( 248746 )  2025/01/13 15:35:53  
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Photo by gettyimages 

 

沖縄に対する中国の外交アプローチや各種の浸透工作が急速に活発化している。 

 

その契機とみられるのは、昨年6月1日、習近平主席が発した、中国と沖縄の「交流」を強調する発言だ。彼の意を忖度した中国の各部門がこぞって沖縄に介入し、日本の沖縄領有に疑念を投げかけるプロパガンダも盛んに流されている。 

 

辺野古新基地問題等で日本政府との摩擦を抱える、沖縄につけ込む中国。ルポライターの安田峰俊氏が、中国政府による「対沖縄工作」の実態に迫った。 

 

中国海洋法学会会長の高之国(百度百科より) 

 

「琉球(沖縄)が日本に帰属するかは疑わしい。沖縄の世論は琉球独立を支持している」 

 

「琉球人は日本人ではなく中華民族だ。彼らは祖国(中国)に復帰したがっている――」 

 

昨今、こうした内容のショート動画が、各種の動画サイトやSNSに溢れているのはご存じだろうか。多くは英語や中国語で、中国国内や海外向けに流されたものである。 

 

この現象を報じた10月3日付の『日本経済新聞』によれば、同紙がAIツールを用いてSNSの投稿を解析した結果、約200件の工作アカウントが琉球独立を煽るデマ動画を転載していることが判明した。 

 

不穏な動きはネットだけにとどまらない。 

 

9月3日、香港紙『星島日報』が、中国遼寧省にある大連海事大学の、沖縄関連の研究を目的とした「琉球研究センター」の設立計画を報じた。目を引くのは、設立準備シンポジウムで飛び出した過激な発言の数々だ。 

 

「琉球(の帰属)問題は国家安全と祖国統一に関わる」 

 

「『琉球問題』を明確な研究対象として政治的な研究を強化し、(中国の主張の)国際的な影響力を強めるべきだ」 

 

発言の主はそれぞれ、高之国・中国海洋法学会会長、徐勇・北京大学教授という、各学界の重鎮たちだ。高之国は過去、中国が南シナ海の島嶼部の領有の根拠とする「九段線」を歴史的な国境だと主張してきた国際法研究者。徐勇はかねてから沖縄の日本帰属に疑義を唱えてきた歴史研究者である。いずれも御用学者的な立場の人々だ。 

 

近年、中国は戦後の日本の主権範囲を定めたサンフランシスコ講和条約は無効であると強調しはじめた。それをもとに、学者やネット世論が「琉球独立」や「沖縄の中国復帰」を一方的に主張する流れが生じつつある。 

 

「中国の、一種の外交戦略であると感じます。近年の日本政府は、台湾問題をはじめ中国の『国内問題』にくちばしを突っ込み、中国の不興を買っている。現在の中国は、そうした不快な動きに『反撃』するようになっています」 

 

北京出身の張世險峰氏(55歳)は、一連の動きをこう話す。彼は沖縄の華人団体の元幹部で、現在は日本に帰化して中城村議選に挑戦中。日中いずれの政情も知る立場からの意見だ。 

 

2010年代後半以降、中国と西側諸国の対立が強まるなか、日本は新疆や香港の人権状況を批判し、アメリカと連携して台湾有事に備えはじめた。 

 

いっぽう、沖縄は前近代まで、琉球王国という別の「国家」だった。県民の間では日本本土に対して、戦争被害や米軍基地問題にもとづく感情のしこりが根強くある。 

 

ゆえに中国は、台湾に肩入れする日本への意趣返しとして、日本側の弱点である沖縄を揺さぶっているのだ。事実、大連海事大のシンポジウムを報じた『星島日報』の見出しにも「目には目を、日本を牽制せよ」という挑発的な文言が躍る。 

 

 

写真:現代ビジネス 

 

近年の中国の沖縄シフトを象徴するのが、要人訪問の活発化だ。 

 

従来、本土から離れた沖縄県と東京の中国大使館の往来は稀だった。また、沖縄県を管轄範囲とする駐福岡総領事の訪沖も、コロナ前までは年に1回程度にとどまった。 

 

しかし昨年以降、中国側と沖縄県庁は「過去20年間みられない」(県内治安関係筋)ほど頻繁な接触を繰り返している(以下の年表を参照)。 

 

その「交流」の内容も、県幹部が初めて中国大使館を訪問(2023年3月)、県が友好提携を結ぶ福建省のトップである党委書記が初の来県(今年7月)……と、前例を破るものが目立つ。 

 

中国要人の来訪は極めて物々しい。昨年10月、呉江浩駐日大使の受け入れ準備をおこなった、現地の華人団体関係者の一人はこう話す。 

 

「来訪前、大使館の指示で呉大使が宿泊するホテルの部屋を下見しました。室内の冷蔵庫の中まで調べて、危険な兆候がないかスマホで写真を撮影して報告させられた。窓から何が見えて隣にどんな建物があるかもすべて伝えろ、日本人運転手の身元も洗えと、口うるさくて閉口しましたよ」 

 

西沙諸島に含まれる鴨公島[Photo by gettyimages] 

 

こうした来訪者たちのなかには、奇妙な背景を持つ人物もいる。今年4月の着任から半年間で2度も訪沖した、楊慶東・駐福岡総領事だ。 

 

「彼は日本語が話せない。私は数十年沖縄にいますが、そんな総領事が赴任するのは初めてです。他の在沖中国人たちも、彼がなぜ日本に赴任したのか首をかしげています」(同前) 

 

通常、中国の駐日総領事は外交部内の日本語専攻者グループから選ばれるが、楊慶東氏は異なる。彼の職歴は、渉外安全事務司(外交部内の情報部門)の公使参事官を経て、中国が南シナ海島嶼部の占領地(西沙・南沙諸島)に設置した三沙市の「副市長」を経験したという異色のものだ。 

 

つまり、中国はインテリジェンスと海洋侵略のプロフェッショナルを、対沖縄作戦の前線に送り込んでいるのである。 

 

「沖縄県は地域外交を積極的に推進し、平和を求める沖縄の魂を世界に向けてアピールしたい」 

 

玉城デニー知事は昨年7月の訪中時、中国メディア『環球時報』の取材を受けて、県の地域外交の方針をこう語っている。しかし、中国側が沖縄に差し向ける人材は、「平和」とはほど遠い。 

 

沖縄に対する中国の浸透工作は、水面下でジワジワと進んでいる。中国側の当事者に直撃取材を試みた後編記事『習近平の「一言」がきっかけで、中国が沖縄を狙い始めた…! 共産党「浸透工作」の実態を暴く』にて、その実態を明らかにしていこう。 

 

「週刊現代」2024年12月7・14日合併号より 

 

安田 峰俊、週刊現代 

 

 

 
 

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