( 248086 )  2025/01/12 05:18:00  
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路線バス(画像:写真AC) 

 

「お客様は神様です」 

 

という言葉は、日本の商業文化に根付いている。しかし、これはあくまでサービス業における「お客様」の立場を重視し、顧客満足を追求するためのフレーズだ。 

 

ただし、その「お客様」が公共の場で迷惑行為をする場合、果たしてその言葉に従うべきなのか――。バスドライバーの目線で、この問いを深く考えてみよう。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 まず、迷惑客とは一体何かを考える必要がある。 

 

 迷惑客とは、他の乗客に不快感を与え、公共の秩序を乱す行為をする人物のことだ。例えば、 

 

・バス内で大声で電話をかける 

・席を占拠して立つ乗客に譲らない 

・暴力的な言動を取る 

 

などの行為がこれに該当する。こうした行為は、ドライバーにとって非常に困難な状況を生むだけでなく、他の乗客にとっても不快な体験となる。一方で、 

 

「お客様は神様です」 

 

という言葉が示すのは、顧客に対する無条件の尊重であり、どんな要求にも応じるべきだという考え方だ。しかし、この「神様」の概念は、商業活動における顧客サービスの原則としてのものであり、公共の場での「お客様」に対して無制限に適用すべきものではない。 

 

 ドライバーにとって、乗客の「お客様」という立場と「迷惑客」としての行動の違いは非常に重要だ。ドライバーは、ただのサービス提供者としてではなく、公共の秩序を守る責任を持つ者として、乗客の行動に対して適切な対応を取る必要がある。 

 

 そのため、「お客様は神様」という言葉に従うことが必ずしも最適な解決策であるとは限らない。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 ドライバーの最も重要な役割は、安全かつスムーズな運行を維持することだ。しかし、ドライバーがただ車両を運転するだけでは、その役割を全うすることはできない。乗客の行動や相互の関係性を円滑に保つために、ドライバーはときにトラブルを解決し、秩序を守る責任を負うことになる。 

 

 迷惑客に対しては、適切な対応が求められるが、これには冷静な判断が必要だ。例えば、乗客が他の乗客に対して迷惑をかけている場合、まずはその行為を制止し、必要であれば警察に通報するなどの手続きを取ることが求められる。 

 

 これにより、バス内の秩序が守られるだけでなく、他の乗客の安全も保障される。しかし、過度に厳しい対応を取ることが、逆に問題を悪化させることもあるため、適切なバランスが必要だ。 

 

 ドライバーの立場からすれば、乗客ひとりひとりに対して無条件に「神様」として接することは現実的ではない。公共の場での秩序を守ることが最優先であり、そのためには場合によっては「神様」の概念に反する対応が求められることもある。 

 

 例えば、暴力的な行動を取る乗客に対して、他の乗客の安全を確保するためには、強い態度で対応せざるを得ないことがある。 

 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

「お客様は神様です」という言葉は、サービス業における顧客第一主義を象徴するもので広く知られている。しかし、この言葉の本来の意味を再考することも重要だ。この言葉は、商業活動において顧客の要求を最優先に考え、サービスの質を高めるための方針として使用されるべきもので、すべての場面に適用されるべきではない。 

 

 公共交通においては、顧客が単に「お客様」として扱われるだけでなく、 

 

「社会の一員」 

 

としての責任を持つべきだ。乗客が公共の秩序を乱す行為を行う場合、その行為は他の乗客の安全や快適さに悪影響を与えることになる。このような場合、ドライバーは「お客様は神様」という考えに従うことなく、社会的責任を果たすために適切な対応を取る必要がある。 

 

「お客様は神様」という言葉を過度に信奉することは、公共交通の運行において重要な原則を見失うことにつながりかねない。ドライバーは、あくまで乗客の安全を守り、公共の秩序を維持する立場であることを忘れてはならない。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 迷惑客への対応は、バスドライバーにとって非常に難しい課題だ。 

 

 バス車内という限られた空間では、他の乗客との関係性が重要であり、適切な対応が求められる。対応を誤ると、その場の 

 

・雰囲気 

・秩序 

 

を崩す恐れがあるからだ。ドライバーは冷静かつ迅速に対応しなければならない。 

 

暴力的な行動や強引な態度を取る迷惑客に対しては、ドライバーの判断がさらに困難になる。自らの安全と乗客の安全を確保するため、適切な手続きを行うことが求められる。しかし、過剰な厳しい対応は、逆にトラブルを招く可能性がある。迷惑客への対応は、 

 

「微妙なバランス感覚」 

 

が必要だ。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 結局、「お客様は神様」という言葉を公共交通の現場にそのまま適用することには限界がある。 

 

 ドライバーは公共の秩序と安全を守る責任を負っており、迷惑客に対してはその場に応じた適切な対応を取らなければならない。そのため、「お客様は神様」という概念を過度に信奉することなく、冷静かつ毅然とした態度で対応することが最も重要だ。 

 

 最終的には、迷惑客に対する対応はひとつの正解を求めるものではなく、状況に応じて柔軟に判断する必要がある。公共交通の運営において、乗客全員が快適に過ごせるよう秩序を守ることが最優先であり、そのためには時に「神様」の概念を超えた現実的な対応が求められる。 

 

 あなたはどう考えるだろうか。 

 

伊綾英生(ライター) 

 

 

 
 

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