( 249219 )  2025/01/14 15:41:47  
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従業員がインフルエンザに感染した場合、会社は従業員に休ませるか帰宅を命じることができます。

労働者の安全や感染拡大を防ぐために、就業規則や労働協約で感染症予防の措置が明記されていることが多い。

また、休ませたり在宅勤務を命じた場合は賃金を支払う必要があり、労働基準法では休業手当を支払わなければならない場合がある。

インフルエンザ感染が疑われる場合でも、使用者が従業員を休ませることは、経営上の都合によるものとして、休業手当支給の必要がある。

(要約)

( 249221 )  2025/01/14 15:41:47  
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画像はイメージ(Ushico / PIXTA) 

 

「従業員が、インフルエンザに感染しているようです。家族がインフルエンザにかかっており、本人にも発熱や節々の痛みなどの自覚症状があるそうです。しかし、こちらが説得しても病院には行かず、無理に出社してきて困っています」 

 

こんな悩みが弁護士ドットコムに寄せられました。 

 

相談者によると、近々会社にとって重要な業務があるため、ほかの社員に感染が広がると大変困るとのこと。このような場合に、強制的に休ませたり、帰宅するように命令することはできるでしょうか。 

 

――今回の相談事例はどのように考えられるのでしょうか? 

 

法的には、使用者から労働者に対する業務命令として、休業や帰宅を命じることができるか、という問題です。 

 

一般に、業務命令は、就業規則や労働協約等の合理的な規定に基づく相当なものであるかぎり、労働者はその命令に従う義務を負います。 

 

就業規則や労働協約では、労働者の安全に配慮するためにとるべき措置が明文化されていることが多いと思われます。特に新型コロナウイルスの蔓延以降は、就業規則等で感染症予防のための具体的な規定が置かれている会社も多いでしょう。 

 

感染が疑われる従業員を休業させたり、帰宅させたりすることは、感染が疑われる労働者の安全の観点からも、他の従業員を感染させない観点からも合理的といえるのが通常と思われますので、こういった規定に基づいて休業・帰宅させることは可能でしょう。 

 

――そもそも勤務させず、休んでもらうことはできる? 

 

まず、休業命令を出して、在宅勤務もさせない(=純粋に休んでもらう)ということは、規定がなくても可能だと考えられます。 

 

というのも、労務の提供については、労働者の義務ではあるが(労働契約法6条)、権利ではないと解されているからです。 

 

すなわち、使用者による個別の休業命令は、使用者が、労務の提供を拒否するだけにすぎないと考えられるためです。 

 

――在宅勤務してもらうことはできるか? 

 

次に、出社を認めずに、在宅勤務をさせる場合はどうでしょうか。 

 

相談の事例のように、当該従業員に感染症の疑いがあるということは、それなりに健康面に問題があるのでしょうから、従業員の体調が回復するまでは、在宅勤務を命じること自体できないと思われます。 

 

問題は、体調が回復した後に、感染予防のため在宅勤務させられるかどうかです。 

 

これはなかなか難しい問題です。新型コロナウイルスの拡大が社会問題となり、外出が自主規制された頃は、特に規定がなくとも在宅勤務を実施していました。 

 

しかし、本来であれば、どのような場合に在宅勤務を命じられるのか、在宅勤務における時間管理や賃金の決定をどうするのか等を決める必要があるでしょうから、規定を置く必要があると考えられます。 

 

 

まず、在宅勤務をさせている場合、当然ですが賃金を支払う必要があります。 

 

次に、勤務させずに純粋に休んでもらう場合、就業規則等で賃金や休業手当を支払う定めがあれば、これらを支払う必要があります。 

 

このような定めがない場合には、労働基準法の規定によることになります。 

 

同法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」としています。 

 

つまり、平均賃金の6割以上を支払わなければならない場合があることになります。 

 

問題は、インフルエンザに感染している「疑いがある」という理由で、使用者が労働者を働かせなかったことが、「使用者の責(※「せめ」と読みます)に帰すべき事由」といえるかです。 

 

「責に帰すべき事由」とは、使用者に故意・過失がある場合だけでなく、「経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しない限りはそれに含まれる」と解されています(菅野和夫・山川隆一「労働法」第13版p381)。 

 

このような事由にあたるかどうかの判断は、個々の事案ごとに異なると思われますが、今回のご相談のケースでは、重要な業務への影響という使用者側の経営上の都合で休業を命じるわけですから、「責に帰すべき事由」があるというべきでしょう。 

 

したがって、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う必要があると考えられます。 

 

(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋) 

 

 

 
 

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