( 249251 )  2025/01/14 16:14:55  
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奨学金の返済が大きな負担に(写真:Monthira/Shutterstock.com) 

 

2人に1人が受給しているという奨学金(日本学生支援機構の調査より)──。教育費が高騰し、親世代の手取りも増えない日本で奨学金に頼る状況が一般化している。国内ほぼ全て(1万6000件以上 

)の奨学金情報を検索で探し出せるサービスを提供しているスタートアップ、ガクシー創業者でCEO(最高経営責任者)の松原良輔氏に、奨学金の現状を聞いた。 (湯浅大輝:フリージャーナリスト) 

 

■ 夢を持てない今の学生たち 

 

 ──ガクシーは奨学金検索サイトを運営し、「奨学金の情報格差」を埋める事業をしています。たくさんの情報が集まってくると思いますが、現在の学生を取り巻く経済的な状況をどのように分析していますか。 

 

 松原良輔氏(以下、敬称略):2人に1人という数字は返済しなくていい給付型の奨学金が含まれていますから、貸与型、つまり返済しなければならない奨学金を借りている学生は(全学生のうち)30~40%と推計されます。 

 

 貸与型はいわば「借金」で、こうした奨学金に頼らざるを得ない状況の学生は、大人が想像するよりはるかに厳しい生活を送っており、学生らしい「夢」すら持てないような人も少なくありません。 

 

 奨学金といえば聞こえはいいですが、例えばJASSO(日本学生支援機構)が貸与する奨学金のうち、第二種と呼ばれる奨学金は上限3%の金利が付き、連帯保証人か機関保証が必要なまさに「借金」です。返済できなければ自己破産するしかありません。 

 

 2017年に日本でも給付型の奨学金がスタートしましたが、受け取れる条件が世帯年収約461万円未満で、大多数を占める中間層は対象になりません。 

 

 まして、現在は学生の親世代も税・社会保険料の負担が年々重くなっていますし、教育費も高騰しています。こうした状況に置かれている現在の学生は「(親に負担をかけないように)大学を早く卒業して、安定した職を得て、奨学金を返さないと」というプレッシャーを感じています。 

 

 ──今の学生はとても現実的、ということでしょうか。 

 

 

■ 「他人に知られたくない」 

 

 松原:はい。私が大学を卒業した20年前はもう少し学生にも若者らしい無邪気さとか、青春を楽しむ余裕があったように思いますが、経済的に厳しい環境に置かれている今の学生は目先の損得に非常に敏感で安定志向です。人生に一度しかないモラトリアムを利用して、留学したり、一人旅に出かけたりといった選択肢を最初から排除しているのです。 

 

 また、日本では学生がアルバイトをするのも「社会経験」として有益、という考えが根強く、本来勉学に集中するべき期間を生活費を稼ぐためにアルバイトで浪費してしまっています。奨学金を借りていたらなおのこと、バイトは必須でしょう。 

 

 もっとも、学生が現実に目を向けざるを得ないのも無理はありません。そもそも、奨学金を借りると決断するのは高校生の時であり、その年齢で将来のマネープランやキャリアプランを固めておけというのは酷だと思います。 

 

 一方、奨学金の業界には「情報格差」が存在します。現在は貸与型だけでなく、卒業後に就職した企業が肩代わりしてくれるものや、各財団の給付型奨学金なども増えています。JASSOの貸与型奨学金だけが奨学金ではないのです。 

 

 ところが給付型の奨学金の存在自体を知らない高校生・学生が大多数です。実際、某有名私立大学の学生が学内の200万円の給付型奨学金に応募したところ、応募したのは 2人だけだったとのことです。その学生は無事、奨学金を得ることができたのですが、本人は「他人には知られたくない」と明かしていました。知られたら倍率が上がってしまうからでしょう。逆に言えば、知らないことで給付型奨学金をもらうチャンスを自ら逃している学生がたくさんいるのです。 

 

 こうした状況を解消したいと考え、ガクシーでは1万6000以上の奨学金情報を掲載し、自分に合った奨学金を検索で探せるようにして「情報の非対称性」を解決し、「受給できるはずの給付型奨学金情報」へのアクセスを容易にすることを目指しています。 

 

 ──貸与型の奨学金に関しては、リストラされた時や健康リスクを抱えた時などに返済が滞るリスクもあります。JASSOは取り立て業務の民間委託も始めており、借りている人はプレッシャーを感じているのではないでしょうか。 

 

 

■ 財源問題で教育支出が増えることはない 

 

 松原:貸与型の奨学金は返済が猶予されることはあっても、一般的に減額されることはまずありません。 

 

 JASSOは返済されたお金を次の世代の奨学金としてプールしている、としっかりと返済されることの重要性を説明しています。政府から(返済できない人のための)予算がつく、といった未来は予想しづらいです。財源の問題がありますから。 

 

 アメリカとイギリスでは、政府が返済できなかった人に向けた公的補填を実行しているので、セーフティーネットの拡充を日本も議論すべきだと思います。 

 

 ──高等教育の議論でよく聞くのがその「財源論」です。経済協力開発機構(OECD)の統計でも、日本は高等教育費の公的支出の割合が他国と比較して低いと指摘されています。 

 

 松原:少子高齢化で社会保障関連の支出が膨れ上がっていることに加えて、基本的に日本の教育行政は「平等性」を強く打ち出す傾向にあることから、高等教育に対する予算が劇的に増えるとは今後も考えづらいと思います。 

 

 「平等性」とは、「お金がないから大学に行けない/そもそも高等教育を受けられるだけのキャパシティが家庭にない」子どもたちをまず救おうという発想です。大学に通う学生の大部分を占める世帯年収1000万程度の家庭の負担を減らそうという機運は高まらないでしょう。 

 

 ──1000万円程度の収入があっても、首都圏に家を持ち住宅ローンを組んでいれば、大学の学費を捻出するのが難しい家庭も多いのでは?  まして、この物価高で、将来不安は高まる一方です。 

 

■ お金を次の世代に回す仕組みを 

 

 松原:給付型奨学金を増やすことと、日本国内で「ダブついている」お金を教育費に回すことが重要だとガクシーは考えています。 

 

 現在、日本の高等教育(高校・大学)の授業料の総額は16兆円ほどと言われています。うち、奨学金が占めるのは1.6兆~1.7兆円。約10%を奨学金が占めているのです。 

 

 財源の問題から、この16兆円すべてを政府がカバーするのは無理でしょう。しかし、日本国内にはダブついているお金が民間にあります。タンス預金がその代表例ですし、遺贈市場は20兆円ほどあるのです。 

 

 こうしたお金の持ち主は高齢者の方々がメインですが、彼ら/彼女たちと話していると「これからの若い人に譲りたい」と考える人も多いのです。そこでガクシーは三菱UFJ信託銀行と協業し、日本で初めての給付型奨学金ファンド「サステナブル奨学金」の組成を検討しています。 

 

 企業だけではなく、こうした個人からの寄付金や拠出金を三菱UFJ信託銀行が運用し、運用益を資金提供者の希望に基づいてガクシーを通じて学生に奨学金として支給する、という仕組みです。 

 

 これまでは、基本的に遺贈の対象は、日本赤十字社などをはじめとした団体への寄付が中心で、若者に寄付する形はありませんでした。経済的な理由で将来不安を抱える若者を少しでも減らしたいと考える高齢者・お金持ちのニーズは確実に存在するので、サステナブル奨学金がその一助になれば良いなと願っています。 

 

松原 良輔/湯浅 大輝 

 

 

 
 

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