( 250896 )  2025/01/17 17:00:50  
00

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JaCZhou 

 

「失われた30年」を抜け出すには何が必要なのか。投資家のジム・ロジャーズ氏は「人口を増やさなければ、日本は経済大国ではいられなくなる。外国人の移民を受け入れる必要がある」という――。(第2回) 

 

 ※本稿は、ジム・ロジャーズ(著)、花輪陽子(翻訳)、アレックス・南レッドヘッド(翻訳)『「日銀」が日本を滅ぼす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。 

 

■日本は破綻する可能性が高い 

 

 日本はお気に入りの国の一つであるが、本書で述べてきたように、明らかに大きな危機が訪れている。デフレからの脱却、少しはインフレ局面に移行した感はあるが、抜本的な改善には至っていない。 

 

 この先も、このまま状況を改善する抜本的な政策が行われなければ、第1回の記事で述べたように人口は減り続け、借金も増え続けていくだろう。生活水準ならびに国際競争力はさらなる下降線をたどり、企業の倒産や個人の破綻も増えるかもしれない。今の日本では考えられないような、治安の悪化も大いに考えられる。 

 

 このように、日本の未来は暗い。誰かがすぐに何かをしない限り、この状況は変わらないだろう。誤解を恐れずに言えば、日本そのものがデフォルト、破綻する可能性が高いと私は思っており、日本は正念場を迎えている。 

 

 「今度は違う」「日本は違う」と目を覆うのは、間違いであることを、多くの日本人は認識しておく必要がある。現に私だけでなく多くの日本人も無意識かもしれないが、何かがおかしいと感じ始めていたり、違和感を覚えていたりしているのではないだろうか。 

 

 そのような違和感は、次第に明確な認識へと変わっていく。「日本を捨てる」「日本を出よう」との意識だ。そして、そのような行動が起こされ、多くの日本人が日本から離れていった際には、ますます人口減少は進むことだろう。新たな人材が入ってくることも期待できない。 

 

■“繁栄を誇ったポルトガル”の歴史に重なる 

 

 つまり日本はこのままでは、衰退してしまうのである。このような状況は、かつて世界有数の繁栄を誇ったポルトガルの歴史とも重なる。南ヨーロッパのイベリア半島、ユーラシア大陸の最西端に位置するポルトガル。国の大部分を大西洋に面している恵まれた立地から、大航海時代にはパイオニアとして海外に進出していった。 

 

 中でも1400年代前半に、より積極的に海外進出を支援したエンリケ王子時代には、海外進出がより本格化する。次々と世界中の大陸や国に進出していき、アフリカやブラジルといった世界各国で植民地を拡大するとともに、農場を展開するなどして、勢力圏や経済圏を世界中に広めていった。 

 

 日本をはじめとする東南アジアも訪れている。日本においては、鉄砲、タバコ等を伝えるなど、西洋の文明や文化を紹介した功績も大きい。日本を代表する料理、天ぷらも実は名称も含め、ポルトガルが起源だとの説もある。このような大航海時代の礎を築いたエンリケ王子はその活躍や功績から、エンリケ航海王子と呼ばれることもある。 

 

 ところが1755年の11月1日に、ポルトガルの首都であるリスボンを、マグニチュード9ほどの大地震が襲う。津波や火災が発生し、街は壊滅状態に。死者も6万人ほどに上ったと言われている。ポルトガルはこの大地震をきっかけに、国内の政治や経済が混乱する。それまで世界を代表する貿易大国から一転、みるみるうちに経済が弱体化していき、歴史の表舞台から消えていった。 

 

 

■ポルトガルの「失われた250年」 

 

 250年の時を経て、2010年のギリシャ危機から始まった欧州信用危機の中で、2011年には自国での復興が難しいと判断することとなった。イギリスが衰退したときにも支援に乗り出したIMFのもと、経済の健全化を図ることになる。だが、欧州全体の経済状態が良くなかった時期と重なった不運もあり、衰退の一途をたどってしまう。株価は急落し、金利が高くなるなどの状態が続いている。 

 

 ポルトガルの停滞は、日本のように失われた30年という期間ではなく、250年もの間にわたって、である。つまり日本も経済や金融政策がうまくいかなければ、今後数百年という長きにわたり、ポルトガルのような失われた時代が継続する可能性があるのだ。 

 

 日本がポルトガルのように長い間、不毛な時代を送らないためにはどうすればよいのか。日本をデフレなどの経済不安から脱却させ、再び成長軌道に乗せることができるだろうか。 

 

 本稿では、日本が再び以前のような経済大国に復活するために政府や日銀はどのような取り組みや政策を行うべきか、私の考えを改めて日本人に伝えたい。 

 

■歴史を学び、長期的な視点で改革を 

 

 まずは、本書で何度も述べてきたように、歴史をしっかり学ぶこと、過去の事例を徹底的に調べることが重要だ。というのも歴史から学ぶことの重要性は、私たちのような一般市民には理解できても、為政者たちにはなかなか響かないからだ。 

 

 ドナルド・トランプ元大統領が「自分は歴史よりも賢い」と豪語したことは、象徴的な例と言えるだろう。しかし歴史の教訓を無視することの危険性は、これも歴史が物語ってきたことでもある。 

 

 将来のことを考えた長期的な視点で、抜本的な改革を行うことも重要だ。現在の政策決定者たちである官僚や政治家は、往々にして短期的な視点で物事を捉え、目先の対応に終始している傾向があるからだ。 

 

 彼らは15年後、20年後の日本のことを真剣に考えているだろうか。残念ながら、私にはそのようには思えない。なぜなら彼らの多くは、そのころには現役を退いているか、この世を去っているかもしれないからだ。またこれまで何度か述べてきたように、目先、小手先の改善をすることが、保身にもなるからだ。 

 

 ただこのよう傾向は、日本に限った話ではない。アメリカの政治家たちも同様の姿勢を取ることが多い。だからこそ短期的な策ではなく、20年後、30年後の日本を見据えた政策、ならびにそのような政策をこちらも長きにわたり牽引していくことのできる、リーダーの存在も重要となってくる。 

 

 実際、私は投資判断をする際の重要な指標として、その国や企業のリーダーの資質や取り組みについて、徹底的に調べ上げている。 

 

 

■日銀は大量の紙幣発行をやめるべき 

 

 改めて、日本経済が復興するための取り組みについて述べていきたい。まずは、繰り返しの感もあるが、日銀は大量の紙幣を刷ること、巨額の負債を抱え続けることをやめるべきだ。そして、政府は借金を返済していく。お金は刷れば刷るだけ価値が下がり、相対的にものの値段が上昇するからだ。いわゆる、ハイパーインフレである。 

 

 実際、アフリカ大陸の南部に位置する共和国、ジンバブエがそのような道をたどった。1980年に英国から独立したジンバブエは、金やプラチナ、クロムといった豊富な鉱物資源に恵まれていた。アフリカの穀物庫と呼ばれるほどの農業大国でもあり、社会インフラも整備されていた。 

 

 このような環境であったため、農業、鉱業、製造業がバランスよく成長を遂げ、アフリカにおいて将来最も有望な国の一つとして、位置づけられていた。実際、多くの人々がジンバブエに移り住みたがり、移り住んだ人々は豊かな生活を送ってもいた。農家は大金を稼ぎ、輸出も盛んだった。 

 

 ところが、国が発展するために必要な優秀なリーダーが欠如していた。むしろその逆で、ロバート・ムガベという独裁的な人物が、首相や大統領に就任してしまう。ムガベが独裁を進めていった結果、ジンバブエのかつての隆盛はまたたく間に失墜。国際社会からの孤立や貧困問題なども生じるようになり、見るも無惨な、以前とは打って変わった後進国に堕(お)ちてしまう。 

 

■アフリカ・ジンバブエの失敗 

 

 ムガベが行った、間違った、稚拙とも指摘される経済政策は数多くあるが、本書に関係する内容の政策は、2000年代に行われた2つだ。 

 

 1つ目は、労働者からの賃上げ要求への対応や選挙費用を捻出するために、ジンバブエの通貨であるジンバブエ・ドルを発行し続けた。その結果、物価は極端に上昇することになる。 

 

 2つ目は、農地の強制収容だ。ムガベは黒人を優遇するために、黒人が白人の地主から農地を奪うことを合法化し、最終的には白人から資産を没収するような政策を実行した。そして、農地と仕事を奪われた白人は国外に逃亡するという事態を招く。 

 

 ムガベ自身はこのような結果に満足したのかもしれない。しかし、土地を奪った黒人は農業のノウハウを持っていなかった。その結果、かつてはアフリカの穀物庫と称されたジンバブエの農業生産性は大きく下落していった。 

 

 そして、しまいには自国の食糧まで不足する事態に陥る。しかし、このような状況になってもムガベはさらなる暴挙に出る。ジンバブエで事業を行っていた海外企業の株式の過半数を、ジンバブエの黒人に与えろとの政策を行ったのだ。 

 

 

■日本も「ジンバブエ」になる可能性がある 

 

 農業に加え、他のビジネスもまともにできなくなった外資系企業は、一斉にジンバブエから撤退していった。その結果、ジンバブエのもの不足はさらに深刻化する。ものが不足すれば価格は当然上がる。さらには先述したように、莫大(ばくだい)な量のお金を印刷していた。インフレは止まることなく急激に進み、町のスーパーの棚からは品物がまったくなくなるという状態になった。 

 

 このように、優秀ではないリーダーが稚拙な政策を実行したことにより、かつては大繁栄していたジンバブエが、今では世界で最も貧しい国の一つになってしまったのである。日本人の多くは、ジンバブエが経験した歴史を「私たちとは関係ない」と言うかもしれない。しかし私から見れば、日本もジンバブエのような危機的な状況に陥る可能性は十分にある。 

 

 続いては本書の1章でも少し触れたが、日銀はマーケットに介入するべきでない。市場から撤退し、市場に主導権を握らせる。日銀が金利を決め、為替に介入するといった政策を改める必要がある。自分たちで何かを決定する、決定できるという体制や姿勢、思考を改めるべきだ。 

 

 金利が高すぎると感じても、通貨の価値が下落する局面を迎えたとしても、日銀は介入しない。市場が決めたことだと思い、受け入れるのである。確かに日銀には、非常に教養のある優秀な人材が豊富にいる。しかし先ほど述べたように、市場の判断の方が賢明で優秀だと思うからだ。 

 

■「市場」の持つ力に委ねるべき 

 

 実際、市場が主導権を握り金利を自由にさせれば、日銀がどれだけ国債を買おうが、何をしようが関係なくなる。日銀はさらにお金を刷るかもしれないが、市場はそれすら気にしなくなるだろう。そして金利は、正常な値へと自然と導かれていくのである。 

 

 もちろん、市場が主導権を握ると経済の危機や場合によっては崩壊につながる可能性もある。しかし、そのような状況はあくまで短期的な痛みであり、長期的な目線で見れば、市場の持つ力の方が、日銀などの中央銀行よりも経済を正常化させる可能性がある。これも、歴史が物語っている。 

 

 長年言い続けてきたことでもあるが、勤勉な人が成功しないわけがない。これは、国でも該当する。実際、今から数十年前に日本が戦争に負け、焼け野原となった状況から劇的な、世界でも類を見ないような経済復興ならびに発展を遂げたのは、日本国民の多くが勤勉で、努力したからに他ならない。 

 

 国の政策が良かったからでもなく、日銀がマーケットに介入し金融政策を行ったからでもないのである。つまり再び日本が元気を取り戻すには、政府や日銀に頼ることなく、日本人が以前のように勤勉で努力する必要もある、ということだ。 

 

 

 
 

IMAGE