( 248386 )  2025/01/12 18:32:17  
00

『劇映画 孤独のグルメ』©2025『劇映画 孤独のグルメ』製作委員会 

 

 韓国で『孤独のグルメ』の人気が高まっている。2024年の第29回釜山国際映画祭で『劇映画 孤独のグルメ』がワールドプレミア上映された際には、チケットが完売になるほどの盛況ぶりだった。特に女性からの支持が厚く、主演の松重豊への「かわいい」という評価も目立つという。なぜ韓国の視聴者、とりわけ女性たちは『孤独のグルメ』に惹かれるのか。翻訳家、ライターの桑畑優香氏に話を聞いた。 

 

 映像化作品だけでなく、原作漫画も高い評価を得ている『孤独のグルメ』。韓国の大手ネット書店でも発売直後に上位にランクインするなど、根強い人気を誇っている。 

 

 桑畑氏は「劇的な展開が好まれる韓国のエンタメの中で、『孤独のグルメ』のような作品は新鮮に映るようです。ふとお腹が空いて立ち寄った店で見えてくる日常が丁寧に描かれている点や、実在する店舗が登場する点が評価されています」と語る。 

 

 また、韓国では「1人で食べる」という行為自体が、まだ珍しい文化だという。 

 

「韓国では食事はみんなで食べるものという印象が強いんです。会社でも部署の人たちが揃ってでランチに行ったり、大学生も同じ研究室のみんなでで食事したり。特に焼肉店では『2人以上から注文できます』というメニューも多く、1人前が用意されていないところもあります」 

 

 特に女性にとって、1人での外食はハードルが高いという現状がある。 

 

「1人で食事をして『友達がいない変な人』と見られるのを恐れる傾向があります。女性の場合、1人で食べるなら店内よりもテイクアウトして家で食べる人が多いようです。そんな中で『孤独のグルメ』を読むことで、1人で食事をすることに自信がついたというレビューも見かけます」 

 

 そんな原作に独特な魅力を加えているのが、映画・ドラマ版で主演を務める松重の人柄だ。 

 

「韓国で売れている中年の男性俳優は、彫刻のような佇まいだったり、ハードボイルドな雰囲気だったりする方が多いんです。その中で松重さんは、力の抜けた自然な感じがある。釜山映画祭でも恥ずかしそうに手でハートを作ったり、フォトタイムで戸惑ったり。そういう親しみやすさに『かわいい!』という声が上がっていました」 

 

 また、本作に登場する老舗店の存在も、韓国の視聴者にとって見どころとなっているという。 

 

「韓国は比較的新しいお店が多く、インスタ映えするカフェなども次々と入れ替わる傾向があります。サービス業を代々継ぐという文化があまりなかったので、長く続く老舗店への敬意や、職人精神への憧れもあるのかもしれません。実際、韓国の若者が日本旅行で訪れる場所として、レトロな喫茶店が人気だったりします」 

 

 

 韓国では“食べること=生きること”という認識があり、「ご飯食べましたか?」が日常的な挨拶として定着している。これは一説によると、韓国が経済的に貧しかった時代に相手を気遣う言葉として使われ、現在まで定着しているのだという。食事を大切にする文化が、『孤独のグルメ』の丁寧な食事描写と響き合っているのかもしれない。 

 

「韓国でも人気のグルメドラマはありますが、若い男性が主人公で恋愛要素が絡むものが多いんです。純粋に食事だけを描く作品は珍しい。その中で『孤独のグルメ』は、食べることに真摯に向き合う姿勢が評価されているように思います」 

 

 今や『孤独のグルメ』の登場店舗を“聖地巡礼”する韓国人観光客も増えているという。東京や大阪の定番の観光地をすでに訪れた人たちにとって、作品に登場する知られざる街の風景は新たな魅力として映るようだ。SNSでの情報共有も相まって、さらなる人気の広がりを見せている。 

 

花沢香里奈 

 

 

 
 

IMAGE