( 248816 ) 2025/01/13 16:59:21 0 00 北陸新幹線(画像:写真AC)
京都府内で環境問題が続く北陸新幹線。反対意見が多く寄せられ、2024年内の具体的なルート選定が見送られ、2025年度中の着工が難しい見通しとなっている。
しかし、与党のプロジェクトチーム(PT)は
「小浜・京都ルート以外はあり得ない」
との立場を変えようとしない。一方、石川県小松市長をはじめとするメンバーが石破総理に直接会い、「米原ルートの検討」を求めているなど、ルート再検討の動きが強まっている。
そんななか、国土交通省の関係者で新幹線のB/C算出経験のある職員が話を聞かせてくれた。米原ルートの課題や解決策、職場内で「小浜ルート中止論」が広がっている実態などを明かしてくれた。
なお、B/Cとは「費用対効果(Benefit-Cost)比」を指す。プロジェクトの経済的な妥当性を評価する指標で、事業の利益と費用を比較することで、投資に見合った効果があるかどうかを示す。具体的には、
・B(Benefit):プロジェクトによる利益や効果 ・C(Cost):プロジェクトにかかる費用
この比率が「1以上」であれば、プロジェクトが経済的に有効であるとされている。
米原駅の位置(画像:OpenStreetMap)
まず、この職員が訴えたのはこうだ。
「現在、小浜ルートの検討のみが許されている状況ですが、北陸新幹線の早期着工を実現するためには、小浜ルートだけでなく、米原ルートなど他のルートの検討も行う必要があると考えます。現在、土木従事者の就業人口が大幅に減少傾向にあるなか、今後、高度経済成長期に整備された多数の構造物の寿命が迎え、維持管理に多大な労力や費用、時間がかかることが予想されます。週休2日制導入なども進むなか、これまで以上に工事費や工期が延びることが見込まれ、大規模工事においてはそのリスクがさらに大きくなるでしょう。したがって、現時点でしっかりとリスクを精査することが重要です」
至極当然のことだが、これだけ事業費と建設期間が延びる前提条件の変化があるのに、ルートの再考が許されないのは異常なことだ。続いて、B/Cの算出について語ってくれた。現在、B/Cの算出にあたり、
I.区間で見るのではなく、全域を考慮する II.リダンダンシー(代替機能)効果を定量評価しようとしている
の2点を重視しているという。
「「I」について、米原ルートも試算すれば、B/Cは1を余裕で上回ることになるでしょう。中京~北陸の需要が軽視されがちですが、実際には関西~北陸と同程度あり、鉄道利用者を基準にすると関西~北陸の需要が大きいとされています。つまり、新幹線が開業することで、中京~北陸の他交通利用者(主に車)からの利用者移転が見込まれ、潜在需要が多く、その効果は大きいと考えられます」
「引き続きB/Cの定量評価数値は、「小浜ルート < 米原ルート」となることは確実ですので、小浜ルートにする場合、多くの国民から反対を受けるでしょう。国税を大量投入して費用対効果がない路線を作ることになるのであれば、昔の国鉄と同じです。国税を大量投入する以上、それに見合う効果を得られるものでなければならないと考えます」
「「II」について、そもそも敦賀~新大阪だけの設備増強では、北陸新幹線全体の本数は増やせません。ネックとなるのは東京~大宮であり、そこを改善できない限り、リダンダンシー効果は薄いままとなります。リニアが開業すれば、北陸新幹線のリダンダンシー効果の必要性は減少するでしょう」
北陸新幹線米原ルート 新大阪付近複々線化案 時刻表上り15分サイクル(画像:北村幸太郎)
リダンダンシーの観点からいえば、筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)が以前の記事でも示したとおり、東京都~大宮間の二重系化の議論がなければ意味をなさないだろう。また、小浜ルートか米原ルートかの議論では、中京圏を軽視するような分析や報道が目立つのも事実だ。中京圏の重要性について、詳しく説明してもらった。
「国土全体のネットワークを最適化するためには、未来のリニア開業後の視点が重要です。現在のニュースでは、リニアと組み合わせた記事が少ないのが現状です。現行のネットワークでよしあしを判断するのは危険です」
「注目すべきは、米原ルートにしてリニアと組み合わせることで、東京~北陸は所要時間で名古屋周りの方が、現行の長野周りよりも速くなることです。東京~福井は米原ルートが実現すれば名古屋周りで約2時間21分、現行は約2時間51分なので、30分も速くなります」
「また、リニアを組み合わせると、品川~金沢は名古屋乗り換え10分を仮定すると約1時間57分、現行の長野周りは約2時間25分です。広域の利便性を向上させるのは米原ルートであり、小浜ルートの場合、東京から北陸を米原周りで行くとなると、新幹線で京都まで行くか、しらさぎが残っていれば米原、敦賀で乗り換えが必要であり、引き続き長野周りが有利となるでしょう」
これは筆者が指摘してきたことでもあるが、北陸への速達性を考えると、リニアを利用して名古屋で米原ルートの北陸新幹線直通列車に乗り換えることで、北陸新幹線の長野回りよりも速くなるケースが出てくる。筆者の試算でも、東京~福井間は現行の2時間51分に対し、「リニア + 米原ルート」で名古屋~福井直通列車を利用すれば、1時間45分程度と、1時間以上速くなる見通しだ。これはJR東海にとっても、自社線を経由してくれる旅客が増えることになるため、メリットのある話である。
北陸新幹線米原ルート 新大阪付近複々線化案 時刻表下り15分サイクル(画像:北村幸太郎)
リニア経由での北陸需要を考えると、JR東海にとって米原ルートのメリットは大きい。しかし、JR西日本や沿線自治体をどう納得させるか、ここが重要な課題である。
「まず米原ルートで東海道新幹線乗り入れを提案すると、必ずといっていいほど、「JR西が米原~新大阪間の収益をJR東海に取られるのが面白くないから反対する」という意見を目にします。しかし、そんな必要のない方法が存在します。JR西日本が東海道新幹線内を第二種鉄道事業免許で運行し、JR東海に対して適切な線路使用料を支払うだけでよいのです。JR西日本が米原ルートを利用する場合、鉄道・運輸機構に支払う貸付料よりも安い線路使用料となるよう設定し、JR東海およびJR西日本との合意形成が可能となると考えています」
補足として、実際の事例として、都営三田線の目黒~白金高輪間は東京メトロ南北線の線路を借り、第二種鉄道事業免許で運行している。これにより、運賃も目黒~白金高輪間だけの別立てではなく、都営三田線区間を含む利用の場合、都営方式の通し運賃が適用され、旅客の負担が軽減されている。
国は米原ルートだと新大阪~金沢間の運賃・料金が小浜ルートよりも2450円高いとしている。しかし、この方法を北陸新幹線米原ルートに当てはめ、直通先であるJR東海の料金方式を適用し、現在は米原経由でも湖西線経由の営業キロで運賃計算する「経路特定制度」も適用すれば、小浜ルートよりも米原ルートの方がむしろ130円安くなる。しかし、福井県を初め小浜ルート推進派は、国が示した料金試算を前提に米原ルートは不利だとする主張を展開している。
続いて、自治体をどう納得させるかについては、次のように話す。
「米原ルートの問題点は、福井県と滋賀県の同意が得られるかどうかにあります。福井県側の解決策として、若江線(近江今津~小浜間・若狭湾快速鉄道とも呼ばれる)の鉄道整備、新快速を小浜発にすることが挙げられます。通勤で利用するのであれば、新幹線よりも在来線の方が適していると考えられます。新幹線通勤ができる財力があるのであれば、小浜市に住む可能性は低いでしょう。小浜市に住んでもらうには、逆に都心に直結する新快速の始発駅にする方が重要です」
「滋賀県については、費用負担と並行在来線の問題があります。費用負担については、受益割合に応じて費用を負担するスキームが最善ですが、次善策として、当初の関西広域連合が滋賀県負担分全額を引き受ける案も考えられます。滋賀県は引き続き北陸本線をJR西日本に経営を依頼する必要があるため、北陸本線の営業経費を一部国が負担する仕組みも検討されます。結局、このような問題はお金で解決することが多いのです」
筆者も小浜ルートに賛成していた頃、小浜が関西の通勤圏になることに大いに期待を寄せていた。しかし、5兆円もかけるとなると話は別だ。一方的に小浜ルートから米原ルートへ転換すれば、福井県としては面白くないだろう。若狭湾への短絡鉄道の整備など、何らかの代替補償はきちんと考えるべきである。新快速で小浜まで一本で行けるようにするのも魅力的な案ではないだろうか。
また、最近、財務省が新幹線駅の建設費を一部JRに負担させる方針を打ち出している件については、
「駅部の負担を営業主体に求めるのであれば、米原ルートの方が、小浜ルートよりも営業主体の目線で安くなるのは明らかです」
との意見だ。
琵琶湖の約8割に達する大量の水があるといわれる京都盆地(画像:Batholith)
職場内での状況について話してくれた。
「内部でも小浜ルートを強行するのではなく、他のルートを再考すべきだという声が徐々に大きくなっているのが現状です。国交省の上層部の方々は、議員に寄り添った発想を持つ傾向があり、そうすることで昇進しやすくなるのが現実です。そのため、議員に異論を唱えると、本省(霞ヶ関)以外に異動させられるなど、厳しい現実があります」
「本省(霞ヶ関)は、実質的に議員とのやりとりを担当しているため、他のルートに変更すべきという大々的な発言は難しい状況です。しかし、担当者レベルでは、小浜ルートに対する疑念がますます大きくなっているのが実態です」
やはり、西田昌司議員(自由民主党、与党整備委員会委員長)に寄り添った動きになるのが実態のようだ。新幹線整備ルートは、もっと国民、特に関係者に開かれたものになるべきだ。
北陸新幹線(画像:写真AC)
ひととおり話を聞いて筆者が感じたのは、
・中京圏 ・リニア開通後の状況
を無視した議論が横行している点だ。
小浜ルートで整備すれば、名古屋から北陸へ行く際に、以前は乗換なしで行けたのが、敦賀での乗換と、便によってはさらに米原での乗換も加わり、2回の乗換が固定化される。
京都で乗り換えればいいという意見もあるだろうが、やはり1回は乗換が固定される上、遠回りで料金も高くなる。こうしたデメリットの周知が弱く、認識も十分ではない。
北陸新幹線ルートの議論には、中京圏の自治体ももっと積極的に参画し、不利益を被らないように働きかけるべきだ。
もし沿線自治体として参加できないのであれば、受益者全員が参加できるよう制度そのものを改めるべきだろう。
北村幸太郎(鉄道ジャーナリスト)
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