( 249771 ) 2025/01/15 15:17:32 0 00 人数が増えて2チームに分かれたバスケクラブのミーティング
公立中学校の部活動を民間クラブなどに委ねる「地域移行」を巡り、長野県内で取り組みの進み具合に差が出始めている。先行して取り組む都市部で増加した加入者への対応を余儀なくされたクラブがある一方、小規模町村では指導者の確保が進まずにクラブの立ち上げに苦労するケースが目立つ。地域ごとに特有の課題があり、生徒の思いをくみつつ対応していく姿勢が問われている。
ボールが弾み、シューズが擦れる音が体育館に響く。昨年12月24日、長野市三陽中学校。地域クラブ「三陽男子バスケットボールクラブ」の中学生たちが、ひしめき合いながら練習をしていた。
クラブは三陽中の男子バスケ部が移行する形で2023年に発足した。教員2人の他に休日の活動を主に担うコーチ2人が加わって指導の厚みが増した。近年のバスケ人気も相まって生徒の加入が増え、現在は中1、2年の計約40人が所属。近くの桜ケ岡中からの選手もいる。
人数の増加に対応し、本年度から2チームに分けて活動するように。練習時間を30分ほどずらす工夫もしている。それでも女子バスケなど他クラブも利用する体育館は混み、男子バスケの1チームが使えるのはコートの半分だ。
主将の上倉蓮士(れんじ)さん(13)=三陽中2年=は「選手が多いのはうれしいけれど、できる練習メニューが限られるのでやりにくい面もある」と率直な思いを話す。
文部科学省は22年12月に地域移行のガイドラインを示し、23~25年度の3年間を「改革推進期間」とした。三陽中の取り組みは、こうした国の動きを先取りした事例の一つ。地域住民らが18年に校外組織「三陽クラブ」を設立し、バスケを含めた10の部活動をこれまでにクラブの活動に位置付けて準備してきた。
同中は来年度、地域移行を本格化させる見通しだ。新1年生への部活の募集はせず、地域クラブの入会を案内する。クラブは近隣の中学校の生徒たちも受け入れるため、加入者はさらに増える可能性がある。
男子バスケのアシスタントコーチを務める冨田憲太郎教諭(37)は大会での成績を重視しつつ、地域クラブとして「初心者でもレベルアップできるようにしたい」と話す。ただ「場所も限られており、これ以上増えると厳しい」と悩ましさを口にする。
長野市は、市内中学校の運動部は25年度末までに、文化部は26年度末までに平日も含めて地域クラブに移行する目標だ。市教育委員会によると、約180ある運動部は昨年末時点で半分以上が移行済みという。
ただ、これまで中学校ごとにあった部活が完全に地域クラブに移行すれば、生徒たちの受け皿が減るのは避けられない。現状でも複数校の生徒が近隣の同じクラブに加入するケースがあり、クラブ側には受け入れをどう担保していくかが課題となる。
同市吉田の長野運動公園を拠点とする「三陽陸上クラブ」も、こうした部活動の移行先となる。代表の田中哲広さん(60)が13年に立ち上げ、現在は計約40人が所属。長距離は田中さんと男性コーチの計2人が担当するが、短距離は別のコーチが1人で指導している。
「選手の安全確保の観点からも指導できる人数は限られる」と田中さん。選手の成果を重んじるクラブの方針は変えないようにしたいとしつつ「地域移行でメンバーが増えた際の対応も考えておかなければならない」と見据える。
長野県教育委員会は「生徒のニーズに応えるためにも、多様な地域クラブが存在して選択肢があることが望ましい」(保健厚生課)との立場だ。地域ごとの協議会で実情を把握しながら移行を進めてもらいたいとしている。
県内の小規模自治体では指導者の確保や地域クラブの立ち上げが課題となり、地域移行が進みにくい実情がある。自治体の枠を超えた「広域連携」の動きもあるが、別々で取り組んできた活動を合わせる難しさに直面している。
長野県飯島町は、隣接する中川村との広域連携に取り組む。地域移行の運営団体として2021年に「飯島プラス1クラブ」が発足し、本年度中に男子バレーボールクラブが初めて立ち上がる予定だ。飯島町教育委員会の片桐健教育長は「別々の部活として活動していたため、練習方法などを擦り合わせるのが非常に難しい」と指摘。学校や年代によって選手構成も異なり、男子バレーのクラブ発足は時間がかかったという。
クラブ化に当たっては、運営費をどう捻出するかも大きな課題だ。片桐教育長は加入者に費用負担を求める場合にも「困窮家庭の子どもがクラブに入れないなどの状況はあってはならない」と強調。「国などの支援動向を踏まえた上で、町としての対応を検討したい」と話す。
麻績村も地域移行に向け、隣接する筑北村との連携を検討している。麻績村教育委員会の加瀬浩明教育長は、少子化が進む上に指導者の確保も容易でないとして「村単独での移行は現実的ではない」と説明する。
麻績村唯一の筑北中学校は全校生徒34人。単独チームでの大会出場は既に難しくなっており、女子バレーボール部は安曇野市豊科北中、生坂村生坂中の計3人を加えた計6人の「合同部活」として活動している。部長の三浦羽未(うみ)さん(14)=2年=は「最初は(他校の生徒と)打ち解けるのに時間がかかったけれど、一緒に練習できるのはありがたい」と複数校によるチーム編成の必要性を訴える。
地域移行では、より多くの学校から生徒が集まるようになる。選手同士のコミュニケーションを深める方策も検討すべき課題となりそうだ。
地域移行には、指導者の確保と生徒の移動手段が大きな課題です。飯島町は本年度中に男子バレーボールのクラブが活動を始める予定ですが、当面は中学校の教員が休日の指導も担います。継続的に指導できる人を探すのはなかなか難しいです。
地域移行には、クラブ活動をしたい子どもだけが参加するようになる―と予測する人がいます。塾などと同じように送迎や費用も保護者が負担するものと捉える考え方もあります。しかし、運動や文化芸術活動をしたい子どもの思いを第一に大切にしたい。
クラブに移行すれば、生徒の加入率は下がる可能性があります。家庭の経済事情で参加できない子が出ないか心配です。移動手段を確保できない子もいるかもしれません。何らかの支援が必要だと考えています。
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