( 250371 ) 2025/01/16 17:21:06 0 00 フジ株主の米国ファンドが第三者委員会を要求した。極めて真っ当な要求と言えるだろう(写真:白熊/PIXTA)
中居正広さんと女性とのトラブルについて、また一つの話題が生まれた。
フジテレビの持株会社としてフジ・メディア・ホールディングスがある。その大株主(約6%の保有、関連会社を含むと約7%)が米国投資会社のダルトン・インベストメンツだ。
このファンドは、フジグループに対して、今回のトラブルにフジが関わっていないか第三者委員会による調査を要求した。また信頼回復のために何ができるか施策を検討するよう要求した。
■アクティビストの要求は真っ当だ
このダルトン・インベストメンツは、いわゆる「物言う株主」「アクティビスト」といわれる。コーポレート・ガバナンス、透明性確保の徹底を求めるものだ。この要求について話題になっているが、とても清々しい要求だと私は感じた。
まず基本的に、株式会社だから、持ち主は株主だ。さらにフジは上場しているから、さまざまな株主を自ら招いている。
そして、使命は株主価値の最大化である。「物言う株主」が日本ではどこか「輩(ヤカラ)」「ハゲタカ」のようなイメージがあるが、企業の経営方針にたいして意見を述べるのは当然だ。
また一般的に投資ファンドには、さらにその背後に多くの出資者が存在する。ファンドはファンドで、彼らにたいして損失を与えないようにせねばならない。
ファンドが特定株式会社の株主だったとして、その投資先が市場や視聴者から疑念をもたれているとすれば、潔白を証明してほしいと依頼するのはきわめて普通のことだろう。
ファンドとしては、投資先の企業価値を最大化することが当たり前であり、その責務を果たさなければ、自分たちに出資してくれる投資家へ十分なリターンを還元できなくなる。
これまた一般論では、投資先の問題を看過して企業価値を損なうリスクを放置すれば、ファンド自身が出資者から責任を問われることになりかねない。
とくにメディア企業は、スポンサーがいて制作会社がいてタレントがいて、視聴者がいる。信頼の維持が重要で、それが成長の礎になるのは間違いがない。いちおう調査をやったといっても、株主から不十分に見えるのであれば、それは株主の意見として聞くべきだろう。
■株主からの要望を企業経営改善のきっかけに
なお私が「清々しい」と書いたのは、これがフジの経営改善につながる可能性があるからだ。フジがダルトンからの要求に答える形で、できるだけの明確な根拠や証拠を用いて、フジとして無関係であると説明できればいい。疑念をただ否定すればよい話だ。
過去のすべて類似のトラブル事例が「ない」と、「ない」ことを証明するのは「悪魔の証明」といわれ論理上は不可能だ。
しかし完全に「ない」ことまで証明できなくても、第三者調査によりガバナンスの根本問題があるわけではないと説明することはできる。
姿勢を正す必要がなければ、むしろそれを示すことで株主やステークホルダーからの疑念を払拭できる。もちろん、もしその疑念の否定に虚偽があれば、市場からの信頼を失い、企業として淘汰される。
とはいえ、こうしたプロセスを通じて情報の正確性と企業統治の妥当性が確保されるのが、市場原理が働く資本主義経済の本質だといえるだろう。
また、コーポレートガバナンス・コードや証券取引所の要請によって、各上場企業は株主との建設的な対話を推進することが強く求められている。
たとえば東証は上場企業に対して、株主との対話や開示の充実を重視し、問題が起こった際には積極的かつ迅速な対応を促す姿勢をもつよう要求している。
ダルトンは大株主であるし、真摯に向き合うことが企業価値の向上につながる。繰り返すが、潔白であれば調査して説明するだけだからだ。
■お金がかかるが、それでもやるべき理由
第三者委員会の設置はかなりのお金がかかる。弁護士事務所の儲けのタネといわれるくらいだ。また、第三者といってもどんな人選にするかで結果は左右される。完璧な対策ではないと私は理解している。
しかし、私が勧める理由は、前述のとおり株主からの依頼である点だ。外野が何を言っても関係がないが、大株主の意向だ。
さらに加えて、同グループが報道機関である点だ。今もこれからも、現場の記者が他社(他者)の疑惑を調査する機会があると思う。その際に、取材先に厳しく追求しようとするとき、「御社だって……」とエクスキューズの余地を与えてしまうのではないかと思うのだ。
なお、「フジ・メディア・ホールディングスレポート」から引用すると、<ESGへの取り組みでは2023年11月に策定した「グループ人権方針」のもと、人権デューデリジェンスを推進するとともに、人権意識のさらなる向上を目指します。(中略)当社の持続的な企業価値向上と株主の皆様との価値共有を改めて図ることとするなど、引き続きコーポレート・ガバナンスの強化に努めてまいります>と宣言しているので、方向性は合致していると思われる。
■フジの件だけで終わらせずに
フジは情報を発信する側の企業だ。だからこそ目立ち、トラブル時には多くの人からの注目を浴びる。これは必然といえるかもしれない。
もちろん、メディア企業において、収益・利益の向上は重要だ。しかし、同時に信頼性、視聴者とのエンゲージメント強化などの、非財務的な要素も重要で、じわじわと企業価値に直結する。
なお、これからはメディア企業を離れて、業界に関わりなく述べる。
冒頭で私が「清々しい」と述べたのは、投資先の価値最大化と、株主への責任をまっとうしようとする、実利に根ざした行為だったからだ。もちろん人権も重要だが、企業価値という実利に直結するゆえの要求であるのは、とても明快だ。
現在、日本で上場している企業の多くが外国人株主だ。個人もいるし団体、ファンドもいる。「物言う株主」が嫌な場合は、株式市場から撤退する選択肢が残されている。市場に残るのであれば株主にしっかりと説明が必要だ。
そして現代では、そこに虚偽や隠蔽があると、ただちに内部から情報が漏れる。
いろいろな評価があるだろうが、上場企業が虚偽や隠蔽にまみれた発表をしても自浄作用が働くのだから、健全な社会になったということだろう。
とくに海外進出を図る、すでに海外進出済みの企業は、ESG(環境・社会・ガバナンス)や人権意識といった配慮と実施を求められている。株主との「あうん」から「対話の呼吸へ」。これは言葉遊びではなく、重要なことなのだろう。
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坂口 孝則 :未来調達研究所
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