( 248009 )  2025/01/12 03:55:04  
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岡真裕美さんと阿部任さんは、過去に報道された美談に苦しんでいる遺族だ。

岡さんは夫が溺れた子供を救おうとして亡くなったことが報道される中、夫の死が美談として扱われていたことに違和感を感じている。

その後、安全行動学を研究し、啓発活動を行っているが、再び夫の死を“美談"として語られることに苦しんでいる。

一方の阿部さんは、東日本大震災後の救出が"奇跡"として報道されたことに悩んでいる。

メディアはなぜ美談に焦点を当てるのか、被災者や遺族はどのような報道を求めるのか、『ABEMA Prime』で検討されている。

(要約)

( 248011 )  2025/01/12 03:55:04  
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美談報道に苦しむ遺族 

 

 大阪府茨木市にある河川敷。数年前までこの近くに暮らしていた岡真裕美さんには今も忘れられない出来事がある。 

 

「溺れていた子どもを助けようとして夫が川の中に入って、助けたうちの1人と夫が亡くなった」(岡真裕美さん) 

 

 2012年、川遊び中に溺れた3人の小中学生。通りがかりにその様子を見つけた岡さんの夫・隆司さんは、川に飛び込んだ。その結果、少年2人は助かったが、男子中学生と隆司さんが命を落とした。事故は当時、大きく報じられたが、その内容に岡さんは、夫の死が"美談報道”として消費されたと感じている。 

 

 本来、伝えるべき防止策や救助のあり方ではなく、幼い子を持つ父親が命をかけて他人の子どもを助けた。その行動を讃える報道ばかりだった。さらに、記者の多くは近隣住民からも美談にするためのネタを探していたという。 

 

 なぜ事故が起きたのか…気持ちを整理するため、子どもの安全について学び、現在は安全行動学を研究する道へ進んだ岡さん。事故防止や安全教育に関する、講演や啓発活動を行っている。しかし、今度は夫の死を乗り越えた研究者という、その“人となり”を讃える妻をも"美談”として語られる苦悩を抱えている。  

 

 "美談報道”に異議を唱える当事者は他にも…。阿部任さん(30)は、高校1年生の時、宮城県石巻市にある祖母の家にいたところ、 東日本大震災が発生した。防災無線で津波警報を知るも、油断から避難を怠り家ごと津波で流された。阿部さんと祖母の2人は部屋にあった食料で食い繋ぎ、9日後に救出。その救出劇は大きく報じられたが、避難を怠った自分を“奇跡”という言葉を用いて、英雄視する多くの報道に悩まされ続けた。 

 

 なぜ、メディアは"美談”にしたがるのか。美談にされた本人や家族はどんな報道を求めているのか。当事者と共に『ABEMA Prime』で考えた。 

 

岡真裕美さん 

 

 夫の死が“美談として消費された”と感じている岡さんは、当時の報道について「事故が起きた原因や再発防止に繋げてほしかったが、夫は責任感の強い人だったとか、人となりがフューチャーされる報道が多かった。それに違和感を持ったのと、近隣の方への取材で、我が家の個人情報が全部記事にされて、特定されたことが非常に怖かった」と振り返る。 

 

 取材を受けたときには、本当の思いを語るもカットされたことがあったという。「当時、5歳と2歳の子どもを残された私は1人で子育てするので、すごく大変だった。頼っていた夫がいない、収入面も安定が難しい。そういったことも訴えていた。また、他の助かった子どもたちに対する恨みつらみはゼロじゃないと話したが、取り上げられなかった」。 

 

 取材を断ることはなかったのか。岡さんは「夫の事故があって、警察署で遺体を確認したとき、その門のところにマスコミの方がなぜかいた。お通夜、葬儀にも取材の依頼があって、そういう気分でもないので、親族を通じてお断りをしていた」と答えた。 

 

 しかしその後も、夫の死を乗り越えた研究者といった更なる“美談”に苦しむことになる。研究者となった経緯について、「自分の気持ちを消化するために大学院に進学して、研究者という道に進んだ。研究していく上で、こんな社会課題があるのかと考えて、新たな道に進んだだけなのに、『夫の死を乗り越えた奥さんが、意志を継いで頑張っている』みたいに言われてしまい、私の思いとは違う伝えられ方をした」と明かした。 

 

 

阿部任さん 

 

 東日本大震災の9日後に救出されたことを美談として報道された阿部さん。救出時について「多くの救助隊の方に助けていただいたが、それよりも人数の多いメディアの方がいた」と振り返る。 

 

 新聞では助かったことに“奇跡”という文字が使われていた。「周りではたくさんの方々が亡くなって、行方不明の方もたくさんいた。自分だけ奇跡と喜ばれることが、その方たちにも申し訳ない。避難しなかった残念な結果を喜ばれることに、すごくギャップを感じていた」と話す。 

 

 また、「当時、救助隊の方のお話を聞いたときに、9日目で救出されたことで現場の士気が上がる場面もあったと伺った。しかし、当時高校生だった私は、理解して励ますような言葉は浮かばなかった。自分のことで精一杯だったと今振り返って思う」と語った。 

 

水島宏明氏 

 

 ジャーナリストの水島宏明氏は、当事者の話を受けて「報道の構造がある」といい、「どうしても亡くなった方はどんな方だったのか、人となりを聞く。誰が話すかは重要だが、亡くなったばかりで、親しい人の場合は言えない。一言で『どんな人ですか?』とマイクを突きつける相手は、近所の人、あるいはおじいちゃんおばあちゃんだったりする。それをやっている記者は、上司に指示された若手だったりするので、かなり雑にやってしまうことがある」と説明した。 

 

 フリーアナウンサーの柴田阿弥氏は「個人的に水難事故は美談報道しない方がいいと思っている。川の危険性を矮小化することになってしまうからだ。事故が起きた時、ニュースは注意喚起をするためにあると思う。それが伝わらず、助けに行ったことが良しとされて、そこだけクローズアップされるのは事故を防ぐことにならない」と主張。 

 

 一方で、それだけだと「どうしても人は見てくれない。人となりを聞いて、ファクトを並べたら美談になってしまったケースもある。過剰な美談報道をしないのは大事だが、人となりを聞いて、注意喚起も半々くらいになるようにして公益性を保つ必要がある」と作り手側への理解も示した。 

 

 さらに、災害報道については、「『毎日何人が亡くなった』というニュースは、どうしても気分が暗くなる。当事者の気持ちは尊重された方がいいが、1人の人が救助された時に奇跡と言いたくなってしまう気持ちも分からなくはない」と述べた。 

 

 どのような報道を求めるか。岡さんは「人となりを伝えないのも、それはそれで興味を持たれない点では良くないと思う。人となりは伝えてもいいが、伝え方や取材の仕方で、遺族がいいよって言ってくれるような情報を伝えてほしい。その上で再発防止策のこともお伝えしていただきたい」。 

 

 阿部さんは「適切なタイミングで取材をしていただき、当事者の伝えたいメッセージを報じてもらいたい。東日本大震災では、たくさんの方が教訓を持たれている。その1つ1つが美談のような安直なものではない。それぞれのエピソードを拾っていただき、報じていただき、受け取る視聴者の皆様にも感じ取ってもらって、本当に必要な行動という形が、社会として少しずつ変わっていく流れができたらいいと思う」と答えた。 

 

(『ABEMA Prime』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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