約だという(写真:iStock / Getty Images Plus) 

 

 モーニングコール、退職、謝罪──。困りごとあるところ、代行サービスがある。海外展開を視野に入れている会社もあり、ポテンシャルが高い事業という見方もあるが、現場では複雑な思いも去来するという。AERA 2025年1月13日号より。 

 

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 金銭が介在する以上、代行業にはスキルが必要。個人の知識やスキル、経験を売り買いするマーケット「ココナラ」広報の日高祐一さんにその点について質問すると、こんな返答があった。 

 

■スキルや経験の売買も 

 

「単に代わってもらうのではなく、できる人にやってもらいたい。AIの出現でココナラのようなサービスは影響を受けるのではとも言われていたのですが、ほとんどなかった。それはスキルを生かした、その人でないとできないサービスが多く出品されていたから。ただし、スキルというと勉強しないと身につかないもののように思うが、誰もが何かしらの経験を持っていてオリジナリティーを生かせる場がある。企業においては、人材確保が難しい中、社内にいない人材を期間限定でアサインしたいというケースも多い」 

 

「モーニングコールどっとコム」の酒井秀貴さんは朝が苦手。出張先のホテルで従業員から直接受けたモーニングコールでスッキリ目覚められた経験から、「生の声」にこだわったモーニングコール代行サービスを20年以上前に立ち上げた。 

 

 現在、月契約は200件ほど。相手が希望する時間に電話をし、二言三言言葉を交わし、最後は「お布団から出られましたか」で締める。事務的な会話にならないよう、マニュアルはない。10年以上継続する利用者もいる。今増えているのが運送業や放送業などからの法人契約だ。モーニングコールをかけ、応答がない場合は依頼主の会社に連絡をする。 

 

「想定外だったのは、スタッフの希望者が多かったこと。待ってもらっている人もいます」 

 

■困りごとはどこにでも 

 

 これまで紹介した代行業とガラリと変わり、「ワンストップ代行センター」が扱う案件は幅広い。ホームページで挙げているものだけでも55。全て実際に依頼を受けたものだ。代表の戸村徹平さんは「要は便利屋。ダークなものはもちろん断りますが、物理的にできることは引き受ける」と話す。 

 

 

 客の依頼で気づく需要も多い。例えば、タワマン住民からの依頼。大きいドラム式洗濯機を買いたいが、洗濯機置き場の上の設置棚が邪魔──。 

 

「同様の依頼が数件続いたので、これは求めている人が他にもいると、事例をホームページで紹介しました。その後、問い合わせがかなりありました」 

 

 戸村さんは、代行業はポテンシャルがある事業だと考えている。困りごとはどこにでもあるからだ。全国展開だけでなく、海外展開も視野に入れている。 

 

「退職代行を使われると本当に悲しいですよね」 

 

 こう言うのは、採用して1カ月の従業員に退職代行会社を通して退職された経験がある「退職代行モームリ」代表の谷本慎二さん。 

 

「退職代行を使われる企業側に必ずしも非があるとはいえない。ただ、労務環境が悪いところ、辞めたくても辞められないところがあるのは確か」 

 

 累積利用者1万5934人の調査では、モームリを20回以上利用された企業の全てが従業員数1千人以上で、1社で64回利用された企業もあった。某大手人材派遣会社で働いていた人では、辞職を申し出たところ「派遣先に言って」「派遣元に言って」の堂々巡りになった、というケースも。 

 

■逃げ癖つきかねない 

 

 公認心理師の潮英子さんは「体力、身体、時間の面からできないことがある人が依頼できるサービスがあることはとてもいい」と述べ、さらに続ける。 

 

「退職や謝罪などで代行業を利用するのは、現実から逃げ過ぎているのでは、と思うところも。心を病むぐらいなら代行業に頼るのも手です。しかしそこで終わらせるのではなく、何が問題だったかを見直すことが大事。そうでなければ、嫌なことがあれば逃げ出せばいいや、という逃げ癖がつきかねない」 

 

 謝罪代行を請け負うある業者は「『上司のふりして謝ってくれ』といった謝罪代行の依頼では、上司の個人情報を全て頭に入れ、時には架空の上司像を作り、上司になりきって謝りまくります。しかし内心では『他人にお願いして謝ってもらうなんて、まともな人間にならないよ』と複雑な気分ですね」。 

 

 少子高齢化の現代において代行業は必要不可欠な存在。一方で、付き合い方によっては……という部分もあると感じた。(ライター・羽根田真智) 

 

※AERA 2025年1月13日号より抜粋 

 

羽根田真智 

 

 

 
 

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