( 248181 )  2025/01/12 14:52:26  
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旧ビッグモーターの看板は続々と撤去され、WECARSに差し替えが進んでいる。伊藤忠商事の元で、不正体質からの脱却が進行中だ 

 

〈昨年12月、ついに旧ビッグモーターが破産申請を行った。中古車業界が変革に迫られるなか、いまだに購入者へ疑問を抱かせる対応をしている販売店は少なくない。自動車生活ジャーナリスト・加藤久美子氏が「購入者とのトラブル」事例をもとに中古車業界の現在に迫る〉 

 

昨年12月2日、旧ビッグモーターの存続会社である株式会社BALMが、東京地裁に民事再生法の適用を申請したことが明らかになった。負債総額は最大で約830億円という途方もない数字だ。 

 

’23年に発覚した旧ビッグモーターの保険金不正請求問題。FRIDAYでも「タイヤの穴あけ動画」などを中心に数多くの不正実態を追及してきた。今回の自己破産申請は、一つの節目となったわけだが、問題の根はもっと深いかもしれない。というのも、いまだに中古車業界全体に数々の不正の疑惑が残っているのだ。昨年10月以降だけでも、中古車販売の『ガリバー』を運営する業界最大手の株式会社IDOM(イドム)やネクステージ、さらに愛知県名古屋市に拠点を置き、全国に44店舗を展開するグッドスピードに金融庁の立入検査が入っている。 

 

3社ともに旧ビッグモーターと同じく保険金の不正請求が主体となる。加えて、グッドスピードには不正会計も含まれている。’24年1月に公表されたグッドスピードの社内調査報告書によると、「嘘納車」や「納車テイ」などと称して売り上げを先行計上していたことが明記されており、組織的な関与も強く疑われている。「車両納品確認書」の偽造も判明し、先行計上した額は’18年9月期以降で合計約6000件、約150億円にものぼっている。 

 

今、中古車業界はどうなっているのか。その実態に迫る。 

 

◆旧ビッグモーターで車を買って「分かったこと」 

 

’23年11月、伊藤忠がビッグモーターの買収を発表して1年。その後、’24年5月に『WECARS』の新社名が発表され、今、全国の旧ビッグモーターでは続々と看板のかけ替えが行われている。年末からはテレビCMもスタートし、快活な音楽に聞き覚えのある方も多いのではないだろうか。 

 

その現状を探るべく、筆者は’24年8月末に旧ビッグモーター下関店でスズキアルト(車両価格45万円)を購入した。5年保証などをガッツリ付けたので総額は60万円を超えた。下関店は旧ビッグモーターにおいて、本店の岩国店についで2番目にできた店舗で、大規模な板金工場を備えるものとしては同社で全国初という“老舗”だ。 

 

車を買う際になって気づいた「変化」がある。旧ビッグモーターで行われてきた数々の不正を見直す動きが進んでいたのである。たとえば、 

 

・車に問題があった場合は納車翌日まで購入をキャンセルできる。キャンセル料も無料。 

 

・購入後に納車整備費用などを追加で請求しない。 

 

・強制されていた不要なサービスやメンテナンスについて、客の申し出でカットできる。 

 

といった点である。’23年10月1日から、公正取引協議会の指導のもと中古車の価格表示が諸経費などを含めた『総額表示』となったことで、料金も一目瞭然で、クリーン化が進んでいる印象だ。 

 

しかし、別の大手中古車業者からは、今でも“疑惑”を耳にすることがある。 

 

◆不透明な対応に募る不信感 

 

’24年7月にネクステージで『トヨタ86(平成24年式)』を購入したAさんは、とんでもない経験をした。Aさんは趣味でアマチュアの自動車レースに参戦しており、86はサーキット用の車として購入した。しかし、納車3日目でエンジンが壊れてしまったという。 

 

「納車3日目なのでまだサーキットで走ってもいないタイミングでした。念のために油脂類を全部交換して慣らし運転をしている最中のエンジンブローでした。ネクステージも最初は、『無料保証の対象なのでこちらですべて無料修理する』と言ってきたんです。ところがしばらくして、『エンジンに負荷のかかる運転をしていないか調べる。検査に20万円かかり、購入者に若干でも問題があった場合は検査料金も購入者持ちで一切保証がきかない』と言われました。 

 

原因究明のために、ネクステージは店への入庫を要求してきました。しかし、レッカー代の有無も不明。さらに入庫後はディーラーに検査を依頼すると聞きました。ディーラーの解析では、誰がいつどう乗ったかの具体的なログは出ないはずです。どれだけ説明を求めても返答が曖昧で、結果がどうであれ20万円を請求した上でエンジンの修理を拒否するつもりではないか、という疑惑が拭えませんでした。 

 

余談ですが……ネクステージが点検をして、交換の必要がないとの判断したエンジンオイルは、納車後に見てみると真っ黒でしたね。そういったこともあり、不信感が増していきました」 

 

そこでAさんは、信頼できるトヨタ系列の関係者に状況の整理と実車確認を依頼した。その詳細な結果を書類としてネクステージに提出。しかし、担当者からは指定の返答時期になっても返事がなかったという。その後、「法務に確認したところ保証責任は我々にあるので、保証範囲の設定に関わらず無償で直します」と修理を約束するような発言があったというが……。 

 

「レース用に購入した車だから補償はしないと、再び翻してきました。購入店の店長を名乗る人物からは、『本社との決定事項ですので、無償修理は一切対応できません』とだけ。サーキット走行を前提に購入した車だから保証はしないってどういうことなんでしょうね」 

 

果たして、本当にこのようなズサンな対応が行われたのか。本誌の質問状に、ネクステージからは以下のような返答があった。 

 

「弊社の担当者が『保証を確約する』といった返答をしたことは一切ございません。故障の原因を特定するために、弊社もAさんも関わりのない第三者機関への入庫依頼をしていましたが、それが受け入れられなかったために、『調査ができない以上、無償修理はできない』と返答させていただきました。弊社としては、適切な対応をしていただければ今でも調査に応じる所存であります。それでも、お客様に誤解を生むような対応をしてしまったのは事実です。今後は再発防止に努めてまいります」 

 

結局、Aさんはディーラーなら120万円以上かかる作業を自腹で支払ってエンジンを載せ替えた。 

 

◆ホイールもタイヤも型落ち品 

 

ほかにも多数のトラブルに関する情報が寄せられている。ある50代の女性客は、’24年春ごろに愛車を120万円で買い取りにしたが、引き渡し日になって突如、「修理の跡があるので50万円減額する。キャンセル料は30万円かかる」と言われたという。また、別の50代男性客は’24年秋ごろ、目当ての車が期間限定で150万円だったので店に行くと、期間中にもかかわらず「期間限定は昨日で急遽終わった。今日買うなら180万円です」と値上げされたという。しかし、1週間後に調べてみると再び150万円になっていた。 

 

このようなトラブルはまだまだ多数ある。つい先日、筆者のところに届いたのはなんと高級輸入車の「認定中古車」に関するトラブルだった。被害にあったBさんが明かす。 

 

「認定中古車はメーカーやディーラーの保証が手厚く、入念な整備が行われるとのことで相場より100万円高い値段で購入しました。しかし、そのあとホイールが1世代前の旧型で、さらにボンネットが交換されていたことがわかりました。これだけでマイナス50万円くらい査定では下がります。また、新品といわれたタイヤも記録をたどったら前オーナーが2000km走行していた中古品だった。しかし、ディーラー側は『現車を見て購入を決めたのはお客様なので、間違ったことは何一つしていない』との主張で交渉にも応じないとのこと。正規ディーラーの認定中古車だから安心していたのに……」 

 

確かに実際に車を見て購入を決めたのはBさん本人だが、具体的な説明がないなか、その場でパーツを見抜くことは難しいだろう。 

 

旧ビッグモーター問題から2年近くが経ち、中古車業界は変化の時を迎えているのは間違いない。しかし、大手中古車店や有名ディーラーまでもが、誤解を生む販売方法や不透明な査定・検査を行い、購入者に疑問を持たせているケースはいまだに多い。 

 

良い中古車店を選ぶことは非常に難しい。大手レビューサイトなどの評価もいわゆる“サクラ行為”が行われていることが多いためだ。それでも、旧ビッグモーターの事件以来、中古車業界はダークなイメージを払拭し、客が安心して購入、使用できるようさまざまな取り組みを行っている。弛まぬ企業努力により、誰もが納得して中古車を購入できる日が来ることを願ってやまない。 

 

取材・文:加藤久美子 

 

FRIDAYデジタル 

 

 

 
 

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