( 251426 )  2025/01/18 16:47:07  
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新幹線(画像:写真AC) 

 

 新幹線で座席を倒すときに「後ろの人に一声かけるべき」という意見をよく聞く。確かに、公共の場では配慮が大切だ。しかし、この声かけが「絶対的なマナー」とされる風潮には、少し疑問を感じる。 

 

 本稿では、声をかけずに座席を倒すことがむしろ合理的な理由を考えてみる。この話題は実業家の堀江貴文氏(ホリエモン)がよく取り上げていることでも知られている。1月17日には、X(旧ツイッター)で次のような持論を投稿していた。 

 

「当然の権利なんだから文句言われる筋合いはありませんが笑」 

「知らん奴に意味のない事を話しかけられたくない。いちいち聞くなよと思う」 

「スタンダードにしようとしてこうやって問題提起してるんだよ」 

「基本的に知らん人にムダに声かけられるのがウザいんだよ」 

 

そもそも、新幹線の座席は 

 

「倒せること」 

 

を前提に設計されている。リクライニング機能は乗客が快適に過ごすためのものだ。これを利用すること自体がマナー違反だとはいえない。 

 

 声をかけるかどうかは、人それぞれの価値観や社会的習慣に影響されるが、その背景には効率性や合理性に関する考え方も潜んでいる。 

 

新幹線(画像:写真AC) 

 

 新幹線の座席を倒すときに声をかける必要がない理由には、いくつかのポイントがある。 

 

 まず、新幹線の座席はもともと倒れることを前提に設計されており、リクライニング操作は利用者が自由に行える権利として認められている。メーカーや運行会社もその行為を 

 

「正当な使用」 

 

として位置付けており、特別に許可を求めるようなものではない。さらに、リクライニングの角度は一定の範囲に制限されており、後ろの座席のスペースを完全に奪うような仕様にはなっていない。座席の後部には余裕が設けられており、この設計によって 

 

・倒す側 

・倒される側 

 

のバランスが取られている。こうした設計思想を考えれば、声をかけるべきだという考え方は、設計意図を過剰に解釈したものであるといえる。 

 

 また、声をかける行為そのものが心理的な負担を生むことも見逃せない。一見すると相手への配慮のように見えるが、後ろの人にとっては 

 

「断る権利がある」 

 

と錯覚させる可能性がある。それでも実際に断るのは難しく、むしろ余計なストレスを与えることになるのだ。さらに、声をかける側もまた、見知らぬ人に話しかけることに抵抗を感じる場合が多い。このような心理的な負担を考慮せずに声かけを 

 

「当然」 

 

とする風潮は、乗客同士に不必要な緊張を生むだけであり、むしろ新幹線という公共空間の快適さを損なう結果につながるだろう。 

 

 

新幹線(画像:写真AC) 

 

 新幹線は効率的な移動手段としての役割を果たしている。だからこそ、車内での行動もできるだけスムーズであるべきだ。座席を倒すときに声をかける手間や、それにともなうやり取りの時間は、たとえ些細なものであっても効率を下げる可能性がある。特に混雑している車内では、こうした行為がかえって煩雑さを増してしまうことも考えられる。 

 

 さらに、声をかける文化が広まると、声をかけずに座席を倒す行為が 

 

「不作法」 

 

とみなされる可能性がある。その結果、乗客同士のトラブルにつながる危険性も無視できない。声をかけるべきだとする意見にはいくつかの主張がある。ひとつは 

 

「思いやり」 

 

の観点だ。後方に幼い子どもや高齢者がいる場合、座席が突然倒れると驚いたり、不快に感じたりすることがあるという指摘だ。 

 

 しかし、この主張には矛盾がある。後ろの乗客がリクライニングされることを予測していれば、驚くことはないはずだ。加えて、新幹線の座席は急激に倒れる仕組みにはなっておらず、操作の過程で後方に「動き」を伝える設計になっている。つまり、声をかけなくても十分な配慮がなされているといえる。 

 

 もうひとつは「断る権利」の問題だ。声をかけるべきとする意見の中には、後方の人に断る権利を与えるべきだという主張もある。しかし、この考え方は新幹線の設計理念と矛盾する。リクライニング機能は全ての乗客に平等に与えられた権利であり、それを許可制にするのは不合理だ。 

 

 加えて、もし断る権利があるとすれば、それが他の乗客の快適性を損なう結果にもなり得る。例えば、長時間の移動中にリクライニングを使えない状況が続けば、体にかかる負担は増え、新幹線の快適性そのものが損なわれることになるだろう。 

 

新幹線(画像:写真AC) 

 

 座席を倒すときに声をかけないことは、 

 

・新幹線の設計思想 

・利用者の快適性、効率性 

 

を考えると、十分に正当化される行為だ。リクライニングはすべての乗客に平等に与えられた権利であり、それを使うのに特別な許可を求める必要はない。 

 

 ただし、乗客同士の円滑な関係を保つには最低限の配慮が大切だ。例えば、座席を倒すときはゆっくりと動かすことや、必要以上に倒しすぎないよう注意することが挙げられる。こうした行動は、声をかけるよりも実際的な配慮となるだろう。 

 

 新幹線はさまざまな人が利用する公共の場だ。そのなかで、みんなが快適に過ごすためには、 

 

「行き過ぎたマナー意識」 

 

を見直し、座席の設計意図を尊重した行動を取ることが重要だと思う。声かけにこだわらず、新しい文化を育てることで、もっと快適で合理的な移動体験が実現できるのではないだろうか。 

 

清原研哉(考察ライター) 

 

 

 
 

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