( 249916 ) 2025/01/15 17:56:03 0 00 2025年度税制改正大綱について記者会見する、自民党の宮沢洋一税調会長(右)と公明党の赤羽一嘉税調会長=2024年12月20日
昨年、話題になった「103万円の壁」だが、他にも「106万円の壁」や「130万円の壁」など、境目となる壁がある。見直し議論のポイントを解説する。AERA 2025年1月20日号より。
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103万円の次に現れるのが「106万円の壁」だ。こちらは税制ではなく、「社会保険の壁」となる。
会社員らに扶養されている配偶者は「第3号被保険者(3号)」と呼ばれ、社会保険料を納めなくても老後の基礎年金を受け取れる。だが、(1)従業員51人以上の会社で、(2)週20時間以上働き、(3)月収約8.8万円(年収約106万円)を超す──などの要件を全て満たすと、配偶者の扶養を外れ自分で厚生年金や健康保険の保険料を納めなければならない(学生は除く)。
例えば、年収が106万円に達したとたん厚生年金に加入し健康保険料を払わなければいけなくなり、手取りの目減りを防ぐには、年収が125万円になるまで働く必要がある。そのため「働き損」となり、人手不足に拍車をかけていると言われ、専門家は年収の壁の「本丸」と指摘してきた。
厚生労働省はこの「106万円の壁」を撤廃し、「週20時間以上働く人は原則として厚生年金に入る」というルールに見直す。通常国会での法改正を目指し、26年10月には撤廃したい考えだ。
厚労省の狙いについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・チーフ日本経済エコノミストは「年金財政の持続性の確保にある」と言う。
「現在、第3号被保険者は約686万人います。この第3号を縮小したいというのが政府の考えです」
実際、106万円の壁が撤廃されることで厚生年金への加入者は約200万人増える。そして、例えば、年収117万円で20年間厚生年金に加入すると、老後の年金額は国民年金と合わせて年約92万円と、国民年金だけの時に比べ年約12万円多いことになるという。
「年金財政を所管する厚労省とすれば、年金財政の持続性を担保する責任があるので、なるべく多くの人に厚生年金に入ってもらい保険料を払ってほしいと考えています」(酒井氏)
だが、どうなるかわからない未来より、現在の手取りが減るのを心配する人は少なくない。
「将来何歳まで生きるのか明確ではないので、老後にもらえるお金を増やすより、いま損したくありません」
と話すのは、フリーのキャリアコンサルタントとして働く都内の女性(52)。
■文字どおり「働き損」
女性が意識しているのは、106万円の壁の次に現れる「130万円の壁」だ。130万円を超えると、厚生年金が適用されていない従業員50人以下の企業に勤めている人も、扶養から外れ、国民年金(月1万6980円)と国民健康保険(地域ごとに異なる)を納めなくてはならない。しかも、新たに保険料負担が発生しても年金給付は増えない。年金や医療が充実する106万円の壁と違い、文字どおり「働き損」だ。
女性は、3年前に結婚すると長年勤めていた会社を辞め、夫の扶養に入りフリーランスで働き始めた。本当はもっと働きたいが、年収130万円を超えないよう調整しながら、月10万円を目安に働いてきた。
「そもそも『壁』や『扶養』という考え方を撤廃して、働いている人は自身の収入に合わせて納税し、働いていない人は国民年金を払うようにすればいいと思います」(女性)
税法学者の三木氏は、「『壁』によって、手取りが減る仕組みが人々の行動を著しく制約してきた」と批判する。背景にあるのは「利権の争い」だと。
「国税は財務省、地方税は総務省、 保険料は厚労省がそれぞれ省の特権として握っています。この3省がそれぞれの利権で引っ張り合っているから、統一した合理的な仕組みをつくることができませんでした」
■壁ができない仕組みを
改めるには、権限を持っている省庁を一本化して、国民にとって合理的な制度に変えていかなければいけないと語る。
「オランダでは数十年かけ、所得税と国民健康保険料を一体化する議論を進め、所得控除を廃止し税額控除へ改めました。日本でも省庁の垣根を壊して、税と保険料の負担の全体像を示し、逆進的でなく、壁もできない仕組みをつくることが、政治に求められています」
酒井氏は、今回の「103万円の壁」の議論を機に「年収の壁について国民的議論が盛り上がったことに意義があった」と語る。
「例えば、106万円の壁を突破した瞬間に手取りは減ります。しかし、もう少し頑張って125万円以上働けば減った分を取り戻せ、そこから先は手取りが増えていきます。しかも将来、厚生年金も上乗せされます」
それは本人のキャリアという視点から見てもいいことでもあるという。
働き控えをしている人は、今以上のキャリアを築くことは難しい。キャリアを実現したいのであれば、目先の手取りでなく「壁」を超え働くことの方が重要になってくる、と。
「一人一人どういう人生を実現したいか、今回の議論をきっかけに考えてほしいと思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2025年1月20日号より抜粋
野村昌二
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