( 251181 ) 2025/01/18 05:21:34 0 00 Photo by iStock
「イッキ飲みは普通のこと」「上下関係を学ぶ大事な場」だった昭和当時の飲み会文化。しかし今や、若者たちの間では「ご飯会」という言葉が主流となり、職場の飲み会には「気を遣う」「コスパが悪い」といったネガティブなイメージが付きまとう。
なぜ彼らは飲み会を避けるのか。SNSやオンラインツールに慣れ親しんだZ世代の価値観や、彼らが求める新しいコミュニケーションのかたちとはーー。筑紫女学園大学現代社会学部教授・藤原隆信氏が、学生たちの本音を探る。
Photo by iStock
年末年始はお酒を飲む機会が増えます。昭和世代の私にとって、「飲み会」は良好な人間関係を築く場というイメージが強いです。学生時代に体育会系の部活をやっていた私の場合、「飲み会」は単なる人間関係ではなく、上下関係の構築や先輩(上司)に対する礼儀作法を学ぶ場でもありました。
私が学生時代を過ごした1990年代、通常「飲み会」は居酒屋で開催され、イッキ飲みはごく普通の風景でした。「合コン」という言葉もあちこちで耳にし、飲み会は男性と女性が出会う場でもありました。
しかし、最近の若者を見ていると、このような「昭和界隈」の飲み会のイメージは全く通用しないように感じます。「みんな、合コンとかしないの?」と聞くと、「先生、“ゴーコン”って何ですか?」と聞き返されます。もはや、「合コン」という言葉すら知らない学生がほとんどです。
以前は学期末などに学生達と一緒に「飲み会」をすることもありましたが、最近、特にコロナ禍以降はほぼなくなりました。「人間関係を深める場」として捉えている私たち昭和世代にとっては、何とも寂しい限りです。
学生達と話をしていると、「飲み会」という言葉すらあまり聞きません。女子大生ということも影響しているのか、学生達は「ご飯会」という言葉で“飲み会”を表現しています。いや、この表現自体が誤りで、「ご飯会」は「飲み会」ではないのかも知れません(怖くて聞けません……)。
なぜ、これほどまでに「飲み会」の地位は下落したのでしょうか。
そのような近年の若者の意識が気になり、「職場の人との飲み会」のイメージを聞いてみました。当然、今は学生という立場なので就職後のことをイメージしてもらいました。
(※Google Formでアンケートフォームを作成し、無記名方式で回答してもらいました)
まず、「職場の人との飲み会」に参加してみたいかどうか聞いてみたところ、「積極的に参加したい」(12.2%)、「どちらかと言うと参加したい」(26.5%)、「どちらとも言えない」(20.4%)、「あまり参加したくない」(32.7%)、「絶対に参加したくない」(8.2%)、という結果になりました。
微妙な結果となりましたが、「参加したい派」が約4割いることに少し安心しました?! 一方の「参加したくない派」も4割いるのですが……。
次に学生達には、「職場の人との飲み会」に対するイメージを聞いてみました。すると、多くの学生が「気を遣う」というイメージを持っているようでした。具体的には、「上司の機嫌取り」、「人の顔色を伺う場」、「自慢話を聞く会」、「上司を立てて盛り上げる役」、「仕事の話が止まらない年代が上の人」、「おじさんの話に付き合う」、「めんどくさい」のように、上司に対して気を遣わないといけないというイメージが強いようです。
授業の冒頭にアンケートをお願いし、リアルタイムで書き込まれる回答をスクリーンに掲示しながら学生達と一緒に眺めていたのですが、昭和世代の私にとって一つ一つの回答が心に突き刺さりました……。その日の授業は非常に喋りにくかったです。
当然、プラスのイメージ(人脈を広げる場、親睦が深まる、上司と仲良くなるチャンス、等)を抱いている学生もいましたが、先の質問の「参加したい派」(約4割)には遠く及びませんでした。今どきの学生は「職場の人との飲み会には参加したい」と思いつつも、あまり良いイメージは持っていないようです。
若者達に「飲み会」を好意的に捉えてもらうためには、彼・彼女たちに気を遣わせないようにし、昭和世代のオヤジはあまり喋らない方が良いのかも知れません。そうなると、こちらが「気を遣う」側になってしまいそうですが。
先に見たように、最近の若者が「職場の人との飲み会」に抱くイメージは決して良いものではありません。その理由を、最近の若者(Z世代)の特徴と絡めてもう少し深掘りしてみたいと思います。
<プライベートを重視する若者達>
最近の学生達は、「プライベート」を重視する傾向が強くなっていると感じます。授業内でのディスカッションが長引き、時間通りに授業が終わらないことがあると、学生達から「次の予定があるので時間通りに終わってください」とクレームが出ることがあります。
(※詳しく聞いてみると「バスの時間に間に合わせたい」とのこと。「一本後のバスにすれば良いのでは?」とも思いますが、授業を時間通り終わらせるのも教員の責任なのでそこまでは言えません)
「プライベート」を重視する若者達にとって、職場での飲み会は「仕事の延長」なのでしょう。職場での飲み会は仕事終わりに開催されることが多く、若者達は「貴重なプライベートな時間が奪われる」と感じるのでしょう。彼・彼女たちは、「仕事」と「プライベート」を明確に分けようとする傾向があり、プライベートは自分の趣味や娯楽、友人との時間に使いたいと考える傾向があります。
<コミュニケーションスタイルの変化(昭和世代への違和感?)>
SNSやオンラインツールを利用し、日常的に同じ趣味や娯楽を共有できる人との「繋がり」に慣れ親しんだ若者にとって、異世代(特に昭和世代?)との交流には抵抗があるのでしょう。特に、昭和世代から続く「飲み会文化」(「上下関係が持ち込まれること」や「無理やりお酒を勧めること」など)には明確に拒否反応を示します。今どきの若者はアルハラ(アルコールハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)にも敏感であり、昭和的な感覚が通用しないのでしょう。
また、昭和世代は「お酒を飲みながらじっくり話をして人間関係を深める」というイメージがありますが、日常的にSNSやオンラインツールに慣れ親しんでいる若者にとって、このようなコミュニケーションのあり方は、「時間がかかりすぎる」、「効率的ではない」と感じているようです。
対面でのコミュニケーションの重要性は理解しつつも、「お酒が必要なの?」、「もっと短時間で良いのでは?」と疑問を抱き、わざわざ仕事終わりに居酒屋に行って数千円払ってまでやる「飲み会」、「コスパが悪くね?」「タイパ悪くね?」と思ってしまうのは無理もないのかもしれません。
ちなみに、「コスパ」はコストパフォーマンスの略、「タイパ」はタイムパフォーマンスの略です。最近の若者は、「コスパ」「タイパ」を非常に重視します。なお、私のゼミナールでは、学期の最終授業が終わったらそのまま教室でピザのデリバリーを注文し、「ピザパ」を開催することがよくあります。当然お酒はありませんが、「タイパ」「コスパ」は最強です。
以上のような特徴を持つ最近の若者達。しかし、昭和世代のオヤジ(サラリーマン?)にとっては「飲み会の良さ」も知ってもらいたいところ(この考えがもう古いのかも知れませんが……)。昭和世代のオヤジは、これから社会に出てくる若者達との「飲み会」をどのように位置づけ、捉えていけば良いのでしょうか? また若者達にどのように接していけば良いのでしょうか?
<飲み会の「意義(目的)」を捉え直す>
昭和世代にとって、飲み会は職場の人間関係を築くための大切な「場」(手段・方法)でした。しかし、今どきの若者にとっては、別の方法で同様の目的を達成する方が良いのかも知れません。たとえば、飲み会に代わる交流の場(ランチミーティングやカフェでの軽い交流会)を設けるなど、若者たちにとって負担の少ない方法・形式で開催することも有効でしょう。
<「飲み会」のやり方を考え直す:上下関係ではなく対等な関係が重要>
飲み会の「やり方(形式)」を考え直すことも必要でしょう。いわゆる「昭和的な飲み会(居酒屋でガッツリ飲んでワイワイガヤガヤ)」ではなく、多様な世代・価値観の人が楽しめるようなやり方で「令和の飲み会」を再検討することです。たとえば、お酒を飲まない人が楽しめるようなプログラムを考えたり、食事の内容や場所(お店)に配慮すれば、より多くの人が「参加してみたい」と感じるようになるでしょう。
また、昭和世代のサラリーマンは、上下関係を重視する傾向がありますが、今どきの若者は対等な立場、対等なコミュニケーションを好みます。飲み会の場でも、あまり上下関係を意識させないような雰囲気を作ることが重要です。上司が一方的に話すのではなく、若者達の意見や話題に耳を傾ければ、若者にとって楽しい交流の場になるでしょう。
<「強制しない」ことが人間関係・信頼関係を深める>
自主性・自発性を重んじられ、褒められて育った最近の若者たちにとって、自分の意志を尊重してもらえることは非常に重要です。「参加しなくてもOK!」という姿勢を明確にし、無理に誘うことは避けなければなりません。また、飲み会の参加・不参加が、その後の人間関係や仕事の評価に影響しないことをしっかり伝えておくことも大切です。そのような姿勢を示すことが信頼関係の構築に繋がることになるでしょう。
また、「飲み会」に参加する若者の中には、「お酒は飲みたくない」、「飲み会よりも他の活動に時間を使いたい(≒二次会は避けたい)」と考える人もいます。そのような考え(価値観)を否定せず、理解を示すことが重要です。その人の考え(価値観)を尊重することで、信頼関係を深めることもできます。
近年の若者が「飲み会」に対して抱くイメージは、昭和世代のそれとは大きく異なります。背景には、社会全体の価値観の変化や働き方の多様化、SNS等を通じた新たなコミュニケーションスタイルの登場、個人の自由を重視する風潮などがあります。昭和世代のサラリーマンが若い世代と良好な関係を築くためには、昭和的な「飲み会」のあり方を再考する必要があるでしょう。
飲み会の目的は、「飲み会そのもの」ではなく、より深い人間関係の構築にあるはず。その「目的」に即した、令和的な新しい交流の場(新たな飲み会?)を模索していく必要があるかも知れません。そのためには、多様な価値観に配慮し、対応できる柔軟な意識や姿勢が求められます。そのような意識や姿勢こそが世代間のギャップを埋め、より良い職場環境を築くことに繋がるのだと思います。
* * *
このように「飲み会離れ」の風潮が強まる中では、「飲みニケーション」の意義を疑う若い世代も増える一方だ。つづく記事〈ソニー元CEO・平井一夫「飲みニケーションに意味はあるのか?」たった一つのシンプルな答え〉では、ソニー元CEOの平井一夫氏が、これからの時代の「飲みニケーション」のあり方を提示する。
藤原 隆信(筑紫女学園大学現代社会学部教授)
|
![]() |