( 248076 )  2025/01/12 05:05:16  
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実験線を走行するリニア中央新幹線の試験車両=山梨県笛吹市(平尾孝撮影) 

 

リニア中央新幹線の静岡工区の着工時期が見えない。昨年5月に静岡県知事が川勝平太氏から鈴木康友氏に交代したことで、停滞していた県とJR東海などの協議や、トンネル工事の前段階で実施する「ボーリング調査」が矢継ぎ早に進んだ。だが、環境への影響を懸念する声が根強いことなどから、JR側も行政手続きの申請時期を慎重に見定めており、品川-名古屋間の開業は2035年以降になりそうだ。 

 

■「期待したが…」 

 

「一気に議論が進むかと期待したが、年後半はそうはならなかった」。国土交通省幹部は昨年をこう振り返る。 

 

JR東海は品川-名古屋間の開業目標を27年としていたが、川勝氏が工事に反対し、着工できない状況が続いたため、昨年3月に27年開業断念を表明した。 

 

ただ、川勝氏が自身の不適切発言で辞任し、5月に鈴木氏が知事に就任。斉藤鉄夫国交相(当時)やJR東海の丹羽俊介社長と工事推進に向けた連携を確認した。川勝氏が大井川の流量減少につながるとして認めなかった山梨県側から静岡県側に掘り進めるボーリングも、JR東海や山梨県と合意した。 

 

「できるところからスピード感を持って進める。リニアも解決に向けて動き出したところだ」。鈴木氏は強調する。 

 

■議論の進展遅く 

 

もっとも、着工はいまだ見えていない。JR東海は静岡工区の着工から工事完了まで最低でも10年はかかるとする。仮に今年着工することができても、工事完了は35年以降になる見通しだ。 

 

関係者は「残るハードルは県の専門部会による検証だが、議論の進展が遅い」と不満を口にする。JR東海が県に河川法などに基づく工事の許可を申請するには、静岡工区のトンネル工事が水資源や生態系に与える影響について検証し、対応策を講じる必要がある。 

 

国の有識者会議では23年12月に検証を終えていたが、川勝氏が設置した県の専門部会は24年2月にさらなる検証を必要とする項目を整理した。それから1年弱がたつが、検証必要な28項目のうち検証を終えたのは4項目にとどまる。 

 

鈴木氏も今月6日の記者会見で「年内の完了は難しい」との見方を示すなど、川勝氏の〝置き土産〟が重くのしかかっている形だ。 

 

 

■工事現場でトラブル相次ぐ 

 

一方で、トンネル掘削を巡っては岐阜県瑞浪市で井戸の水位低下や地盤沈下が確認され、東京都町田市で住宅の庭から水が湧き出るなど、工事現場周辺でトラブルが相次ぐ。JR東海の丹羽氏も「1日も早く着工したい気持ちはあるが、丁寧にステップを踏みながら進めていくことが大事だ」と語る。 

 

政府は東京-大阪間の全線開業を37年とする目標を掲げるが、静岡工区の着工がこれ以上遅くなれば37年の品川-名古屋間の部分開業さえ危うい。国交省幹部は「今年は何としても工事着工にこぎつけたい」とトーンを強める。沿線自治体でつくるリニア推進の協議会も6月頃に開かれる予定で、「鈴木知事も就任1年になるその頃には何らかの成果を示したいはずだ」との見方を示す。(万福博之) 

 

 

 
 

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