( 249181 )  2025/01/14 14:54:18  
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日本の物流インフラを担う大企業・ヤマト運輸。その土台となる首都圏の営業所では、現場社員が音を上げてしまうトラブルが頻繁に起きていた。 

 

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午前9時30分、都内にあるヤマト運輸の営業所から「クロネコマーク」が目印の一台のトラックが出てくる。そのハンドルを握るドライバーのAさんは焦りに焦っていたーー。 

 

本日中に配り終えないといけない荷物は、クール便を含めて約180個にのぼる。ところが、荷物の積み込みに時間がかかり、営業所を出発する時刻が大幅に遅れたため、午前指定便に間に合うのか雲行きが怪しかったからだ。 

 

Aさんは大急ぎで配達に向かうが、トラックには住所ごとにまとまっていない荷物もあり、思ったよりも時間がかかる。そのまま時間だけが過ぎていき、無情にもタイムリミットの正午を迎えた。 

 

配達先のドアが開くや否や、「遅れてしまい申し訳ございません」と頭を下げるAさんだったが、その裏でひそかに下唇を噛み締めていたのには理由がある。’24年の春からヤマト運輸では、長年仕分けに携わっていたスタッフが解雇され、「スキマバイトアプリ」経由で集まるスタッフが急増していたからだ。 

 

スキマバイトアプリとは、単発バイトをスマホで探せるサービスのことだ。若者を中心とした非正規ワーカーたちの間で人気が急拡大している。 

 

「アプリ経由で集まってきた『早朝仕分け』のアルバイトが急増してから、ドライバーが出勤する朝8時までに荷物の仕分けやトラックへの積み込みが終わらず、すぐに配達に向かえない日も増えました。結果的に指定の時間帯に荷物を届けられない事態が起きているのです」(ヤマト運輸の関係者) 

 

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「スキマバイトアプリ」経由で営業所にスタッフを集めるようになったきっかけは'23年6月にさかのぼる。 

 

トラック運転手不足が懸念される「2024年問題」を見据えて、ヤマトは長年ライバル関係にあった日本郵便との協業を発表。それに伴い、ポスト投函サービスの「クロネコDM便」を'24年1月末で終了した。 

 

そこでヤマトは、これまでクロネコDM便に携わってきた約2万5000人の個人事業主との契約を打ち切ってしまう。 

 

神奈川県内の営業所で働くドライバーの男性はこう憤る。 

 

「ウチの営業所には、もともと『早朝仕分け』と呼ばれるパートさんがいました。その半数以上が個人事業主としてクロネコDM便も兼業しています。昨年の契約打ち切りにより、このパートたちが大量に辞めてしまったんです。 

 

その代わりに入ってきたのが『スキマバイトアプリ』経由で集まったスタッフです。ただ、若い子たちが多くプロ意識に欠ける。あまりに彼らの仕事ぶりが杜撰すぎて、現場ドライバーから非難が殺到しています」 

 

他の複数のドライバーに話を聞いても、みな口をそろえてスキマバイトアプリのスタッフに不満を溜めていた。さらに都内の営業所である「商品」の盗難事案も頻発しているという。 

 

「アプリ経由で集まってきたアルバイトが増えてから、複数の営業所内でiPhoneやポケモンカードの在庫が不自然に減る事案が頻発しているーーそんな話が出回っているのです。昨年、都内にある営業所でiPhoneが複数台紛失した際も、そこの営業所の同僚たちも『パクってるのはスキマバイトの連中じゃないの?』と疑いの目を向けていたそうです」(前出のヤマト関係者) 

 

 

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だが、こういったスキマバイトアプリ増加による影響は、ヤマトが抱える問題の一端に過ぎない。 

 

営業所やベース(ターミナル拠点)で働く関係者たちに取材を重ねて浮かび上がってきたのは、「ヤマト崩壊」と言っても過言ではないほどの現場社員たちの疲弊と困惑だ。 

 

'24年11月5日、宅配大手のヤマトHDは今年度上期の連結決算において営業損益が150億円の赤字に転落したと発表。 

 

売上高に相当する営業収益に関しても、前年同期比3%減の8404億円に下落。 

 

下期の業績予想も大幅に見直され、4期連続で下方修正することになった。 

 

「大口法人の顧客に対して、送料の値上げ交渉を進められなかったのが業績悪化の原因でしょう。たとえばアマゾンの荷物を関東圏内に配達する場合、60サイズ(外形3辺合計60cm以内の小型の荷物)で300~400円台と、他社より単価が安い。'13年には佐川急便が単価見直しに踏み切ってアマゾンから撤退しています。それでもヤマトは薄利多売のスタイルを続けました。結果、利益が出ないのに運ぶ荷物は増え続けてしまい、現場がパンクする事態に陥っています」(前出のヤマト関係者) 

 

現在、ヤマトにはドライバーが約6万人('24年3月時点)在籍しているが、首都圏の現場では人手不足で喘いでいる。 

 

「そもそも、運ぶ荷物が多すぎることにも問題があります。'23年度の配達個数でいえば、宅配大手3社のうち佐川急便が13億2500万個、日本郵便が10億900万個なのに対してヤマトは22億9500万個です。経営が傾きつつあるからといって、現場の実情を何も知らない本社が、法人営業をかけすぎなんですよ」(前出のドライバー) 

 

後編記事『「給料ガタ落ちで自家用車を売却」「クリスマスケーキの自爆営業」…物流業界が見逃してきたヤマトの「暗部」』へ続く。 

 

取材・文/神保英二(フリーライター) 

 

'97年生まれ。月刊誌編集者、週刊誌記者を経てフリーライターに。物流問題のほか、事件やご近所トラブルまで幅広く取材、執筆している 

 

「週刊現代」2025年1月11・18日号より 

 

週刊現代(講談社・月曜・金曜発売) 

 

 

 
 

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