( 248819 )  2025/01/13 17:05:47  
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秋田市でのクマによる被害を受け環境省が駆除した件で、市民から駆除反対の声があがり、ハンターの存在や銃器の使用について問題提起された。

クマによる農作物被害は年5億円とされており、クマとの遭遇は人命や財産にとって重大なリスクである。

 

 

クマ除けの方法として、クマ除けスプレーと銃器の効果について比較が行われており、スプレーは非致死性でクマを攻撃から守る効果が高い一方、風の影響や再び戻ってくる可能性もある。

銃器は致命的な効果があるが、使用者の負傷率が高く、適切な訓練が必要であることが指摘された。

現実的な対策としては、状況に応じてスプレーと銃器を準備することが重要であり、両方の特性を理解して適切な対応を取ることが必要とされている。

 

 

温暖化やエサ不足によりアーバンベアが増加する中、クマ被害を最小限に抑えるためには、クマ除けスプレーだけでなく銃器も適切に活用することが必要であり、警察やハンターの役割についても議論が続いている。

(要約)

( 248821 )  2025/01/13 17:05:47  
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(c) Adobe Stock 

 

 2024年11月30日、秋田県秋田市のスーパーに侵入したクマがわなにかかった後に麻酔で眠らされ、その後駆除された。しかしこれが報じられると、市などに「人間の都合で殺すな」「山に返すべき」といった100件を超える抗議の声が寄せられたことが波紋を呼んだ。環境省によると、クマの被害を受けた人は昨年度、全国で219人と過去最悪で、23年12月の被害の67%は市街地で発生したという。それゆえ銃を扱うハンターの存在も重要になってくるのだが、市街地や住宅地で猟銃を使用することは、危険性が高いことから鳥獣保護管理法で禁止されているという。そんな中でクマによる農作物への被害は年5億円とされている。作家で経済誌プレジデントの元編集長の小倉健一氏が解説するーー。 

 

 北海道砂川市で2018年8月、市の要請に応じてヒグマを駆除した猟友会砂川支部長の池上治男さん(71)が、銃所持許可を取り消された問題は、警察の対応に重大な疑問を投げかけている。池上さんは市職員と警察官の立ち会いのもと、民家近くに出没したヒグマを適切に射殺したにもかかわらず、後に「建物に向けて発砲した」との理由で所持許可を取り消された。しかし、現場には高さ8メートルの土手があり、弾丸が人や建物に当たる危険性は低かった。さらに、検察はこの件を不起訴処分としており、違法性は認められていない。それにもかかわらず、北海道公安委員会は銃の所持許可を取り消し、銃を押収し続けている。この対応により、ハンターたちは警察への不信感を募らせ、駆除活動を控えるようになってしまった。 

 

 凶暴なクマとの遭遇は、人命や財産に重大なリスクをもたらすだけでなく、クマ自身の生存にも影響を与える深刻な問題である。 

 

 2023年のクマ類による人身被害は、統計史上過去最多の198件だ。2024年度の人身被害も、2023年とほぼ同じようなペースで増えている。近年特に注目されているのが「アーバンベア」だ。集落や家のすぐ裏の森で日常的に暮らしていて、山奥にいるクマよりは人間に対する警戒心が低いクマのことを指す。住民たちはクマに襲われる恐怖と隣り合わせの現実なのである。 

 

 こうしたリスクに対応するため、熊スプレーと銃器のどちらを選ぶべきかという議論がしばしば行われる。今回は「クマ抑止のための銃器の有効性」(2012年、※1)と「クマ除けスプレーの有効性」(2008年、※2)の二つの研究を比較し、クマ除けスプレーだけでは心許ない現実をお伝えしたい。 

 

 クマ除けスプレーの有効性はどうなのか。この研究では、1985年から2006年にかけてアラスカ州で記録された83件のスプレー使用事例を分析している。その結果、全体で92%の成功率が確認され、ヒグマに対する成功率は92%、クロクマは90%、ホッキョクグマは100%という高い効果を示した。 

 

 

 また、スプレー使用者の98%が負傷を回避しており、負傷した3名も軽傷で済んだことが注目に値する。スプレーの特長として、非致死性であることが挙げられる。クマを殺さずに攻撃や不要な行動を停止させるため、環境保護の観点からも優れている。 

 

 しかし、クマ除けスプレーには限界も存在する。特に、風の影響を受けるケースが7%(83件中5件)報告されており、使用環境によってはスプレーが完全な効果を発揮しない場合がある。また、スプレー後にクマが再び戻ってくる事例が全体の14%(71件中10件)で見られ、特に食料やゴミを探す行動が原因となる場合が多い。このようなケースでは、スプレーが一時的な効果しかもたらさない可能性がある。 

 

 一方、銃器による抑止については、1883年から2009年にわたる269件の事例を分析した研究がある。この研究によると、銃器の成功率は長銃が76%、拳銃が84%であった。これらのデータはスプレーの成功率に劣るものの、銃器は特に大型で攻撃的なクマに対して致命的な効果を発揮できる点で優れている。また、スプレーでは対応が難しい遠距離からの対処が可能であることも銃器の利点として挙げられる。 

 

 銃器にも課題がある。まず、使用者の56%がクマとの衝突で負傷しており、これはスプレー使用時の負傷率(2%以下)と比較して大幅に高い。また、銃器の使用には十分な訓練が必要であり、正確に命中させる能力が求められる。さらに、銃器の誤作動や使用ミスが成功率を下げる要因となっており、近距離での対応が難しい場合もある。 

 

 これらの結果から考えると、クマ除けスプレーと銃器はそれぞれ異なる状況で有効であり、どちらか一方だけではクマ被害を完全に防ぐことが難しいと結論付けられる。スプレーは非致死性で高い成功率を持つため、クマとの偶発的な遭遇において非常に有効である。しかし、再び接近してくるクマや極端に攻撃的な個体、あるいは遠距離での対応を要する場合には銃器が必要不可欠だ。 

 

 現実的なクマ被害防止策としては、状況に応じてスプレーと銃器の両方を準備することが最善である。例えば、ハイキングやキャンプなどの活動では熊スプレーを携行し、迅速に使用できるよう準備しておくべきだ。食料やゴミをクマが接触できない場所に保管するなど、遭遇そのものを回避するための予防策を講じることも重要である。 

 

 

 クマとの共存を目指すには、クマ除けスプレーと銃器の特性を正しく理解し、それぞれの強みを活かした対策を取ることが必要だ。スプレーは一時的な対処手段として有効だ。対する銃器は最後の手段としての役割を果たす。異常な行動を示すクマ(例えば、学習能力がない)は、再び人里に現れる可能性が高いと判断され、アーバンベアのように住宅地や市街地に頻繁に出没し、人間への警戒心が薄れたクマは危険であり、住民生活の安全確保を最優先にすべきだろう。 

 

 麻酔銃でいいではないかという人もいるのだが、射程距離も短く、クマを逆上させる恐れもあることから使用が難しいという現実がある。 

 

 温暖化やエサ不足によってますますアーバンベアが増えていくことが予測されている。このクマ除けスプレーだけでなく、銃器も含めたツールを適切に組み合わせることで、クマ被害を最小限に抑え、人間と自然が調和して生きる未来を築くしかない。一方的に、ハンターから銃を取り上げる警察の対応に批判が集まるもの当然だろう。警察は治安を守るため、住民が安心して生活するための組織であり、目的に沿った行動を求めたい。 

 

※1 「クマ抑止のための銃器の有効性」 著者:トム・スミス、スティーブン・ヘレロ、キャリ・ストロング・レイトン、ランディ・T・ラーセン、キャスリン・R・ジョンソン 発表年:2012年 掲載誌:The Journal of Wildlife Management 主な研究機関:ブリガムヤング大学、カルガリー大学、アラスカ科学センター(USGS)。 

 

※2 「クマ除けスプレーの有効性」著者:トム・スミス、スティーブン・ヘレロ、テリー・D・デブルイン、ジェームズ・M・ワイルダー発表年:2008年掲載誌:The Journal of Wildlife Management主な研究機関:ブリガムヤング大学、カルガリー大学、アメリカ国立公園局、鉱物管理局 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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