( 250951 ) 2025/01/17 18:09:05 0 00 中居正広さんの女性スキャンダルが、連日大きく報道されています。「9000万円」とも言われる示談金の多寡がネット上では話題になりますが、筆者は「その議論は不毛でしかない」と指摘します(編集部撮影)
中居正広さんをめぐる女性トラブルは、相次ぐ続報により、ついには番組の降板にまで発展した。今後の芸能活動に注目が集まるなか、被害女性に支払われたとされる「9000万円の解決金(示談金)」が、しばしばSNS上では話題にあがる。
しかし筆者は、その議論が不毛でしかないと感じている。なぜ、そう考えるかを説明しつつ、ネットメディア編集者として、「それでもなお、各社が見出しに『9000万円』を入れたがる理由」を考察したい。
■日を追うごとに厳しくなる、中居氏の状況
2024年12月下旬に『女性セブン』『週刊文春』などが相次いで報じた、中居さんのスキャンダルは、2025年に入っても話題になっている。
1月15日の「週刊文春 電子版」には、ついにフジテレビの現役女性アナウンサーによる「告発」が掲載された。
そこではフジ編成幹部から酒席に招かれ、中居さんらも同席していたと説明。その後、別室にいた別の男性タレントから「全裸になって手招き」されたとのエピソードを明かしている。
■各番組が中居さんの降板や番組の休止を発表
中居さんをめぐる状況は、日を追うごとに厳しくなっている。
日本テレビは1月15日、「中居正広さんサイドと対話を続けてまいりましたが、様々なニュースを扱う番組の司会という役割などを鑑み、総合的に判断」したとして、約24年間MCを務めた「ザ! 世界仰天ニュース」の降板を決めたと発表した。
渦中のフジテレビも、1月12日から休止している「だれかtoなかい」を3月いっぱいで終了し、直後の時間に放送されている情報番組「Mr.サンデー」を、4月から拡大するようだ。
フジ系列のサンケイスポーツが1月15日に報じているということは、ほぼ確実なのだろう。
中居さんの芸能活動が、今後どうなるのか注目をあびるなか、ネットユーザーの論点として挙げられがちなのが、解決金として支払われたとされる「9000万円」だ。これが高いか、低いかといった論争が、日夜行われている。
Xの投稿を見ると、過去の芸能人によるケースと比較しつつ、「異例の高額ぶりだ」との評価が見られる。また一般的な示談額は、数百万円程度であるとして、社会的地位の高さに言及する内容もあった。しかし、これらの反応は、不毛でしかないように感じられる。
そもそも「適正額」を、どのように判断するのか。どのような性的行為に及んだか、詳細は公表されておらず、過去の判例と照らし合わせることは難しい。
精神的苦痛を訴える被害者側が、現時点で自ら語ることは考えにくく、また中居さん側にも守秘義務が存在するであろうことから、被害の金銭換算は容易ではない。
もうひとつの算定基準として、被害者が仕事を含めた生活の見直しを要したことに対しての機会損失がある。しかしこちらも、被害者が「芸能関係者」と、報道において職業や経歴が明かされていない以上、算出は難しいだろう。
なお一部SNSでは、状況証拠から被害女性の氏名や前職を推測して、その人物である前提のもとで、この事案に触れている投稿もある。ただ、あくまで現状の報道ベースでは、「芸能関係者の20代女性」でしかないことに留意が必要だ。
■なぜメディアは「9000万円」を使い続けるのか
このように、解決金の金額をことさらに取り上げる必要はないと考えられるが、雑誌電子版を含むメディア各社は「中居正広9000万円トラブル」を見出しに取った記事を乱発している。
しかし、それらの多くは、メインに解決金を据えた内容ではなく、また、その多寡を論じるものでもない。あくまで「事案名」としてタイトルに盛り込んでいるだけだ。
では、なぜ「9000万円」を使い続けるのか。ネットメディア編集者として10年以上の経験から考えると、「目を引く見出しだ」と感じる。まず浮かぶ理由は、「解決金の金額が一般的に知られておらず、いまなお目新しさを保っている」可能性だ。
「9000万円」そのものがニュースバリュー(報道価値)を残している場合、見出しに取ってもおかしくはない。しかしこの金額は、ここ数日で明らかになったものではない。もうすぐ初報から1カ月が経つため、単体でのバリューはさほどないと考えられる。
そこで思いつく背景が、「額面以上にインパクトのある追加情報がない」ことだ。1人でも多くの読者に読んでもらうためには、見出しからして強いものを用意する必要がある。しかしながら、それに足りるプラスアルファがなければ、いつまでもしがみつくしかない……といった事情も理解できる。
また、場合によっては「他媒体がやっているから、なんとなく」という事情もあるかもしれない。自社では手応えを感じていないが、各社が多用しているなら「ウケる可能性」があるからと、とくに考えずに採用している可能性もある。
ここまでいくつかの理由を挙げたが、それらの行き着く先は、最終的に「閲覧数が稼げるから」へ集約される。
具体的な数字を加えることで、読者の閲覧意欲をかきたてるテクニックは、「街のおいしいグルメ10選」といった記事で見たことがあるだろう。
また、解決金としての多寡は別として、一般的な金銭感覚からして、9000万円は大金の部類になる。あえて書くことにより、浮世離れした印象を与え、報道ではなく「小説感覚」で読ませようという意図もあるかもしれない。
ゲスな編集者だったら、「1億円のほうがよりインパクトがあったのに」と残念がっている可能性すらある。
しかし、こうした「9000万円」見出しは、近々姿を消すだろう。その一番の理由は、本件がすでに中居氏個人の女性問題にとどまらず、編成幹部を軸にしたフジテレビのコーポレートガバナンスやコンプライアンス、そして業界慣習の抱える「旧態依然とした闇」の問題になりつつあることだ。
今回、現役アナが証言したことにより、今後さらにフジ社内からのリークが出ることは避けられないだろう。また、きっかけはフジテレビだとしても、その後に他局での類似事例が報じられるかもしれない。
そして、業界内の「あるある」だと判明すれば、芸能プロダクション各社も知らないわけがない……となり、疑惑は雪だるま式に膨らんでいく。
■物事の本質を見失ってしまう
そう考えると、もはや「人気タレントのスキャンダル」にとどまらない。ゆくゆくは放送法を所管する総務省も動き出すかもしれない。
現状で村上誠一郎総務相は、「放送番組にどのようなタレントを起用するかを含め、放送事業者の自主自律を基本とする放送法の枠組みの下、放送事業者において検討し、自主的に判断されるべきもの」(1月10日の会見)との立場から、大臣としてのコメントを控えているが、もし業界全体の問題となれば、異なる対応が求められるだろう。
■メディアも、より本質的な追及が必要になっている
こうした事態の変化に、「9000万円」を見出しに取るメディア各社は、どう適応していくか。
疑惑の規模が大きくなる一方で、それでもなお、「個人の解決金」を前面に押し出し続けると、「中居ひとりに押しつけている」となりかねない。
もちろん(報道が事実なのであれば)擁護しているわけではない。フジテレビや中居さんには、しかるべき対応が必要だと感じるのだが、そこだけを近視眼的に見てしまうと、物事の本質を見失ってしまうのではと心配なのだ。
確かに「9000万円」は、一時的なPV(ページビュー)につながるだろう。閲覧数の稼ぎ時だからと、乱発したくなる気持ちは、同業者としてよくわかる。しかしながら、時々刻々と状況が変化するのが、ネット社会の醍醐味だ。
状況の変化に合わせて、見出しも内容もシフトしていく。そのためには、目先のPVを追うのではなく、中長期的に見通して、時に「稼げる角度」を捨てる判断も重要だ。中居さんのスキャンダルを受けて、意識改革が求められているのは、ネットメディアも同じなのだ。
城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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