( 249354 )  2025/01/14 18:10:56  
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経済アナリスト・森永卓郎氏による連載「読んではいけない」では、少子化対策の必要性と官僚による的外れな対策について批判している。

少子化の背景を経済学的観点から探り、結婚適齢期の貧困が少子化を促進していることを指摘。

その解決策として、格差の縮小が重要であると主張している。

しかし、実際の対策は子育て支援に終始しており、未婚の根本的な問題には対処していないとしている。

彼は少子化対策における官僚の自己利益追求を批判し、真の対策が必要であると訴えている。

(要約)

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「異次元の少子化対策」で少子化問題は解決できない(写真はこども家庭庁/時事通信フォト) 

 

 闘う経済アナリスト・森永卓郎氏の連載「読んではいけない」。今回は「異次元の少子化対策」について。森永氏が日本で少子化が進む背景を読み解き、その対応策について提言。的外れな少子化対策ばかりが実行されるのはなぜか──それは「官僚に恩恵があるから」だと森永氏は断罪する。 

 

 * * * 

 石破茂首相は少子化対策として、新たに「少母化」なる言葉を作り出し、「少子化の本質は母が少ない『少母化』だ」と力説し始めた。婚姻率が下がり、母が減れば子も少なくなる。いかに結婚を増やしていくかが問われている、と。 

 

 この石破首相の主張は、経済学の観点から見ると意外にも本質を突いている。 

 

 今から150年前、カール・マルクスは「資本論」のなかでこう断じた。資本主義は利益の最大化を目指すのだから、労働者には生きていくためのギリギリの賃金しか支払わない。結婚して、子どもを産み育てる分までの賃金は支払うはずがないと。少子化は資本主義の必然だという事実を見抜いていたのだ。 

 

 マルクスの論を前提に考えると、なぜ少子化が進むのかが分かる。すなわち結婚適齢期の人々の「貧困」である。 

 

 内閣府の「結婚・家族形成に関する調査報告書」によると、20~30代男性の場合、年収800万~1000万円の既婚率は44.0%だが、年収の下落とともに既婚率は低下し、年収100万円台は5.8%、100万円未満は1.3%。既婚率の低下を招いたのは、平均年収が170万円とされる非正規社員が激増した結果だと言える。 

 

 女性が求める年収条件を満たす男性が減れば、未婚女性が増えるのは当たり前だ。女性の生涯未婚率は1985年の4.3%から、2020年には16.4%へと増加した。 

 

 この点を鑑みると、真の少子化対策は簡単に導き出せる。格差を縮小することだ。 

 

 最低賃金の大幅引き上げ、同一労働同一賃金の厳格化、あるいはベーシックインカム導入の議論があってもいい。 

 

 

 しかし、実際に官僚たちが作った異次元の少子化対策は、格差縮小の施策ではなく「子育て支援」に終始している。すでに生まれた子供、あるいはこれから産まれる子供に対するケアなのだ。これでは少子化の根本要因となる「未婚」の問題が解決するわけがない。 

 

 なぜ官僚はあくまで子育て支援にこだわるのか。自分たちが美味しいからである。 

 

 所得制限の撤廃をはじめとする児童手当の拡充は、高所得者ほど恩恵が大きい。2023年4月から出産一時金の給付額が42万円から50万円に引き上げられ、今後は出産費用への保険適用も検討されている。最も出産費用の高い東京(平均62万円)で産むと、50万円の一時金でも足りない現実があり、保険適用は大都市の出産を支援する意味を持つ。 

 

 どれもみな都心の高所得者が得をする政策である。さらに子育て関連サービスの拡充や育休関連給付の創設により、新たな天下り先や運営予算が発生する。異次元の少子化対策は貧困層ではなく官僚に恩恵があるものばかりなのだ。 

 

 石破政権はここにメスを入れ、本当の意味での少子化対策が実現できるか。その手腕が問われている。 

 

【プロフィール】 

森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年7月12日生まれ。東京都出身。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所などを経て現職。近著に『身辺整理』(興陽館)『投資依存症』『書いてはいけない』(ともに三五館シンシャ)など。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍中。 

 

※週刊ポスト2025年1月17・24日号 

 

 

 
 

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