( 251331 ) 2025/01/18 14:54:53 0 00 Photo:VCG/gettyimages
● 中居氏と女性とのトラブルで 最もあり得ない対応をとる関係者
タレントの中居正広氏と女性とのトラブルが週刊誌で報じられ、中居氏自身が事実関係を認めるコメントを発表し、大きな話題となっています。何が起こったかについて、「被害」の内容は詳しく報じられていません。
被害女性と中居氏は9000万円の解決金で示談交渉を行い、守秘義務を約束しており、またそれを蒸し返すのはセカンドレイプにもあたるという側面があるからです。
しかし、私はそれ以上に、この事件との関係性が報じられているフジテレビの対応があり得ないことを、もっと声を大にして糾弾すべきだと考えます。
まず、事実関係を整理すると、今回の事件報道をリードしている『週刊文春』は、記事中でこの女性を「芸能関係者」としています。一方、他の一部メディアによると、この女性は事件当時、フジテレビに所属していたとされています。
これらを考え合わせると、文春は現在被害女性がフジテレビ社員ではなく、おそらくはフリーで活動する立場にあるため、あえて「芸能関係者」という呼び方をしていると考えられます。目下、この女性に関するフジテレビ側からの一般に向けた詳しい情報提供はありません。
こうした状況に鑑み、本稿では、被害女性が事件当時、フジテレビに在籍していたという前提で話を進めることを、お断りしておきます。そうした前提で考えると、足もとのフジテレビの対応にいかに問題があるかが、よくわかります。
文春での証言によれば、被害女性は同局の編成幹部から食事会に誘われたものの、当日彼を含む参加者全員がドタキャン、中居氏と密室で2人きりになった際に性的トラブルが起こったといいます。これは彼女が、業務の一環としてその場に訪れたと判断すべきです。
しかし文春によると、彼女は後日、「被害」を局の幹部に相談したものの、彼らは何も行動を起こしませんでした。それまでに他の関係者(複数の報道では、かなり特定されています)も幾度か中居氏との飲み会などをセットされ、出席していたとされることを考えれば、局側が中居氏の行動を知らなかったはずはありません。
また、女性から相談があった時点で、フジテレビはまず中居氏に対して事情聴取すべきだったのに、それもしませんでした。
事件が起こったのは2023年6月。その後、『まつもtoなかい』など、フジテレビの主要出演者である松本人志氏の不同意性交があれほど報道され、番組で是非が論じられていたにもかかわらず、今回の「被害」の調査もせず、ずっと中居氏を番組に出演させていたのは、無責任としか言いようがありません。
たとえば、私が所属していた文藝春秋で、売れっ子作家が女性編集者を密室に招き、二人きりになってこのようなトラブルを起こしたら、社はその作家と絶縁するか、社員に対する大きな賠償責任を求めるでしょう。文春に限らず、普通の会社なら関係者が業務上で受けた被害について、彼らを守る行動をとるのが当然です。
その上、被害女性はショックにより、精神疾患の症状が出て入院を余儀なくされたといいます。これは一般的に考えて、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した可能性が高いと思います。心の病が業務上の理由で発生した場合、会社はその責任の相当部分を背負うことが労働法で定められています。遅刻や休業が多くなっても、それを理由に解雇することは法律で禁止されているのです。しかし、彼女が退社を決断する経緯や、それに対する会社の対応について、フジテレビは発表していません。
● 被害女性に「仕事をするな」と 言っているようなもの
こうした事件が起これば、被害女性に対してだけでなく職場環境の調査をするのも、企業としてまた当然のことです。ましてや、ジャニーズ問題以降、性加害が本人だけでなく所属する組織の問題であるということは、フジテレビの報道番組でも何度も取り上げられているはずです。にもかかわらず、関係者が「被害」を受けたのに中居氏を調査もせず、ずっと番組に出し続けていたことになります。
これは被害女性の心情を考えれば、「会社に出社したくなくなる」、つまり「退社したくなる」ような気持ちにさせる行為です。なにしろ、中居氏によりPTSDを発症したとすれば、会社や職場、あるいは映像で彼を見るだけでも、大きなストレスを被る可能性があるからです。
フジテレビの怠慢な対応の結果、被害女性は自分で精神疾患の治療を受け、そして自分で弁護士を探したといいます。自分で探したということは、業務上受けた被害に対して賠償を求める費用を自分で負担したことになります。文春とフジテレビでは企業の規模が全然違いますが、メディアに関わる会社にとって、報道やエンタメの現場を守る思想も法律も、違うはずはありません。
そして私は、フジテレビの港浩一社長の今回の件に関するコメントを読んで、仰天しました。中居氏のコメントが出た直後の1月10日、港社長は全社員に向けて以下のようなメールを送信しました。
「職務に誠実に対応していた人が悪く書かれることは本当に残念」「社長として全力で皆さんを守ります」「社員を守る温かい会社でありたい」
この「全力で守る社員」とは誰を指しているのでしょうか。少なくとも被害女性はもう社員ではないはずです。彼女の周囲で飲み会などをセットして、タレントを接待するのが仕事だという慣習を押しつけてきた社員を守るとしか、読めない文面です。
その上で「昨年より我が社は外部の弁護士を入れて事実確認の調査をしており、さらに進めていきます」とし、「今こそ、我々は意識改革を行い、会社全体が変わっていかなければなりません」「コンプライアンスをさらに徹底し、ひとりひとりが存分に能力を発揮できる、働きやすい環境づくりにも努めていきます」と述べた上で、中居騒動の影響で“意識改革プロジェクト”がスタートしたと報告しています。
この段階で、外部弁護士の事実確認の調査が完了していないことは、一流企業としてお話になりません。中居氏がコメントを出す段階で、すでに確認作業は終わり、危機管理の4段階ともいうべき(1)調査、(2)謝罪、(3)処分、(4)再発防止策が同時に発表されていなければ、まともな企業とは言えないのです。
● フジテレビ社長は 責任を問われてもおかしくない
被害女性本人が「周囲に相談した」と文春に証言しているにもかかわらず、中居氏を使い続け、トラブルが週刊誌で明らかになり、さらに中居氏自身がコメントを出す段階で、ようやく調査をしていることを明らかにしたことなど、信じがたい行動です。私が株主なら、社長の責任を追及し、今回の事件をずっと秘匿していた幹部社員の処分や、被害女性への慰謝料や現場復帰への努力を要求するでしょう。
また、芸能界における性加害や性的接待の強要が何度も報道されている時代だからこそ、明確にそれを禁止する厳しいシステムの構築に努めるのが常識だと思います。
私は港社長のメールを厳しく問い質しましたが、これは嘉納修治会長や遠藤龍之介副会長にも、同じく責任があると考えます。特に遠藤氏は民放連の会長であり、ジャニーズ問題についても「自分たちの報道が不十分だったこと、制作に関わっている方々の人権に対する意識が低かったことは深く反省する必要がある」と記者会見で述べているからです。
深く反省するどころか、お膝元のフジテレビでは同様の性加害の問題をまったく解決しようとしなかったのです。民放連の会長である以上、テレビ業界全体の膿を出し切る責任があり、中居氏が犯した性加害がフジテレビだけだったのか、あるいは他の局にも及んでいたのかについての調査も、率先して発議すべきでしょう。
私は遠藤氏には、広報部長時代に何度かお目にかかりました。作家・遠藤周作氏の子息ということもあって、常識も教養も兼ね備えた立派な人だと思っています。もちろん民放連の会長ともなれば、社内のことは社長任せとなり、この事件を知らなかった可能性もあります。しかし、それならなおのこと、綱紀粛正と被害女性の救済には全力を注ぐべきです。
● 『海と毒薬』に見る日本人の欠点 テレビは信頼を取り戻せるか
お父上の遠藤周作氏には『海と毒薬』という名作がありました。太平洋戦争中に行われた敵兵の人体実験に参加した日本人科学者の心情を描いた作品ですが、日本人の欠点を深く考察したものです。その象徴が、以下の一説です。
「良心の呵責を感じながらも、人体実験への参加を呼びかけられ、強い反発もせずに漫然と関わってしまう。集団心理で平凡な人格の持ち主たちが非道に転んでしまう」
まさに中居問題でのフジの対応は『海と毒薬』の日本人そのものであり、遠藤氏には父親の名作が残した「日本人論」の意味を今、深く自らに問いかけてほしいと思います。
さて、最後に中居正広氏のコメントに戻ります。「今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」という部分は余計だというのが多くの識者の意見ですが、実際、どうやったら芸能活動を再開できるのでしょうか。
テレビはスポンサー収入が中心です。中居氏が復帰するためには、被害者に解決金を9000万円も支払うようなことをどうやってしたのか具体的に説明しない限り、スポンサーは納得できません。しかし、当事者間には守秘義務が存在し、中居氏はそれを説明することができません。
仮に女性側が譲って中居氏にある程度の説明を許した場合でも、たとえば企業CMは1人の社員の決済では決まりません。宣伝部から始まり、最終的には役員会の承認まで必要なはずです。その間、多くの人間が「被害」の実態を知ってしまい、守秘義務などなきに等しい状態になります。
そもそも守秘義務は、被害女性の尊厳を守り、再起を応援し、再発の防止を図るためにとられた措置です。その意味で、最後のコメント自体が中居氏の罪の自覚、謝罪の意識が希薄であることを示しています。ジャニーズ問題、松本人志問題と、テレビ局の姿勢は芸能人、芸能事務所に極めて甘いことが露呈しました。これでは、テレビへの信頼はますますなくなってしまうでしょう。
(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)
木俣正剛
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